▼
鼻唄すら響いてしまいそうな静寂のなか、よく見ると一番前の椅子に人がいるのを見つけた。あの金髪を私はよく知っている。プロシュートだ。
特徴的なお団子頭は鳴りを潜めて、髪の毛は雑にひとくくりに纏められている。その上いつものスーツではなく、地味なシャツにパンツ姿。ともすれば見逃してしまいそうな装いではあるけれど、間違いなく彼だった。
そのまま声をかけようとして、隣にうごめく誰かがいることに気がついた。ふわふわとした金の髪に、小鹿のようにしなやかな手足。いとけない少女が、プロシュートにしきりに話しかけていた。もしかして家族だろうか。だとしたら、邪魔してしまうのは忍びない。
場を去ろうとして、空間を支配する違和感に気がついた。あんなにもすがり付かれているのに、プロシュートは微動だにしない。それに、少女はとても可愛らしいけれど、何もかもが完璧すぎる美しさで、なんだか見ていて落ち着かない。
「プロシュート」
気がつけば私はプロシュートの袖を掴んでいた。少女が忌々しげに私を睨む。彼は驚いたようにこちらを見て、少女はいつの間にか何処かへと消えていた。
「キサラか、どうした?」
「プロシュートって、妹さんいる?」
何か言いたげにしていた彼は、私の様子を見とめたらしい。そうして、何度か言葉にならない音を吐いた。向き直ったプロシュートの指先が、私の指に触れる。そのときはじめて、己の拳が白くなるほどに彼の袖を握りしめていた事に気が付いた。
「妹はいたぜ、ブルネットの、まるで天使みたいな子だった」
プロシュートが私の問いに答えてくれたのを聞いて、ホッとため息をつく。ああ、それでは先ほどのあの子は関係ない子だったのだ。無下にしてしまったのが、見知らぬ少女だと分かれば安心だ。仲間の家族を傷つけていなくて良かった。
▲
- 3 -back