「次、にんにくを炒めるが弱火で焦がさないように気をつけろ」


「はーい」


キッチンに並んで立つ二人。昼時になり、掃除を終えたユクラは食事を取ろうと居間に向かった。大体みんな出払っていて、居るのはコーヒーを片手に新聞を読んでいるアイゼン。二人分作るか、と聞いたら、俺が作ると腕前を披露してくれることとなった。以前食べたアイゼンの料理がとても美味しかったので、指南してくれと頼み、今に至る。


(なんか怖いけどイケメンで面倒見の良い料理男子って、ほんと女の子が放っておかないよなぁ)


腕まくりをして、フライパンを持っているアイゼンは、とても絵になるなぁ、としみじみ思う。


「ここでトマトを入れる」


「ほうほう」



手際良く進めるアイゼンは、あっと言う間に三品ほど作り上げた。器への盛り付けも綺麗だ。


「なんかアイゼンの料理凄すぎて自信なくすなぁ…。わたしよりも全然盛り付け綺麗だし、早いし。美味しそうだし〜」


「お前の飯も美味いだろう。別に気にすることじゃない。大事なのは愛情だ、愛情」


「あ、愛情」


何だか容姿とのギャップが激しい言葉が出てきて、少し戸惑った。



「あぁ。…ユクラ、マグカップ取れるか」


「…うん。ちょっと待って…あれ、あんな奥にある」



戸棚の前で爪先立ちになるも、届きそうにない。アイゼンは後ろで何か作業をしている。丁度近くにあった台に乗り、手を伸ばす。


「大丈夫か?」


「うん、取れそう…っ、…わ、わっ…!」


ぐらり、と体制を崩した。宙に浮いたマグカップ。なんとかキャッチした束の間、体が重量に負けたのが解り、目を瞑った。


「いった…!」


床の感触じゃない。手に持ったマグカップを見て安堵するも、気づけば、自分の下に有るのは大きな体。


「…!あ、アイゼン!!!ごめん!!」


「…昼間っから大胆だな」



慌てて退こうとするも、なぜか腰に手を回され動けない。



「っ!?ちょ、手!」


「このまま此処で続けてもいいんだが」


にやりと笑うアイゼン。かあ、と頬が熱くなる。からかわれているのは解っているが、如何せん相手が相手だ。


「ふ、ふざけないでってば!」


兎に角体を離そうとじたばたするも、大人の男の力には敵わず、ただ恥ずかしさが増していく。くつくつと笑うアイゼンに見上げられ、狼狽えていると、後ろから面白がる声がした。


「お主ら、随分楽しそうじゃのう〜?まだ昼間だというに、キッチンでとは…。刺激的じゃて〜」


「!!ま、マギルゥ…!」


「ユクラがどうしてもと言うからな」


「ちがーーーーう!!!!!!」


「お若いの、どうぞごゆっくりじゃ〜。儂は部屋でこの美味そ〜なランチを頂くこととするからの」


「ちょっと!マギルゥ…!もう、アイゼン邪魔ーーーっ!!」




麗らかな昼時に、ユクラの叫びが響いた。
その後暫くアイゼンと距離をあけて話すユクラを、マギルゥがからかう日々が続いたという。














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