「じゃあ俺は討伐報告してくるな」


「うん、わかったー。適当にお店見てるね」



休息日、ユクラは買物の、ロクロウは依頼の報告のためローグレスに来ていた。空は赤と紺が混じり合い、薄暗くなっている。そろそろ閉まる店も出てくるため、足早に店舗へと移動し、目的の物を手に入れた。ロクロウが合流する気配はない。時間を潰しがてらふらふらと歩き回ることに決めた。


(そういえばこっちってあんまり来たことないなぁ…)


夕闇が辺りを包んでいく。さすが王都とあって人の数も多く、広い。元いた世界でも知らない街を探索するのが好きだったユクラは、興味本位で裏路地へと足を進めた。段々と人の数も減り、表の通りの雰囲気とはまた違うそれに気づくと、踵を返そうと立ち止まった、そのとき。


「おっ、おねーさんひとり?」


「こんなとこで何してんの?」


(なんて典型的な台詞!これは世界共通なんだ…!)


聖寮の統治下に置かれていても大きな街となると柄の悪い者もいるようだ。変な感動を覚えつつも、早くここから離れよう、そう思いユクラは断りをいれ、退散しようとした。


「すみません大丈夫です、もう帰ります…!」


「いやいや、いきなり帰るなんて冷たくなーい?」


「俺ら今飲んでるからさぁ、お姉さんも一緒に楽しもうよ〜?」


酒瓶片手に集まってきたのは四人。一応護身術は仲間に習ったものの、そんな人数相手にできるわけもない。しかも、周りはすっかり暗くなりかけていて、こんな裏路地に人を呼ぶこともできない。只のナンパならよかったものの、悪い予感しかしない。


「ひ、人と待ち合わせてるのでっ!」


「堅いこと言わずにさぁ…」


腕を捕まれ、少し蹌踉めいた。振りほどこうとすると、痛みが返ってくる。思わず顔を上げると、にやにやとこちらを舐め回すような視線とぶつかった。リアルな恐怖感が一気に押し寄せ、胸がヒヤリとする。


「はなしてっ…!」


「暴れんな!」


「おい、アレ使うか?」


「久々だしな…っと、ホラ、おねーさんいいモノやるから口開けろよ」


両手を捕まれ身動きが取れず、体が震えるのが解る。顎を捕まれ、顔を逸らそうとしても叶わず、無理矢理に酒瓶のようなものを口に差し込まれる。


「高いんだから零すなよ〜?」


鼻を摘まれ、息が出来ない。どうしようもなく注ぎ込まれた液体を飲み込むと、何とも言えない強い味がした。咽ながら喉が動くのを見て、男達はより一層にやにやとこちらを見ている。


「なに、飲ませた、の…」


咳き込みながら睨みつけると、一人の男が楽しそうに口を開いた。


「おねーさんが良くなるクスリだよ」


「もうちょい時間かかるから遊びながら待とうぜ〜」


身体にはまだ異常はない。しかしながら、この状況の先にあるのは絶望しかない。なぜこんなことになってしまったのかと後悔と恐怖が押し寄せる。男達に囲まれ、路地の奥、人気のない倉庫の前まで連れられた。今から起こることを想像して、余計に身体が震える。



「心水が美味い夜だわ〜」


「おねーさんも飲む?てか面倒臭いから脱がすか?」


「や…だ…はなして…っ!やめて、くださ…っ」


「かわいそーに怯えてんじゃん」


「暴れなきゃ痛くしないからさ〜?」


ロクロウ、助けて、そう叫びたかったが声が出ない。いつの間にか涙がぽたぽたと服に落ち、ひとりの男が胸元のボタンに手をかけた。目を強く瞑り、身体を捩って逃げようとした、その瞬間。


「ぐっ…!?」


鈍い音が複数鳴り響き、その刹那、足元に衝撃が伝わった。両腕の拘束が解かれたことに気づき、目を開けると、男たちが地に伏せている。


「ユクラ、大丈夫かっ!?」


「ロクロウ…!」


安堵してその場にへたり込むと、涙がぼろぼろ溢れてくる。


「こわ、かった、っ…」


「怪我ないか?立てるか?」


暫くの間抱き竦められ、震えが収まった頃、ロクロウが心配そうにユクラの顔を覗き込んだ。


「遅くなってすまん…。何もされてないか?」


「うん…変な薬みたいなの、飲まされたけど…今のところ大丈夫…」


「薬…?それ、大丈夫じゃないだろ?早く戻って診てもらうぞ」


手を繋がれ、路地を抜けようと歩き出す。何だか身体が火照ってくると共に、脈動が響く。指先に伝わる感覚がいつもより鋭い。


「まって、なんか…っ…」


「どうした?大丈…」


ロクロウの目に映ったのは、紅潮した頬でこちらを見つめるユクラ。息が荒くなり、目も潤んでいる。何だかまるで情事のときのような姿だった。


「熱、かな?なんかからだ、あつくて…」


「…ちょっといいか」


思うところがあってか、ロクロウはユクラの額に手を伸ばした。


「ひっ…!?」


触れた瞬間、ユクラの身体が大きくびくついた。今まで体験したことのない感覚に、ユクラの表情に困惑の色が混じる。


「…飲まされた薬、もしかして赤くてドロドロしたやつじゃなかったか?」


「わかんない、けど…そうだったかもしれない…」


成る程な、とロクロウが大きく納得した。そして先程の男達のように、口角を上げた。


「それ、ジョオウイカのエキスで作られた催淫剤だぞ」


「さいいん、ざい…?そ、それって!いつ治まるの!?」


「さぁなぁ…。聞いた話だとスッキリするまでとか、数時間とか、色々あるが」


「嘘、でしょ…」


「俺はこのまま戻ってもいいが…。いいのか?そんな状態で戻っても」


にじり寄るロクロウは、なんとも楽しげだ。先程まで眉を下げていたのに、この変わりように男達への怒りが湧く。後ずさるも、このまま皆のもとに戻るわけにはいかないどころか、いつ治まるかわからない。なにより自分の身体が刺激を欲していることは、自分が一番解っていた。


「うぅ…でも」


「そこに丁度いい倉庫が見えるんだがなあ〜?仕方ない、この儘戻るか。はぐれないように手繋がないとな」


再び触れられた指が、びくりと反応する。選択肢がひとつしかないことを表すように、唇を噛みしめると、ユクラはか細い声でロクロウに問いかけた。


「…この人たち、起きない…?」


「まぁ朝まで起きないんじゃないか?打ちどころが良ければ」


「………っ待って」


「何だ?」


羞恥心と恨めしい気持ちがあふれた視線を注ぐと、ロクロウは微笑み、通りの方向とは逆に歩みを進めた。


「はは、虐めすぎたな。ユクラ、こっちだ」


恥ずかしさで死にそうになりながら、倉庫の中へと入った。どうしていいかわからずにいると、後ろから鍵が閉まる音がした。その音で心臓が跳ね上がる。自分から求めることなど、初めてかもしれない。しかしながら、期待を抱く身体がどんどん熱くなるのが抑えられない。



「さて、どうしてほしい?」


後ろから抱き締められ、耳元で囁かれると、大袈裟に身体が震えた。自分の中の純粋な欲望が膨れ上がる。


「…ぃ、…ほし…」


「聞こえんなぁ」


「…いっぱい、してほし…っ」


「承知」


低い声が脳天に響く。下着が濡れてしまうのが解るも、最早そんなこともどうでもよくなってしまう。ロクロウは近くの木箱に腰掛け、同じ方向にユクラを座らせた。所在のない両手が、ロクロウの着物を掴んだ。


「ひぁんっ!」


「凄い効果だな」



布の上から胸を軽く触られただけで、甘ったるい声が口をついた。びりりと電撃が身体に走る。こんな感覚は初めてで、ただ戸惑うことしかできない。


「からだ、へんっ…!」


「だろうなぁ、早く治るといいな」


声が弾むロクロウは、心にもない事を言っていると理解するも、段々と頭の中が霞がかってゆく。本能に支配されてしまう感覚が、なんとも心地良い。


「身体、熱い」


「ひっ…!じらすの、やだぁ…!」


「焦るなって」


胸の先端をきゅっと摘まれ、大きく喘ぐ。倉庫の中はガランとしていて、余計に声が響いてさらに煽られる。刺激を欲するように腰が揺れると、両胸を直に触られ、歓びに震えた。


「んあぁぁっ…ロクロウっ…きもちいっ…」


「やけに素直だなぁ〜。薬様々だな」


残り僅かな理性が、如何に自分がはしたないことを欲しているかを理解して、自らを磨り減らしてゆく。いつもより強く両胸の先端を抓られると、内ももに滑る感覚か広がった。
耳朶を甘噛みされ、中まで舌で犯されながら、胸の先端を緩急づけて擦られると、声が止まらなくなる。


「それぇ…っ!だめっ…!うあぁっ」


「もうイキそうか」


「あぁっやだ、も、いくぅ、やぁっ…!ふあぁぁっ…!」


一際大きく喘ぐと、ユクラの身体も大きく波打った。胸だけで達するのみならず、下着からスカート、そしてロクロウの着物までじわじわと濡らした。


「潮まで噴いたな〜。こっちまで濡れたぞ?…スッキリしたか?」


意地悪くロクロウが言葉を投げかける。摩耗するどころか更に大きくなる欲をどうにか鎮めたくて、ユクラは懇願した。


「…足りないよぉっ…もっと、して…」


「だろうなぁ」


じゃあ、と言うと、ロクロウはユクラを向かい合う形で立たせ、頬杖をついた。


「自分でしてみせろ」


先程の男たちよりも遥かに、いやらしく笑っている。顔が更に熱くなり、ユクラは声を詰まらせた。


「そ、んな…無理っ…」


「別に俺はもう戻ってもいいんだが?」


「…やだっ…」


「ちゃんと出来たら続きしてやるから」


続き、その言葉に入り口がきゅん、と反応した。選択肢なんて無い。口では嫌がりながらも、快感を期待している自分を認めたくなかった。


「薬のっ…せいだからね…!」


「そうだな。…ほら、ここ持たないと見えないぞ」



スカートをひらりと捲られ、持たされる。自分で下着を見せるのですら恥ずかしいのに、更に卑猥なことをするなんて。短く息を吐くと、ユクラは指を下着の中に潜り込ませた。


「っ…!ふ、ぁ…っそんな、見ないでよっ…」


「見られた方がイイだろう?」


ぶるり、と身体を震わせ、ユクラの視線は揺蕩う。いつもロクロウがやるように、入り口から突起まで辿々しく指でなぞると、我慢できずに声を漏らした。このまま立っていられるのだろうか。


「はぁっ…や、ば…っ指、止まんなっ…ひあぁっ」


「それ、もう要らないよな」


下着をずり降ろされ、いよいよ全てが曝け出された。それと共にいやらしい粘性のある音が明確に響いて、益々息が詰まる。


「やだぁっ…も、イッちゃっ…!」


「ユクラ、こっち見ろ」


「ぅあぁっ…ろ、くろぅ…っ、いっ…あぁぁぁぁっ!」



全身を震わせながら、絶頂に達した。床がびしゃびしゃになる音がした。足ががくがくして、バランスを崩すと、ロクロウに抱きとめられる。体温を感じて、また欲しくなる。


「よくできたな、偉い偉い」


「っ、はぁっ…、はやく、さわって…っ」


「はは、凄いな」


満足げに笑い、腰掛けたロクロウはユクラを自分の上に跨がらせた。胸を完全にはだけさせると、ユクラは刺激を求めるように身体をくねらせる。その様子をみて、更にロクロウの口元が歪んだ。


「ぐっちゃぐちゃだ」


一気に二本の指が挿入され、ユクラは息を飲んだ。それと同時に胸に吸い付かれ、だらしなく喘いでしまう。


「ぅあぁあぁぁっ!きもひぃっ…!もっとぉ…!」


ユクラの言葉に応えるように、ロクロウは指を折り曲げて激しく内壁を擦り、軽く歯を立てた。すぐさまユクラは反応を返し、まるで壊れた玩具のように鳴き続けた。


「あ、あ、らめ、イくぅっ…!!っは…っ、待っ…!いった、ばっか、やらぁっ…!」


「もっとイケるだろ〜?ほら、こっちも」


親指でぐりぐりと突起を押しつぶされ、ユクラは悲鳴のような声を上げた。


「ひぁっ…!?あぁっ!やら、やめっ…!んあぁあ!や、あぁぁっ」


涙と汗と涎でぐしゃぐしゃになった顔でただ喘ぐことしか出来ず、言葉すら頭に浮かんでこない。何度も何度も達しながら、何回潮を噴いたかもわからなかったが、ぼんやりと映るロクロウの口角はずっと上がったままだ。
意識がふわふわしてくる。色々なところを同時に攻められ、頭がおかしくなりそうだった。


「…そろそろ挿れるか」


ロクロウは呟き、空気を欲しているユクラの口に舌を捩じ込んだ。口内を堪能している間に浮つく腰を掴む。名残惜しそうに唇を離し、猛る自身に入り口を宛てがった。


「ユクラ」


「な、に…っ」


「多分止まらん」


「えっ、ぁ、やあぁっ…!」


ぐちゃりぐちゃりと音がして、肌がぶつかる音と混じる。圧迫感と快感で意識が押し流されてゆく。こんな倉庫でこんな行為に耽っていることすら忘れて、ひたすらに喘ぎ、痙攣している。


「っ…イキっぱなしだなっ…」


「んぁっ…!ああぁぁっ、やっ、あぁんっ…!」


「喋れないくらいイイか?」


ユクラの腰を浮かせると、ロクロウは自身を引き抜いて体制を変えた。木箱に手をつかせ、後ろからまた貫く。


「はっ…、倉庫でこの体制だと…犯してるみたいだっ…」


「ひっ…!おくっ、すごっ…!」


腰を捕まれ、奥の奥まで何度も突かれて、快感以外感じられない。飽きることなく何度も同じことを繰り返し、お互いにお互いを貪る。


「ッ…!一回、出すぞっ…」


「あ、あ、また、イくぅっ…!やぁぁっ…ひああぁっ!」


また大きく痙攣し、ユクラは絶頂に達した。それと同時にロクロウも欲望を吐き出すも、猛りが収まる様子がない。息を整えぬうちにまた同じことを繰り返される。


「やっぱり止まらんな〜」


「…?やっ!そんな、すぐぅっ…!んあぁっ!」


「ユクラが悪いんだぞ?ほら、こっち向け」


楽しそうに笑うロクロウ。未だ火照る身体をいいように攻められながら、ユクラの意識は段々と磨り減っていった。倉庫の中では、その後暫く声が響いた。

























「…アイゼン、ちょっと」


「何だ」


あの後意識を飛ばすまで散々絶頂させられ、船に戻る頃には朝を迎えていた。重い体を引き摺り、いつものように軽やかに隣を歩くロクロウに悪態をつきながら、甲板を歩く。ダイルに話し掛けられているロクロウから離れ、荷物を積み終わったアイゼンを捕まえる。



「…あの、ええと…。ジョオウイカなんだけど」


「ジョオウイカが何だ?」


「…う。えっと…ジョオウイカの…。ジョオウイカでつくった、さ、催淫剤って、効果はどうしたら切れるの…?」


顔を伏せながら朝からとてつもない質問をしてくるユクラを見て、アイゼンが狼狽える。

「…!?ユクラ、お前まさか今…!」


「ちっ!違う!!今じゃない!」


「今じゃない、だと」


「!!い、いまのは忘れて!!とにかくどうしたら切れるか知ってる!?」


墓穴を掘ったことに気付き、ユクラは顔を赤らめてアイゼンの胸を叩く。

「…アレは確か、一度睡眠を取れば効果が切れると聞くが」


「えっ」


「発散しきっても切れるらしいが、とりあえず寝たらすぐ切れるそうだ」


「…は?」


「その様子だと散々発散したようだな。寝れば良かったんだがな」


「…な!!ろ、ロクロウ…!許すまじ…!!」


怒りに震えながらロクロウに詰め寄っていくユクラ。アイゼンは少し遠くでユクラの怒声に対し笑いながら返すロクロウの声と、その後に響く鈍い音を聞き、よくある朝だ、と笑った。



















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