06

「ギアッチョ、それお墓にお供えするの?」
「故人が好きだったモンが一番だろ。ならコレで良いんだよ。拭いたところ置くぞ、キサラ。」
「あっ、うん良いよ。いやでも、煙草とウイスキー隣に置くのはマズイよ。下手すれば火事だよ。」


 ソルベとジェラートがいなくなって、半年経った。この月日は早いようにも、遅いようにも思える。仲間の死とは年月の認識さえも狂わせるものだ。
 示し合わせたわけではないけれど、月命日には仲間内の誰かがこうして二人の墓を訪れる。今回は、非番の私とギアッチョだった。


 薄く積もった土埃を布で払えば、くすんでいた墓標が陽の光を反射して輝く。ギアッチョは結局、墓前に煙草とウイスキーを備えている。せめてむき出しは止めてほしいところだ。


「せめてお話できたら、こんなに寂しくないのにね。」
「墓石が喋るほうが不気味だろ。だったらまだ死体が喋ったほうが風情があるぜ。」
「ゾンビ映画の風情はちょっと……。」

 こうして墓の前で軽口を叩けるまでになったのも、月日が為せる技なのだろうか。年月は悲しみを癒やすというけれど、私達の中にある憎しみも恨みもまだまだ鮮明に燃え盛っている。きっとこの感情だけは、手脚が千切れようと手放せやしないのだ。


 会話をしている中で、ふと見上げた空には太陽がチリチリと輝いている。今日は随分と日差しが強い日だから、薄っすらと汗までかき出した。ハンカチはどこにしまったっけ。
 ゴソゴソとポケットを漁る私に、ギアッチョが背を向ける。あちらは確か自販機がある方角だ。

「水買ってくる。キサラも水で良いか。」
「ジュースが良い!」
「何買ってきても文句言うなよ。」


 スタスタと歩いて行ってしまったギアッチョは、もう背中すら見えない。ぶっきらぼうなギアッチョの優しさが、何だかんだ私は好きだ。
 さて、ギアッチョが戻ってくるまでもう少し墓の掃除をしておこう。


「……何これ?」

 墓石の直ぐ側、地面の上。振り返った其処には、いつの間にか小さいガラス玉が落ちていた。一瞬スタンド攻撃を疑ったけれど、周囲にそれらしい影は見えない。

 慎重に拾い上げたそれは、透き通る青色をしていた。陽光に透かせば、まるで海のように気泡が揺らめく。コロコロと指先でガラス玉を転がしていると、陽光を反射しすぎたのか一際眩しく輝いた。ああ、目がチカチカする。




 目から遠ざけるようにビー玉をポケットに突っ込んでも、感じた眩しさはかき消えない。思わずしゃがみこんでいると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。一つは低く落ち着いて、もう少しは軽やかに飛び跳ねるように。

「どうした、大丈夫かキサラ?」
「キサラの希望通りジュース買ってきたけど、具合でも悪い? 飲めなそうか?」
「ソルベ、ジェラート。」


 自販機から戻ってきたソルベとジェラートが、私を心配そうに見る。まさかビー玉で遊んでたら眩しすぎてしゃがみました、なんて、恥ずかしくてとても言えない。立ち眩みがしただけだと伝えれば、一先ずはふたり共納得したように顔を見合わせる。心配をかけてしまったな。

 後ろめたさから手を握った時に、いつの間にか地面に布巾を落としてしまったことに気がついた。雑巾みたいな布ではあるけれど、捨ててしまうのは勿体ない。地面にしゃがんで布巾を拾えば、掠れて名前の読めない墓石が目に入る。


「そういえば、これ誰の墓だっけ?」
「もう、朝言ったろ。隣の地区の元幹部の墓。隣地区のチームが所用で月命日に来れないから、俺らが代理なんだよ。」
「その分の謝礼も悪くなかったからな。臨時収入と思えばわりといい仕事だ。」
「ソルベはほーんと、金の話ばっかな!」

 ケラケラと笑うジェラートに、ソルベも満更でもなさそうだ。そうだ、そうだった。道理でこの墓に見覚えが無いはずだ。


 墓参りは終えて、一応の義理は果たした。収入も得た事だし、少し早めのランチなんてどうだろうかというジェラートの提案は如何にも素敵だ。
 二人の背中を追う途中に、何となくビー玉を、ポケットから取り出す。何度見ても、夕陽のように煌めく綺麗な赤色だった。

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