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いつもなら起きてすぐは頭がボヤケているけれど、今日は何だかバッチリと意識が冴えていた。目線だけを見渡せばベッドの惨状が飛び込んでくる。シーツはグチャグチャで、身体はベタベタ。いつ寝付いたのかも覚えていない。
昨晩は結局、ソファの上だけでは飽き足らずベッドに移動してからも続いた。きっとリビングに行けば、寝室と同じような光景が広がっているのだろう。
何をするわけでもなく、じっと宙を見つめる。遠くに見える窓は、カーテン越しに光を透かしている。きっと今は朝なのだろう。明るさからいって、夜明けすぐというところだろうか。
なんとなく思い立って、ベッドから抜け出した。裸というわけにもいかず、壁にかけてあった適当なシャツを羽織る。どうやらメローネのものだったようで、サイズがあからさまに合わない。袖で隠れた指先に、体格差を感じてしまって苦笑する。まさかこんなところでも、私達が男と女であることを自覚させられるとは。
カーテンをめくって見れば、やはり夜が明けたばかりだった。薄暗さが遠のいて、陽の光が広がりつつある。窓を開けてみても、街は眠るように静かだった。
窓を隔てただけで、世界から取り残されたような気分になるのは不思議だ。今は眠っているメローネと、私と、静かな街に生きているのはそれだけ。取り残されているのか、自分から捨ててしまったのかは分からないけれど。
「あっちに花がたくさん咲いてたんだよ、冠を作ってあげる」
「花冠?俺、そんなもの実際に見るのはじめてだ」
ふいに、そんな独白を切り裂くように声が聞こえた。驚いて見渡せば、真下の裏道を子供が2人走ってくる。活発そうな少女と、少し控えめな少年。こんな時間に、親はどうしたのだろうか。
それにしても、何だか懐かしい会話だ。私とメローネも昔あんな話をした。街の外れに誰も近寄らない花畑があって、私はそれを得意気に彼に教えたものだ。驚いたように喜んでくれるのが嬉しくて、たくさんたくさんお喋りをし続けた。他愛ない約束も、したような気がする。
「メローネ、私達ずっと隣にいようね!」
「うん!ノエミがいる所なら、きっとそこが俺の居る場所だ!」
そうだ、そんな約束をした。見下ろす彼らのように、私達も。私達も?
違和感を覚えて、道の真ん中でくるくると話す子どもたちを見た。先程まで距離があったけれど、近づいた今では顔までハッキリと見える。そして、私は驚くあまりに息すら忘れてしまった。
少し長い髪の毛を揺らしていた幼いメローネ、スカートよりもキュロットが好きだった幼い私。あの日の私達が、そこには立っていた。
呆気にとられて口を開けたままの私を、幼いふたりが見上げた。目がかち合って、ニッコリと笑う。手をつないだ子どもたちが、道の向こうに走り去ってしまう。ああ、待って。貴方たちは行ってしまうの。もう二度と私達は子供にはなれないの。
消えてしまった背中に声も挙げられずに、涙だけがとめどなく溢れてくる。しゃくりあげるようにして手の付け根で目蓋を抑えても、私の手のひらは濡れ続けた。泣き続ける私は、覆うようにして抱き込まれるまで、メローネが近づいてきていることにも気づけなかった。
「子供が、子供がね、メローネ」
「ノエミ、どうしたんだ」
「子供たちがね、行ってしまったの、道の向こうに消えて、もう戻らないの」
「……ノエミは、そのことが悲しいのかい?」
「わからない、わからないのよ、どうして泣いてるのか、わからないの」
要領を得ない言葉を吐いて泣き続ける私を、メローネは抱きしめ続けた。それはまるで、癇癪に泣きわめく子供を慰める親のようにも見える。
おやすみなさい、もう二度とは会えない私達。私達は今日も、どうしようもなく大人になってしまったのだから。もう戻れない過去を思う私の姿は、きっと滑稽だった。
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