「なぁ、口の中見せるのってそんなに恥ずかしい事か?」


「…は?」


「昼間にエレノアがそう言ってたんだが」


人の顔をじっと見つめるなり突飛な質問をぶつけてきたロクロウは、指示を仰ぐ犬のような顔で答えを待っている。余りにも突然だったので、ユクラは間の抜けた声で服を畳む手を止めた。



「…そりゃあそうじゃない?」


「そういうもんか?」


「ロクロウだって前はそうだったんじゃないの」


それを聞いてどうするんだろう、そう思いながら最後の一つを畳み終え、棚へと仕舞う。頭を捻るロクロウの横に腰掛けると、心水が注がれたお猪口を渡された。ロクロウの持つそれと軽くぶつけると、こつん、と音が響いた。


「昔のことは忘れたからなあ。少なくとも今は何も感じないだろうが」


「でしょうねー」


ぐい、と一気に飲み干し、深く息を吐き出す。そしてまた次の一口を注ぐ。


「そもそも普段はさ、口の中見せないじゃん。それこそ怪我したり虫歯になったりとかでしか」


「まぁ、そうだろうな」


「しかも口の中って粘膜だし。なんかこう…やっぱ恥ずかしいよ。そういうもんでしょ」


いまいち理解したかわからないような相槌を打つロクロウ。と思えば、閃いた顔で口を開いた。


「じゃあ、裸を見せるのと口の中を見せるの、どっちが恥ずかしいんだ?」


「…それ聞いてどうすんの?」


「そりゃ〜後学のためだ」


「後学、ねえ」


一見爽やかに笑っているように見えるが、ただの純粋な笑みだとは思えない。いきなりスイッチが入ることもあるのを知っている。選択肢によっては、口の中を丹念に観察されて辱められるか、裸にさせられて隅々まで見られるかするだろう、そう考えたユクラは、はぐらかす、その一手しかないと会話を続けた。


「さあねぇ、それは流石にわかんないよ。性質が違うもん」


勝った。それもそうだな、そんな感じの返事が返ってくるに違いない。そう確信したユクラは、軽くお猪口に口をつけた。その瞬間。


「わっ…!?」


カランカランと高い音が部屋に響いた。手に持っていた筈のお猪口が、床の上で跳ねている。首筋から鎖骨まで飲みかけていた心水で塗れ、冷たい。


「ちょっ…なにする…」


掴まれている手首からロクロウの顔に視線を移すと、しまった、と思った。小太刀を振り回しているときの、獲物を捉えた目付きだった。じりじりと距離を詰められるも、運悪く後ろは壁。


「じゃあこれと比べるとどうなんだ…?」


真っ直ぐに目を見つめられる。気付けば、頬にゴツゴツとした手が触れていた。


「なっ…!」


かあ、と頬が熱くなる。顔を背けることも許されず、ただ視線を外すことしか出来ない。未だに片方の手首は握られていて、動ける余地はなかった。


「どっちが、恥ずかしい?」


「放してよ…!」


答えになってないな、と言いながらロクロウは首筋に唇を寄せた。濡れたところをゆっくりと舐めあげると、ユクラの身体がガクガクと震え、その反応が楽しくてたまらない。


「勿体無いぞ〜?こんなに零して」


「ひあっ…!だれが、やったと…」


「さあ、誰だろうなぁ」


おちょくるように答えると、そのまま胸の谷間まで啄んでゆく。はしたない音を出して吸い上げると、ユクラの息が上がり、強く吸い付き鬱血させると、鮮やかな色が浮かび上がった。掴んでいた手首の抵抗が弱まったのを感じる。


「ユクラ、これは」


「んむっ…!?ん、はぁっ…」


耳元に唇を寄せ、低い声で囁くと、ロクロウは指をユクラの口に捩じ込んだ。舌を嬲られると卑猥な音が響いて、いやらしいことをされていることを認識させられる。一方で耳朶を甘噛みされ、思わず声を出してしまうも、言葉にはならなかった。


「何言ってるかわからんなぁ?…ユクラは本当に耳が弱いな」


耳元で話されるたび、背中がゾクゾクして止まらなかった。下着がじんわりと濡れていくのがわかる。痺れるような快感が身体を襲うも、半ば動けず、身体を逃がすこともできないからか、涙が浮かんでくる。


「舌、出せ」


口から指を抜かれると、糸を引いているのが見えた。恥ずかしくてたまらなくなるも、その光景にも興奮する自分がいた。こうなると抵抗するより前に、身体が快感を求めてしまう。おずおずと舌を出し、ロクロウを見上げると、満足そうにニヤニヤと笑っていた。


「スイッチ入ると従順だな」


ぼそりと呟くと、外気に触れている舌をちろりと舐める。びくりとしたユクラの胸元に手を這わせ、何度も角度を変えながら舌を舐めあげると、ふたりの息が響いた。混じる喘ぎ声が大きくなるころには、ユクラの両胸の突起はすっかり固くなっており、触られるのを今か今かと待ち望んでいた。リップ音をさせ口付けを繰り返し、名残惜しそうに離すと、涎を垂らして物欲しそうな顔があった。


「ロクロウ…っ」


「なんだ、口寂しいか?」


しょうがないな、そう言ってロクロウは腰紐に手をかけた。


「ほら、これでも舐めろ」


自身の反り上がったものをユクラの口に寄せ、押し付けた。見るからに体積の大きいそれは咥えるのも憚られるほど。ユクラが躊躇していると後頭部を抑え込まれ、口内が侵されていく。苦しさから抗議の目線を送るも、ロクロウは口元を歪ませて見下ろしていて、むしろその行為は興奮を煽るだけだった。それがわかると、ユクラは観念して舌を這わすしかなかった。


「…っ、たまらん、なっ…」


熱い息を吐き出すと、ロクロウは腰を前後に動かし、口内を蹂躙しはじめた。先程よりも苦しくなり、思わず涙が出る。何往復もする熱量は、先程より大きく、脈打ちはじめ、ロクロウの息が荒くなった。


「んん!んぁ…っ、ふ、んぐ…っ」

「ユクラ…っ!出す、ぞ…っ」


口の中のでびくびくと震えたそれは、舌の上にどろりとした精を吐き出した。独特な味が広がる。漸く口内から圧迫感が消えたユクラだったが、ロクロウが自らを引き抜き、にやりと笑いながら言った言葉にまたぞくり、と反応する。


「口開けてみろ」


欲に汚された口の中を見られてしまうんだ。そう思うと、一層心臓が高鳴った。恥ずかしいのに、従ってしまう。ユクラはもう正常な思考が出来ずに、ふるふると震える睫毛を伏せ、口を開けた。


「…やらしいなあ、ユクラは。全部飲むんだぞ〜?」


下卑た笑いを浮かべながら見つめられる。ユクラは苦味によって眉間に皺を寄せながら、こくりと喉を鳴らした。ロクロウの目はギラギラとしていて、いつもの穏やかな表情とは全く違っていた。ロクロウのほうがやらしいと言いたくなる程だった。


「よしよし、偉い偉い。…じゃあ、次の恥ずかしいこと、試さないとな」


頭を撫でながら目を細めたロクロウは、ユクラの顔を覗き込み微笑んだ。今からされることを想像して、ユクラはまた頬を紅潮させた。さっきからずっと下着は意味を成していない。はしたない期待で腰がびくつくと、小さく頷いてロクロウを見つめた。夜が更けていっても、恥ずかしい試みはまだまだ終わる気配がなかった。















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