01

 鏡の中にヒト形の何かがいた。
 黒く細長い手足は針金のように蠢いて、絶えず甲高く吐き出される音は言葉にすら成っていない。正気を疑うような見目のソイツが、ガキのころ隣家に住んでいた少年だと俺は知っていた。

 たまには昔馴染みと話すのも悪くない。食事なんかどうだろう。
 そう考えて、手招かれるままに鏡に指先で触れようとして。ふいに後ろから呼び止められた。

「イルーゾォお前今日仕事だろ、そっちに行くんじゃねえぞ」

 そうか、なら今日はダメだ。軽く頷いて、リビングへと向かうホルマジオの後を追った。

 後で思い出したけれど、今日は俺に仕事なんてないし、隣家に少年なんて住んでいなかった。恥をかく前に勘違いに気がつけてよかった。

- 1 -
back