雨は嫌いだ。特に今日は気圧の変化が顕著に体調にあらわれたようで、気分も最悪だ。頭は痛い、腹は重い、気分は気だるい。おおよそ考えるう限り最悪のコンディションをしている。
 それでも仕事は仕事、手は抜けない。不調に目をつむって案件を片付け、早々にアジトへと歩を進める。ズキズキと痛む頭を抱えてアジトに戻れば、メローネとホルマジオがリビングでくつろいでいた。私が帰ってきたことには足音で気がついていたらしい。顔を見るなり労いの言葉をかけられる。

「おかえり、ノエミ」
「おうお疲れさん随分とヒデエ面してるぜ」
「ただいま、頭痛い、めちゃくちゃ痛い……」

 ソファに伸びていたメローネに寄り添うように座ると、雨で冷えた体に人肌の温もりが広がる。何もしないよりはマシな気がして、少しでも温まろうとメローネの肩に額を押し付けた。ちょっと痛みが和らいだ、気がしないでもない。
 そんな風に唸っている私を見下ろして、メローネは何かゴソゴソとソファー脇のキャビネットを漁っている。手足が長いから、座った場所からほとんど動いていないのはすごいな。モデルさんのようだ。

「ホルマジオ、そこのペットボトルくれるか?」
「ほらよ」
「ありがとう、ノエミ手出しな」

 顔をあげずに突き出した手のひらに、パッキングされた錠剤がのせられた。握りしめれば、尖ったプラスチックの包装が肌に刺さって痛い。

「薬なんて気の効いた物、アジトにあったんだ」
「前にイルーゾォがやらかしてよ、アイツとことん痛みに弱えからなあ」

 残ってて良かったじゃねえか、なんて言ってケラケラと笑うホルマジオは楽しそうだ。私が知らないってことは丁度仕事の日かな。楽しそうだから私も一部始終を見たかった。
 そんなことを考えていると、いつの間にか錠剤はメローネの手に移動していた。包装から取り出された錠剤が、私の唇に押し付けられる。

「ノエミ口開けて、水もちゃんと飲めよ」
「んあ」

 口内に指ごと突っ込まれた錠剤を飲み干そうとすれば、ご丁寧に蓋を開けられたペットボトルが差し出された。給餌される小鳥とはこんな気分なのだろうか。そんなことを考えながら水を飲ませてもらう。うん、硬水。

「……薬効くまで寝る、何かあったら起こしてね」

 メローネの腹を向くようにして、彼の膝を枕替わりにして寝そべる。狭いソファでは少し手足がはみ出るけれど、床よりは天国だ。散らばった自身の黒髪が、目蓋を覆い隠して鬱陶しい。それでも、仕事と頭痛で疲れていたから、睡魔と相思相愛になるのはさほど時間がかからなかった。

「お前ら見てるとよ、この前裏通りにいた猫の兄弟思い出すんだよ、どっちが上かは分かりゃしねえけど」
「精神的な落ち着きを鑑みれば俺が兄だろうな」

 意識を手放す数秒前の会話だけはきっちりと聞こえている。ああでも声を出すのも面倒くさい。起きたらすぐに訂正しようと決意をして、私は夢の世界へと旅立っていった。