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仇を討ちたかったな。雪辱を果たしたかったな。私たちの悲願は、私達が望む形では叶わないのだろう。まさか、こんな少年にしてやられるなんて。
仰向けにヒュウヒュウと喉を鳴らす私を、彼が見つめる。虫の息ではロクに抵抗ができないのは事実だ。彼の青い瞳を見つめ返せば、自分の中の感情が凪いでいくようだった。
「ジョルノ・ジョバァーナ、貴方が踏み越えていくのは、無数の命なんでょうね」
「それでも僕には夢があるからな、立ち止まるわけには行かないさ」
「そう、それは素敵なことね……あなたの旅路にあらん限りの呪いと羨望を」
こっそりと胸ポケットの中で電源を入れた携帯電話は、電波の向こうに情報を届けたはずだ。ルーキーに注意しろ、彼の名前、私が死んだ状況。
些細に思える情報が、状況をひっくり返すのはよくある事だ。私の死だって、情報を掴むための対価と思えば無駄じゃない。きっと未来へ繋がっていく。
血だまりの中に、意識が溶ける。私という個は消えて、命は何処かへ燃え尽きていく。モヤが掛かったようにボヤケた視界は、次第に暗く閉じていった。
目を開ければ、そこは明るく白んだ場所だった。私以外には何もない、寂しさすら覚えるような空間。クスクスと笑う私の声が聞こえる。
「今来たばっかりなのね、キサラ!あなたは私達のなかで一番新しく加わった私だよ」
「こんにちはキサラ、貴方の最後はあの少年だったのね?私なんかはほら、穴だらけだったから」
「あっ、新しい私が来たんだね?わからないことばかりでしょう、何でも聞いてね」
まるで餌に群がる小鳥のように、血まみれの私を無数の私が取り囲んでいく。ジッパーでバラバラに割かれた私、ウイルスに侵されて溶けた私、機銃掃射で穴だらけの私、大きく風穴の空いた私。そして私の誰もが、命を既に終えていた。
床に転がる私を、近くにいた比較的傷の無い私が抱き起こす。感触はあるのに、氷のように身体は冷え切っている。私達はもう終わったものなのだと、痛いほどに実感させられるようだった。
「ありがとう、それにしても貴方は綺麗な最期だったんだね」
「どういたしまして!これね、本当は見た目は好きに出来るの!死んでるしね?でもそうすると見分けがつかないから……貴方も私なんだから出来るよ」
そんなものなのだろうか。半信半疑で動く身体を願ってみれば、瞬く間にまとわり付いていた赤が消える。重かった指先も軽々と空をきって、足元ではステップすら踏めそうだ。
そんな私の様子を見ていた私が、ニッコリと笑って手を引いてくる。周囲の私が笑って見送っているのを見るに、案内でもしてくれるのだろうか。大人しく先の見えない道を歩くことにした。
とはいえ長そうな道中、無言もつまらないだろう。道すがらに場をつなごうと、私は私に問いかけ始める。
「ねえ、私?私達は死んだのに、どうしてこんな所に留まっているの」
「私は私に会うことが出来るから、違う未来に繋がるキサラを待っているの」
「だろうね、私も留まり続ける事ができるならそうするもの!あ、コレからはそうなる、かな」
自分相手に会話をするのも奇妙な心地だ。なんせ、答えは言われる前に全てわかってしまう。犯人を知って読むミステリーのような、先を見通す感触の奇妙さはいつまで経っても慣れなそうだ。
気がつけば先導する私は、足を止めていた。目の前にあるのは宙に浮かぶ無数の額縁。額の向こうには、よく見知った顔たちが見えていた。協会に佇むプロシュートの後ろ姿、墓場を往くギアッチョの足跡、歩くたびに色味の変わるメローネの髪の毛。
くるくると移り変わる額縁の外の世界は、まるで映画のように美しく切り取られる。私のいた世界の横側にあったのは、不思議なものたちの住まう場所のすぐ近く。死のルールが支配する世界からは、今を生きる彼らがこの世で最も美しく見えた。
「眩しくって、綺麗でしょ」
横で笑う私が、右隅に置かれた小さな額を指差す。覗き込んだ向こうには、おびただしい鏡の中を迷うペッシの姿が映っていた。この屋敷は、いつかの。
「私達は、彼らに助言できないの?」
「出来る時もあるけれど、出来ない時もあって……こちらとあちらが繋がるタイミングは分からないの、私達に出来るのは、彼らのより良い未来への祈りだけだよ」
「そうして、私達は待ち続ける?」
「小さな情報だって、積み重なれば大きな武器でしょう?貴方も知っているからここへ来た」
言葉を聞きながら、額縁に伸ばした手が景色を揺らめかせる。そうだ、きっと無数の私達はそのためにここにいる。私達は彼らがいつか、私達がいつか、笑顔で何処かへと辿り着ける日を待ち続けるのだ。
「そっちじゃないよペッシ、こっちこっち」
「キサラ?何処にいるんだ?」
額縁の外へ声をかければ、ペッシが辺りを見回し始めた。貴方にはまだ、未来がある。もしかしたら、貴方こそがたどり着くのかもしれない。その為なら、私は永遠の時だって過ごしてみせよう。
いつの日か、いつの日か。私は私に約束をして、心の底から微笑んだ。
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