「しまった…」


軒先でひとり呟く。眼前に広がるのは、大粒の雨。夕方になり、買い出しへとスーパーに来た。来たときには晴れていたのに、出てきたらこれだ。特に天気予報は見ていなかったが、にわか雨が降るでしょう、というお決まりのフレーズがテレビでは流れていたのだろうか。
買い物袋をふたつ持って走って帰るには遠すぎる、かといって傘を買うのも癪だ。こんな用で誰かに連絡するわけにもいかないし、そもそも家には誰もいなかった筈。仕方ない、止むのを信じて待とう、そう思い、空を見上げた。






生ぬるい風と湿気に包まれながら、ぼうっとスマートフォンを弄っている。メールチェックをしたあと、適当に転がっていた情報を眺めていた。あの女優が熱愛発覚!という至極どうでもいい記事をなんとなしに見ると、モノクロで映された相合傘の画像。一般男性と女優が一つの傘に入って歩き、マンションの中に消えていったらしい。そりゃあ見つかるよね、とぼんやり考えていたら、不意に自分の名前を呼ぶ声がした。



「…ユクラ?」


「…?…あ、ロクロウ」


「何してんだ?…傘か!」


「ご名答〜…。止むの待ってたんだ」



ビニール傘をさして通りからこちらへ歩いてくる彼は、いつもより髪がハネている気がした。


「丁度良かったな」


笑いながら足元の袋をふたつ手に持ったロクロウ。慌てて制止すると不思議そうな顔をした。


「どうした?」


「荷物、わたしも持つから!」


「なんでだ?軽いぞ」


「じゃあ…半分こにしようってことで、ね?」


流石に荷物をすべて持ってもらうのは気が引けた。きっとこの傘じゃ二人では狭いし、なんなら彼だけが濡れてしまうかもしれない。ロクロウはそういう奴だと、なんとなくそう思っている。こちらの考えまで汲み取ったかはわからないが、そうだな、と微笑んで彼は歩き出した。












「今日の夕飯、何にするか決まってるのか?」


「うーん、肉じゃが食べたいなぁって」


「おぉ、いいな!楽しみだ」




ざあざあと降る雨の中、二人で歩く。大きな水溜まりを避けながら、時には一列になって。カーブミラーに映ったふたりを見て、何だかさっき読んだ記事をふと思い出した。あの女優の画像も、荷物を持っていた。もしかしたら、あの写真はスキャンダルでも何でもないのかもしれない。




「予想通り…」


「?」


「ロクロウ、肩濡れてる。ごめんね、わたしは濡れても大丈夫だからもっと入って」


一瞬目を丸くしたロクロウは、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「別に、ユクラも濡れる必要ないんじゃないか」


「…そ、そっか」


さっきよりも、近い。予想以上に寄り添って歩くことに、すこしどきりとしてしまった。中学生でもあるまいし、別に普通のことだ、と思うも、傍から見たらカップルに見えるのかな、なんて考えも湧いてしまう。





「雨、止まないな」


「そうだね」


「別に止まなくてもいいけどな」


さらりと言いのけたロクロウは、横顔しか見えなかった。なぜなら、どぎまぎした自分が俯いているからだ。家まではあともう少し。その間に、すこし熱い顔を冷まそうと、ユクラはカーブミラーを見ないふりでやり過ごした。















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