「えええぇぇっ!!!そうだったんですか!?!??」
「ちょっ!エレノア!声デカいっ!!」
「否定はしないわけね…」
海を見下ろすカフェで、エレノアの声が響いた。他のお客さんの視線が集まって恥ずかしい。タリエシンに美味しいカフェがあるってアイゼンに聞いて、女子達で来てケーキを堪能して(ベルベットはコーヒーだけ頼んでたけど)他愛ない話をしていた。けど、マギルゥが突然コイバナを振ってきたのが、発端だった。
「お主らはやっぱりニブいのう!いや、儂が鋭すぎたかえ?」
「う、その点については返す言葉も無いです…」
「ま、待ってよまだそんなわかんないっていうか…なんていうか…」
「わかんないことはあるまい!お目々がハートになっておったぞ〜?堪忍せぬか!」
「お目々がハート、ねぇ…」
確かに女四人集まればコイバナをするのは解る。まさかこの面子でするとは思わなかったけど。最初はマギルゥがふざけてベルベットにコイバナを振って、軽くいなされて終わった。エレノアにも振ってたけど、勿論今は好きな人居ないって言ってて、そうだよねぇ、って相槌を打った。この流れならわたしにも同じ感じで振ってくるかと思いきや、マギルゥはニタニタ笑い始めて、悪い予感がした。
「ユクラよ、主は想い人がおるんじゃろう〜?儂にはお見通しじゃぞ〜?」
フォークをくるくる回しながら言われて言葉に詰まると、エレノアがオーバーすぎるリアクションを取って、そして今。毎日顔を合わせるし、そもそも旅の雰囲気からして、あの人のことが好きですなんて言いにくい。なんとかして上手く言いくるめたい。
「相手は誰なんですか!?アイゼン?ロクロウ?あ!ダイルとかベンウィックとかも有り得ますよね!?」
「まぁ待てエレノアよ、まずはボスの意見を聞いてみようではないか!ボスぅ〜このグループは恋愛禁止なんじゃろうかぁ〜?」
「ボスって何よ…。…別にどうでもいいわ、そもそもグループじゃない。邪魔になったら喰らうだけよ」
「おぉ!言質はとれたぞユクラ!安心して恋心を育むがよいぞ〜」
喰らわれたくないんだけど。エレノアはキラキラした目で見てくるし、ベルベットはちょっと興味有りそうな顔してるし、なによりマギルゥは楽しくて仕方なさそうだし。どうやって言い逃れようか…。軽く溜息をついてケーキを口に運ぶと、エレノアが眉を下げていた。
「…でも、言いにくいですよね。よくよく考えたら人間以外もいるわけですし…」
「…そうなんだよねぇ。…!あ!」
「墓穴掘ったわね」
「見事な掘りっぷりじゃ!エレノア、ようやった!」
ああああ、エレノアの天然掘削機に乗ってしまった…!頭を抱えていると、わたわたと慌てる横でベルベットが呟いた。
「人間じゃないとなると…業魔と聖隷よね」
「なんと、ボスも食いついた!いや、ここは喰らいついたというべきか〜!」
「だからボスじゃないわよ」
「…あのさ、そんな皆相手に興味あるの?」
どんな返事が来るか解ってるけど、敢えて問いかける。三者三様の反応を返されて、やっぱりな、と顔を覆った。話題を変えても戻されるだろうし、年貢の納め時なのか。
「ていうかマギルゥ、相手解ってて振ったわけじゃないのね…」
「その時のお主の視線の先には複数人いて特定出来なかったんじゃあ〜!」
「人間以外と言うと、ロクロウ、アイゼン、ライフィセット、ダイル、クロガネ…?」
「あとビエンフーもじゃな」
「普通に考えたら何択かに絞られるわね」
なんか推理始まったしもう何も言うまい。ケーキ美味しいなあ、と遠い目をしていると、マギルゥがまたろくでもないことを言い出した。
「せっかくじゃし、ここはユクラにキュンキュンしたポイントについて語ってもらおうではないか〜!ほれほれ、観念して語り尽くすがよいぞ!」
「キュンキュンって…!そんなん言ったら解っちゃうでしょ!」
「往生際が悪いわよユクラ」
「そうですよ!私、誰にも言いませんから!」
相手の名前言ってしまった方がマシな展開かもしれない。けど、三人のワクワクした顔に気圧される。これ、わたしだけすごい恥ずかしいやつだ…!
「〜〜〜っ…。言わなきゃダメ…?」
「さあさあさあさあ!ドラゴンに噛みちぎられてもこの包囲網は突破出来んぞ〜!」
「…うぅ、解ったよ…」
キュンキュン…って。確かにするけど。改めて口に出すのが憚られて、ほっぺが熱い。
「…はぁ。じゃあ、言うけど…。えっと、まず優しくって」
「(大体皆優しいですね…)」
「強くて」
「(さらばじゃビエンフー)」
「格好良くて」
「(これは…人によりけりよね)」
三人が頷いているのが、なんとも奇妙な光景だ。普段あんなにバラバラなのに、こんな時だけなんで協調性発揮するの。
「えっと…無邪気で…あと、笑顔が可愛くて…って、まだ言わなきゃダメ!?」
「ダメに決まっとろう!まだ一択になっとらん!」
「とりあえずビエンフーが選択肢から消えたのはわかりましたけど」
「あと笑顔って点でクロガネも消えたわね」
「冷静に分析しないでよ…」
「残りはロクロウ、アイゼン、ライフィセット、ダイル。四択じゃな」
「はぁ…。流石にライフィセットは選択肢から外していいよ…」
どうにでもなーれ、って言ってる画が頭の中で回り始める。はあ、コーヒー美味しい。
「その三人とはよく話してますよね、ユクラ」
「心水も一緒に飲んでるわね」
「そういえばこの前ダイルの腕をスリスリしておったな〜」
「それ、わたしがトカゲ自体好きだから触らせてもらってた時」
「アイゼンが満面の笑みでユクラに話しかけて何処かに連れて行くの見ました!」
「それ、アイゼンのお気に入りのガラクタ壊して怒られた時…」
「ロクロウと寄りかかり合って寝てたの見たけど」
「それ、酔っ払って寝落ちてた時…って!そんなことしてたっ!?」
三人の猛攻を凌ぎつつ、ぎゃあぎゃあと盛り上がっていたら、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、皆いる!偶然だね!」
ライフィセットと、アイゼン、ロクロウがやってきた。男三人で何でカフェ来てるの…。仲良すぎでしょ、そう思ってると、女三人が心なしかじろじろと大人二人を見ている。マギルゥなんてにやにやしてるし、ああ、居心地悪すぎる。
「あ、アイゼン、このお店凄く美味しい、ねっ!?」
「あぁそうだろう。…なんだ、その反応は」
「えっ!いやいや何でも!」
「お、これ美味そうだな」
アイゼンとぎこちなくやり取りしてる間に、ロクロウがいつの間にか隣にきた。今までの会話のせいで余計に意識してしまって、何だか顔を見られない。と思ったら。
「ちょ、わたしのケーキ!(しかもわたしのフォークで!!)」
「うん、美味い。ユクラ、俺のもやるから怒るなよ〜。ほら」
差し出されたのはケーキが刺さったフォーク。ああもう、只でさえなんか恥ずかしいのに、普段なんとなしにやれることすら意識してしまう。顔が熱い。やばい、バレる。
「食わないのか?ほら、あーん」
「〜〜〜〜っ!!!じ、自分で!食べられるから!!」
「(ロクロウじゃったか)」
「(ロクロウですね!!!)」
「(ロクロウね…)」
ケーキは甘いけど、味は良くわからない。もうなんか心臓まで煩いし、冷たい水でも浴びたい。ていうか帰りたい。
「美味いか?でもこの前ユクラが作ったやつには勝てんな!あれは美味かったな〜」
ああ、そうだこいつこういう事笑顔で言ってくるんだった。もう、死にそう。
「…見事なほどの爆撃じゃの」
「ユクラ、生きてるんでしょうか」
「骨は拾ってやるわよ」
「…成る程、何となく理解した」
「え、なに?アイゼン、何の話?」
ニコニコしているロクロウをちらっと見たら、胸がきゅっとなる。三人の視線が刺さってるのがわかった。とりあえずコーヒーを飲み干して、トイレにでも行こう。心臓、煩い。
きっとこれから、もっと心臓がざわついて、顔が熱くなるんだろう。
きっと恋に落ちてるから。
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