晴れた日の土曜日。駅から徒歩十数分、重いキャリーバッグを引き、やっとのことで目的地に到着した。目の前にあるのは、大きく古めかしい家。深呼吸して、チャイムを鳴らした。
「すみません、新しい管理人ですが…」
一人暮らしをしていた部屋に、突然の来客。久し振りに会った祖父は、なにやらニコニコとユクラに言い放った。
「セミリタイア…?」
「そうそう、だからユクラ、あの家を頼むよ」
あの家。祖父が実家をリフォームしてシェアハウスとして貸し出しているというのは以前聞いたことがある。部屋も一つ空いているからそこに住めばいい、と言い、祖父はにこりと笑った。突然の申し出に戸惑いつつ、ユクラは訳のわからないまま承諾した。
なんとなしに回想していると、家の中からどたどたと音がして、意識が向く。開いた玄関から見えたのは、なんともキャラが濃そうな面々。
「どうぞ、入って」
「お、お邪魔します…」
黒髪の美人な子に促され中に入る。十数年ぶりに見た家の中は、記憶と違い、ところどころリフォームされていて、随分変わっていた。
「新しい管理人さんって、女性の方だったんですね!」
「荷物、持つぞ」
「ありがとうございます…」
綺麗な髪色で笑顔がかわいい女の子は、嬉しそうにはしゃいでいる。
黒髪の人懐っこそうな青年に荷物を託し、居間へと足を踏み入れた。そこには、ソファで寛ぐ二人と、行儀よく座る男の子がいた。
「新しい管理人か」
「まさか若い女子とはの〜」
「管理人さん、ここ座ってください」
男の子がいそいそとお茶を入れ、差し出してきた。お礼を言って座り、面々を見回す。この人たちとこれから暮らすんだ。少し緊張しながら、自己紹介をしようと、口を開いた。
「ユクラはあのおじいさんのお孫さんだったんですね!知らなかったです!」
「じーさん、管理人変わるって急に言ってきたよなぁ」
「俺の所にはちょっと前に挨拶にきたがな。骨董品を集めに行くらしい」
「そっか、アイゼンのお店の常連さんだったんだもんね」
お茶を啜りながら七人でダイニングテーブルを囲う。そういえば祖父の趣味は骨董品集めだったな、とふと思い出す。
「あの閑古鳥大合唱の店じゃの〜」
「客がいない分飲むのにうってつけだけどな!」
「…アイゼンはお店やってるの?」
「寂れた骨董品店よ。ダメな成人の溜まり場になってるけど」
「お前ら、失礼すぎるだろう」
祖父が言ってた通り、賑やかな人たちだ。楽しくやっていけそうだと、ユクラは一安心した。
「ベルベットとエレノアは大学生?」
「そうよ」
「ここから結構近いんですよ」
「そうなんだ。…マギルゥは?」
「儂は奇術団の長じゃよ!」
「奇術団…?」
奇術団。何をするか全くわからないが、大道芸人みたいなものだろうか。不思議そうな顔をしていると、マギルゥがオーバーにリアクションを取っていた。
「正装しないとやはり迫力がでないものなのか〜…」
「あの格好、職質されかねないからやめたほうがいいぞ」
「主が言うでないわい!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐマギルゥと、笑うロクロウ。その様が面白くてユクラもつられて笑う。
「あっ!そろそろ夕飯の準備しませんか?ユクラの歓迎会です!」
「応っ!アイゼン、酒買いにいくぞ!」
「そうだな、行くか」
「じゃあ僕はベルベットを手伝うよ」
「テーブルの片付け頼むわね。マギルゥ、あんたもよ」
「儂は応援係じゃあ〜!」
「わたしも手伝う!」
どんな毎日が待っているのだろう。
これからの生活に心を踊らせながら、ユクラは席を立った。
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