「よし、洗濯物おわりーっ」



ユクラは伸びをすると、タオルを持って立ち上がった。
航海中、一行のうちの女手ということもあり、力仕事以外の雑用をこなしている。夕刻になって洗濯物を取り込み、一通り畳み終えると、エレノアが通りかかった。





「ユクラ、ちょっといいですか?」


「なーにー?」


「お風呂の石鹸が無くなるみたいなので、補充頼んでいいですか?すみません、私この通り…」


「モアナ、今からエレノアとご飯つくるんだーっ」


「もちろん!モアナ、美味しいの期待してるよー」


まかせて!と満面の笑みで小走りしていくモアナと、それを窘めるエレノアを見送ると、ユクラは石鹸を探し、風呂場に向かった。
















(タオルも並べたし、あとは石鹸か…)




誰かが直前まで風呂に入っていたのか、脱衣所は蒸し暑い。
石鹸を手に持ち、風呂場のドアを手にかける。そして、目に飛び込んできたものは、予想に反していたわけで。





「…お、ユクラ!覗きとは大胆だ…「わーーーーっ!!!!!」





スコーン!と小気味よい音が風呂場に鳴り響く。
それもそのはず、ユクラが手に持っていた石鹸は、ロクロウの顔面目掛けて凄まじい初速で飛んでいった。その後、ロクロウの短い叫びはドアによって封印され、ユクラは小走りで脱衣所を後にした。




(あああああ、まさか、ロクロウが入ってるなんて!は、裸!いい筋肉だったな…って、バカ!!!ごちそうさま!じゃないわ!バカ!!!!!)


脳裏に焼き付いたセンセーショナルな映像をかき消そうと、ユクラは次の家事に手を付けるべくキッチンに向かった。







「ユクラ、ありがとう。…どうしました?顔が赤い…」


「え、あ、大丈夫!なんでもない!!モアナ、私も手伝うよ!!」


「ユクラ、あかーい」


ひとまず無心で料理することで落ち着きを取り戻そうと、ユクラは狂ったように微塵切りをした。歴代で一番早い下処理であった。そうして料理を終え、しばらくモアナとオルトロスたちと遊んでいた。












「あ、ベルベット」


「お風呂、空いたわよ。マギルゥとエレノアは後で入るみたいだから、先に入ってきたら」


「うん、ありがと。じゃあ入ってくるね」



遠くで黒い影が素早い動きをしたのが見えたが、気にせずに風呂場へ向かった。












(ふー…ごくらくだ…)



湯船に浸かり、脱力する。
チラチラと頭にあの裸がよぎるが、それを振り払おうとユクラは立ち上がり、体を洗うことにした。
木製の椅子に腰掛け、石鹸を泡立て、一通り肌に滑らせる。
桶を持ち上げ湯を流そうとした瞬間、ドアが予想外に開く。







「ライフィセット、男同士の話ってなん…?………????」
「……………」
「ユクラ?なんで裸なんだ?ってそうか風呂場だか「ひぃやあああああああああああ!!!!!!」




これが本当のデジャヴ。ユクラが手に持っていた桶はまたも凄まじい初速でロクロウの顔面へと飛んでいった。 二回目は鈍い音がした。と、ともにユクラは光の速さでドアを閉めると、同時にアイゼンが脱衣所に駆けつけた気配を感じた。














「…で、だ。何がどうしたんだ」


「いやぁ、まずユクラが俺の裸を見に来…ブッ」


「ちがーう!!あれは!いい筋肉だった!!っ…じゃなくて!エレノアに頼まれたから石鹸を補充しに…」


「ほう。それで…ロクロウは?」


「俺の鼻が取れたらどうするんだ…。まったく。俺はビエンフーに、ライフィセットが男同士の話がしたいから風呂で待ってるらしいって言われたんだ。だから風呂に入ろうと…」


「その時に丁度ユクラが入っていたってことね」


「ちょっと待ってください。…私が石鹸の補充を頼んだのも、マギルゥに頼まれて…手が離せなかったのでユクラに頼んだんです」


「それって…もしかして」


「マギルゥとビエンフー、だな」



















「いや〜ビエンフー、ようやったのう!」


「それほどでもないでフよ〜ボクにかかればお茶の子さいさいでフー!」


「今頃あやつら、くんずほぐれつかの〜」


「だーれがくんずほぐれつだって?」


「ありゃ〜見つかってもうたな〜!ユクラかと思うたら鬼婆じゃった〜!ってぇー逆ではないかぁ〜」


にひひ、と笑うマギルゥ。


「ビエンフー、俺の鼻の仇、打たせてもらおうか」


「ビエーーーーン!話が違うでフー!」


「おかしいのう〜。てーっきり儂は感謝されるはずだと思ったんじゃが。主らの距離が縮まってドキッ☆真夏の船上ラブ-ポロリもあるわい!-が起きてな〜。…ちなみに、あの脱衣所のロクロウの後ろにビエンフーが居たのはユクラは気付かなかったんじゃろ〜か〜♪」


「…ビエンフー?」


ユクラの殺気が一層高まったのを感じたのか、マギルゥはすたこらといつの間にか逃げていた。

「ご、誤解でフー!ビエーーーーン!!ずるいでフ!ボクも逃げるでフー!」


「逃がすわけないでしょーがっ!待てビエンフー!」



全速力で逃げ回るビエンフーと、全速力で追いかけ回すユクラを尻目に、アイゼンはロクロウに耳打ちした。




「…それで、どうだったんだ?」


「そりゃあもう、絶景だったな」


男二人、今夜の酒の肴を共有したとき、ビエンフーの断末魔が満月に吸い込まれていった。


















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