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「俺を誰だと思ってる、そのくらい朝飯前だ」
今日の任務はイルーゾォと一緒だ。いつものようにみんな殺してしまえばいいわけではなくて、尋問にまわすために少なくとも一人を生け捕りにする必要がある。私が対象を捕獲し、イルーゾォが鏡の中に対象を隠しておく。そうすればうっかり皆始末してしまう危険性もないというわけだ。そんな事情もあって、私とイルーゾォはお互いにスタンドをフル稼働させて相手方の動向を見張っているのだ。
「ハウンドドッグ、こっち側もお願いね」
私の背後に立つ、金属を継ぎ接いで作られた犬のようなものこそが私のスタンド。匂いを感知するという能力は、敵を感知するレーダーとして非常に役立つ。
二人ともどちらかと言えば隠密向けの能力だけれども、今回のような任務にはうってつけだな、なんて自分ながら思う。仕事ができる女の気分だ。
さっそく鏡から手を伸ばして、通路奥に一人で突っ立っている女を引きずり込んだ。騒がれてはたまらないので、即座にスタンガンで気絶させる事も忘れない。
まるで空気の抜けた浮き輪みたいに床に伸びている女をスタンドに運ばせる。ビクビクと痙攣する邪魔な手足も縛っておいたし、これで完璧だ。
「とりあえず生け捕りにしたね、後は全部始末でいいんだっけ?」
「コイツら自体は下っ端で、ロクな情報持ってるやつはいないらしいからな」
「じゃあ鏡から1人ずつ撃ってくんで良いかなあ」
「どうせ似たり寄ったりの事しか吐かないだろうし、それで良いだろ」
「また私の腕だけ出すように頼むね、イルーゾォ」
床に転げた女の顔を見て、気絶していることを確かめる。喋れないように轡も噛ませておいた方が良いだろうか。そんなとりとめないことを考えている内に、女の顔に少しの引っ掛かりを覚えた。あれ、何だろう。
「ん、んん……?」
「何だよノエミ、何かあるのか」
「いやなんか、この女なんか……見覚えある……」
このわさわさと生い茂るような金の巻き毛を、何処かで見た気がするのだ。頭を捻らせて唸っている内に、風船が弾けるような閃きが生れる。ああ、思い出した。
「そうだこの女、川向うのバーでこの前メローネが引っ掻けてた奴じゃん、四つ辻を二人で歩いてたわ。」
「はあ? 何だよそれ、じゃあこいつ メローネのツレか? どうすんだよ……」
「メローネが本気かどうかは聞いてみれば分かるでしょ、まあそん時はそん時で対処しよ! ホラ、あんたもいつまでもノびてないで起きなって」
懐に仕舞い込んでいたピストルを取り出して、手に構えておく。脅し用と実用を兼ねてはいるが、周囲を汚すのも嫌なのであまり使いたくはない。
ピシピシと女の頬を張れば、呻き声を漏らしながら女が目を開けた。チンピラの一員やってるだけはあって、身体が頑丈なようで大変よろしい。
「な……何よアンタたち、何が目的!?」
「いやねちょっと聞きたいことがあるから、誤魔化さず答えてもらえると嬉しいな、ほんの数分で終わるから」
手に握った黒が目に映ったのか、思ったよりも女は暴れない。現状の打開策を思い付かれても厄介なので、早急に用を済ませたいところだ。
「あんたがこの前川沿いのバーで遊んでた長髪の男がいるでしょ、片目を髪で隠した男だよ」
一体何を聞かれるのかと身を強張らせていた女が、露骨に肩の力を抜く。それと同時に、何か挑発めいた表情すら浮かべている。これは面倒くさい勘違いをされてそうだ。
「……ハァ? アンタたち、アーノルドの何なわけ? アタシと彼の仲を妬んでこんなことをしたってんなら、とんだお笑い草ね!」
なおも何かを喋り続けている女を無視して、イルーゾォと目を合わせる。アーノルドはメローネが使う偽名の1つだ。名前すら教えていないというのなら、メローネにとってこの女が使い捨てにすぎないことがありありと窺える。
しかし、今の情報は私たちがメローネの仲間だからこそ知り得ているものだ。この女をこのまま尋問に引き渡したとして、余計な誤解を組織内に生むわけには行かない。あーあ、せっかく生け捕りにしたのに。
パン、パン、パン。部屋に乾いた破裂音が響く。三発も打ち込めばまあ平気だろう。ドサリと音を立てて倒れ付した身体から、ジワジワと血だまりが広がり始める。
「ごめんねイルーゾォ、また新しく捕まえなきゃ」
「余計な情報まで漏らされたら困るのはこっちだからな、別に良いけどよ、コイツが本当にメローネの本気の相手だったらどうしてたんだ?」
「恋人が敵組織の人間なんて辛いばっかりでしょ、メローネが知る前にこうしてたって」
結局は同じじゃねえかと毒づくイルーゾォに、ケラケラ笑う。そう、私たちに敵対してしまった時点で結果は変わらない。まあそれでも、下手に長引かせるよりは幸せな最期だったと思う。
とりあえずは新しい生け捕り対象を見つけなければ。私たちの意識は外に移って、足元に転がるもののことはすぐに忘れてしまった。
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