「ねぇ〜ベルベット〜!これ着けてよ〜!」
大海原を進む船の上で、賑やかな声が響く。
「嫌よ。なんで着けなきゃならないのよ」
「だってほら、黒髪だし、一番似合うよ〜!可愛いよ〜」
「そうじゃそうじゃー!身は体を表すと言うではないか〜♪着けたほうが可愛げが生まれるかもしれんぞ〜」
「それを言うなら"名は体を表す"でしょ…」
甲板の上ではしゃぐ二人と、冷めた目で見る一人。
倉庫を掃除していたユクラが見つけてきたのは、無造作に置かれるアクセサリー類であった。眼鏡から着ぐるみ、ぬいぐるみなど様々なものがある。早速甲板で広げると、近くにいたベルベットに黒い兎の耳を着けさせようとしていた。
「あ、エレノア!丁度いいところに!」
「三人とも揃って何を…?」
「これこれ、エレノアはこれ着けて!」
ニコニコしながらユクラはアクセサリーを掻き分け、白く長いものをエレノアに手渡した。
「えっ?…うさみみ?」
「そーそー、エレノアは白が似合うと思うなぁ〜」
「純白の退魔士さまじゃからなーっ」
「こ、こうですか?」
「わー、似合ってる!可愛い!!」
冷ややかな視線を送るベルベットと、顔を赤らめるエレノア。
「…照れますね、コレ」
「…まんざらでもない顔してるんじゃないわよ…」
「儂はこれにしようかの〜♪」
「お!シルクハット!奇術師っぽい!」
やいのやいの、と騒ぐ女四人。傍から見ると何処にでもいる若い女子に見える。
「騒がしいと思えば、仮装パーティーでもやるのか」
たまたま通りかかったアイゼンとライフィセットは、物珍しげにアクセサリーを見ている。
「そーそー、折角あるのに着けないと勿体無いしね。気分も変わって楽しいじゃん!」
「アイゼン、主はこれじゃ」
「ほう…眼帯と薔薇か」
「ライフィセットはこれがいいと思います!」
「…天使の輪?」
アイゼンとライフィセットはそれぞれ
受け取ったものを身につけると、ベルベットは一層苦々しげな顔をした。
「…わかったわよ、着ければいいんでしょ」
黒いうさぎの耳をつけると、ベルベットは顔を赤らめた。側でユクラがやっぱり可愛い、と騒ぎ立てる。
「あと着けてないのは、ユクラとロクロウですね」
「うーん、どうしようかな〜」
「ユクラ、これなんてどうじゃ〜?」
マギルゥが手にしたのは、猫耳。
「あれ?こんなのあったっけ?」
「それ可愛いです!ユクラ、着けてみてください!」
エレノアが目を輝かせてユクラに催促する。そのとき、マギルゥがニヤリと笑っていたのもいざ知らず、ユクラは見覚えのない猫耳を身に着けた。
「わぁ!ユクラ、とっても似合うね!」
「そ、そうかな…なんかベタで恥ずかしいけど…」
一同がわいわいと着飾っていると、鍛錬から戻ってきたロクロウが明るい声をあげた。
「なんか楽しそうなことやってるな」
「…ユクラが倉庫から持ってきたのよ」
半ば呆れ顔のベルベットをよそに、ユクラはロクロウに駆け寄ると、これ、と両手のものを手渡した。
「ロクロウはこれが一番だと思うんだ!」
「それって…犬?」
ピンと立った犬耳。そして後ろに見えるはくるんと丸まった尻尾。
人懐っこそうな顔に相まって、大型犬の雰囲気が漂う姿。
「やっぱり似合うー!」
「ええ、似合います!とっても!」
「おぉ!そうか?」
「なんであんたも嬉しそうなのよ…」
賑やかな面々の横で、アイゼンがマギルゥに耳打ちする。
「…おい、あの猫耳…」
「しーっ!これからが面白いところじゃよ」
マギルゥのことだ、きっと悪巧みをしているのだろう。そう感じたアイゼンはやれやれ、とため息をついた。
その夜。どうせなら、とあのままの格好で皆食事を済ませ(マギルゥがやたらと催促したのだが)、そろそろ寝静まる頃、ユクラの部屋に扉を叩く音が響いた。
「ユクラ、起きてるか?これ、頼みたいんだが」
「あ、うん、入って…」
ロクロウは少し薄暗い部屋に足を踏み入れると、ベッドに腰掛けるユクラの前で胡座をかいた。ユクラが、皆の身につけていたアクセサリーを回収して、倉庫にしまうから、と言っていたことを寝る前に思い出し、こんな時間に部屋を訪れてきた。
「尻尾と耳、意外と馴染むもんだなぁ〜すっかり取り忘れててな」
「うん、やっぱり似合うよね、ロクロウ。おっきいのに可愛い馬鹿な犬みたい、可愛いー」
「馬鹿な犬だとー?」
お手、とユクラが言うと、すぐさま
手を差し出すロクロウ。そのやりとりに二人で笑い合う。
「しっかし、ユクラのこれもリアルだな〜」
関心しきりな顔で、ロクロウはユクラの猫耳へと手を伸ばす。毛質も形も妙に本物のように似せられている。
「あ、待って、それ」
びくん
ユクラは思わず目をきゅっと瞑ると、猫耳から伝わる感覚に身を震わせた。
「…?ユクラ、これ…」
「…実は、いつの間にか、取れなくなってて…。着けた跡もなくなってた…」
「…生えたのか」
「…そうかもしれない」
どうしよう、明日になったら取れてるかな、などと呟くユクラに構わず、なんとなしに猫耳を触るロクロウ。触れるたびにぴくりと反応し、人間の耳とは違う動きをする猫耳が面白く、軽く引っ張ったり、撫でたりと遊び始める。
「ちょっと!やめ…てよ、っ…」
擽ったいのか、不快なのか。とにかく身を捩って逃げようとするユクラを見ているうちに、嗜虐心が沸き出てくるのを感じた。興味本位で弄ったものの、段々とその反応を楽しみたくなる。
「本物の猫みたいな反応だな…こっちはどうなんだ?」
そう言うと同時に耳たぶに触れられる指。新たな刺激にユクラはまたも肩を震わせた。
「ひっ…!?なに、触って…!」
少し息が荒くなり、睨みつけてくるユクラに、威嚇する猫が重なって見えるようだった。しかしながら、目はしっとりと潤んでおり、威嚇とは正反対にロクロウの欲を掻き立てる。
「今のはほんとの耳だよ!もう、寝たら取れるって信じて寝るんだから、ロクロウもそれ取って…」
「うーん、俺は馬鹿な犬だからな〜言ってることがよくわからんな〜」
楽しそうにユクラの手を握り、動きを封じたロクロウは、ベッドに身を乗り出し、そのまま首元に顔を寄せた。そしてまるで犬のように、ユクラの匂いを嗅ぎ始めた。
「流石に猫の匂いはしないか」
「当たり前でしょっ…!…もう、怒るよ…っ!」
首周りにかかるロクロウの髪の毛が、そして息遣いが擽ったくて、体を捩らせるものの力が入らない。
「んっ…!なに、やだ、ロクロウっ…」
無意識に目をぎゅっと瞑ると、生温く湿った感覚。気づけば首元をぬるりとした物が這っていた。先程から腰がびくつくのが止まらない。
「なにって、犬だからなぁ〜。そりゃあ舐めるだろう」
「犬じゃ、ないでしょっ…!ひあぁっ…!離、してっ…!」
鎖骨の窪みから、ぺろり、と喉元を舐めあげると、ロクロウの舌はどんどん上ってゆく。ユクラの抵抗虚しく、柔らかな唇をぺろぺろと舐め上げた。いつの間にか背中がベッドに面していたユクラが恐る恐る目を開けると、そこに見えるのは可愛い犬ではない。いつもの朗らかな様子とは違う、まるで獲物を見つけたかのような、戦い始めるときのロクロウだった。
サカっている、という言葉を体現したような表情。
「…犬と猫の子供って、何になるんだろうな」
答えは求めていないのだろう。口角を上げてこちらを見下ろす犬は、有無を言わさず唇に吸い付いた。口内を蹂躙されまいと、唇をきゅっと結ぶユクラ。ぺろぺろと舐められたかと思えば、リップ音をさせながら何度も啄まれ、いつのまにか唾液が混じる音が聞こえる。
「ふ、ぁ…っ、んんぅ…っ!!」
舌を舐められ、吸われたうえに、歯列もなぞられ、全身の力が抜けていく。何度も何度も繰り返され、気づけば胸元も弄られていた。漸く口元が解放され、酸素を求めていると、胸の先端に甘い痛みが走る。思わず背中が仰け反った。
「ひあぁっ…!や、だぁ…っ」
「おぉ、好い反応」
いきなり甘噛みをされ、大きく反応を返すと、ロクロウの口角が更に歪んだ。視線がぶつかり、ユクラの腰に、びりり、と電流が走る。この扇情的な笑みは、だんだんとユクラの理性を崩してゆく。
「舐め、るの…やだぁ…っ!あぁっ…」
先程の口づけと同じように、何度も先端を舐められるたび、刺激が体中を巡る。片方は舐められ、もう片方は揉みしだかれ、そのうちに指で弾かれる。そんなことをされるうちに、腰が浮つき、時々やってくる強い刺激を待ち望んでしまう。腰がうねうねと動き、体がびくびくと痙攣する。
「猫ってこんなにやらしい動きする動物だったか?」
「猫、じゃ、な…っあぁっ!やっ…!」
ユクラの体がまたも大きく震えた。片方の胸を辱めていた指は、いつのまにかするりと股の間を這っていた。ロクロウは胸元から口を離すと、ユクラの耳元で囁いた。
「…ココは人間のままなんだな」
期待しているように充血する突起を擦られるたび、熱っぽい瞳と視線がぶつかるたび、快感が体を駆け抜ける。ロクロウの袖を握る力が強くなり、喘ぐ息は荒く、口元が緩くなっていくのすら、ユクラは認識できずにいた。
「いやぁ、そこ、…っ!ロク、ロ、ッ…!」
「すごい固くなってるぞ…興奮してるのか?」
ユクラの体があまりにも望み通りの反応をするので、ロクロウはもっともっと鳴かせたくなり、手の動きを速めた。
「やらぁっ…、もッ…!触る、の、だめ、ぇ…っ!!なんか、でちゃ、…っ」
「応、出せ出せ」
にやりと笑うと、ロクロウは一層強く擦る。ユクラの体は強張り、すぐに大きく波打って、足を震わせた。
「やぁっ、お願ぃっ、らめぇっ…!でちゃ、ぅ…っ!やらぁッ!や、あああぁぁッ…!!!」
ベッドがギシギシと軋み、一際大きい嬌声が鳴り響いた瞬間、ロクロウの手にかかる水分。
「派手に吹いたなぁ」
大きく肩で息をするユクラが見たのは、指を舐めとり、満足げなロクロウ。ユクラの思考が鈍っているのも気にせず、ロクロウは後ろに下がり、無防備に投げ出された両足を掴んだ。
「ひっ…!ま、待っ、て…!」
「馬鹿な犬は待て出来ないの、知らないのか〜?」
下着からシーツまでぐしゃぐしゃに濡らしたそこは、一個体のメスであることを証明するもので、ロクロウを更に発情させるのには十分なものだった。下着ごと剥ぎ取られ、ユクラは足を閉じようとするも、呆気なく阻まれた。ロクロウはわざとらしくリップ音を立てながら、内腿に吸い付く。そして、じゅるじゅる、と中心を舐め回した。
充血しきった突起の根本に舌を捩じ込み、チロチロと舐めあげると、愛液がとどまることなくぬるりと広がる。
「やらしい匂いだ…」
そんなことを言われて、反応しないわけがない。ユクラは快楽に飲まれ、思考することを放棄した。突起を舐められても、吸われても、ナカに舌を捩じ込まれても、何をしたって言葉にならない声が口を突く。ひたすらによがり、壊れた玩具のように、喘ぎ声を出すことか出来ない。
「んあぁっ…!や、っ…もうぅ、やらぁ、ロクロ、ゥ…!ああっ!」
「そうか、こっちもしてほしいのか」
「そんな、言って、なぃっ…、ん、ひぁっ…!」
突起を啄みながら、ナカにぬるりと荒々しい指を入れると、ユクラから悲鳴に近い嬌声が発せられ、ロクロウの下半身を熱くした。脳天に響くような感覚。入口近くで指を折り曲げ擦っても、奥の奥を求めても、全身で感じるユクラが愛おしくてたまらない。こうも男の本能を満たす反応をされると、欲望は膨れ上がるばかりだ。
「や、にゃぁっ…!んんっ!?」
口をついて出たのは猫のような喘ぎ声。自分の意思と反した声にユクラは目を見開いた。
「ユクラ、もしかして…」
「ちがっ…!わたし、じゃ、ふにゃぁあっ…!」
「おぉ!耳だけじゃなく鳴き声まで猫になったのか!」
嬉々として猫耳に口を寄せ、優しく啄むロクロウ。指の動きが益々激しくなる。
「ほら、猫みたいに鳴いてイってみろ」
「ぁ、らめ…!いゃ…っ、いっちゃ…ふにゃあぁッ…!んにゃぁっ…!!」
呆気なく達したユクラの顔は、完全に上気し、涙で濡れていた。だらしなく呼吸する口からは、喘ぎすぎたのか、涎が滴っている。
こんなメスらしい顔を見られるのは自分だけなのだと、征服欲を刺激されると、まるで何かを斬っているときの感覚に陥った。業魔だからそう思うのか、ユクラがそう思わせるのか。そんなことはどうでも良かった。
「力、抜けるか?…って聞こえてないな」
欲望によって反り立つ自身を入口にあてがうと、ロクロウはゆっくりと腰を沈めた。新しい快感がやってくるのを拒むのか、ユクラは嫌だ、と微かに首を振った。その仕草、目つきは、むしろロクロウを煽るもので。
「っ…、なんて顔、してんだっ…」
「ひにゃっ!ィった、ばっか…っ!やらぁ…ッ!」
「っは…ッ、ナカ、すごい、な…」
何回達したかわからない。とうに頭の中は真っ白に弾け飛び、ただ刺激に反応するのみで、肌はじっとりと汗ばんでいる。肌がぶつかる音と、結合部の下品な音、自分の卑しい声、ロクロウの切なげな吐息。何もかもが快感を加速させる。ただただ快感に浸っていると、突然感覚が途切れた。
「…な、にっ…?」
「犬と猫だからこっちがイイ、かっ…!」
ロクロウは一気に自身を引き抜くと、ユクラの体を引き寄せ、四つん這いにさせた。てらてらと濡れるそこが、ロクロウに見られている。物欲しそうにひくつき、淫らに揺れるのも全て。頭がおかしくなりそうな羞恥心に襲われる。
「やっ…!この、格好、はずかし…っ」
「たまらん眺めだ、なっ…!」
一気に貫かれ、圧迫感に身震いする。まるで犯されているかのようだ。ロクロウの表情は伺えないが、舌なめずりしているに違いない。動物染みた行為にただ興奮させられ、ナカが収縮するのを止められない。がっちりと手で腰を固定され、激しい抜き差しから逃れられない状態に、ユクラは更に締め付けをきつくした。
「ひにゃぁッ…!あ、あ、ッ…ロクロウっ…!またぁっ…、いっちゃぅぅ…っ!」
「ユクラっ…!俺、もっ…」
ベッドの軋みが一層激しくなり、動物的な匂いが部屋を満たす。
ユクラのひときわ大きい痙攣と、叫びに似た声に応えるように、ロクロウはありったけの欲望を吐き出した。
果てても猛りが収まらないそれは、抜かれることなくユクラのなかを犯し続け、その行為は飽きることなく繰り返されることとなった。
翌朝。ベッドの上で目覚ざめると、髪を撫でられている感覚がした。
「起きたか、ユクラ」
「ぅん…おはよ…」
気怠い体を起こすと同時に、昨日の記憶が呼び起こされる。散々翻弄された記憶だ。恥ずかしさに身悶えそうになるが、そもそも抵抗を無視された結果であることを思い出し、ユクラはむくれ面になる。
「昨日のユクラ、凄かったな」
屈託のない笑顔で言い放つロクロウ。
「誰のせいだと思ってんの!」
「いやぁ…猫みたいなユクラが可愛すぎてつい…」
「なっ…!!ついじゃないでしょ、もぅ…!あ、そうだ猫耳!…なくなってる…!?」
「応、俺のおかげだな!」
「むぐぐ…!」
イマイチ反論しきれないユクラは、ニコニコするロクロウを小突き、ベッドから這い出た。
「なぁ、マギルゥ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「もしやして、猫耳のことかの〜?」
「?そうだが…あれは一体なんだったんだ?」
マギルゥの近くにいたアイゼンが、何やら納得したように口を開いた。
「やはりか、ロクロウ。あれは異大陸のものだ。…個人差はあるが、身に着けると猫の特徴が身体に現れるらしい」
「たまたま手に入っての〜流通経路は秘密じゃが…♪」
「…なるほどな。それ、犬のやつもあったりするのか?」
「あるぞあるぞ〜っ!なんじゃ、随分気に入ったようじゃな〜♪」
「応!犬になったユクラも見てみた…ぐぉっ」
目を輝かせていたロクロウの言葉は、般若のような顔のユクラがもつデッキブラシによって掻き消された。
そして数日間その名の通り犬のようにこき使われるロクロウがあちこちで目撃されることとなった。
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