1


恋なんてするんじゃなかった。

「目にも入ってないんだろうな」
「きみは小さいもんな」
「そういう意味じゃない」

物理的な話じゃなくて。確かにキバナさんは大きすぎる。彼から見たら大抵の人間はチビに分類されてしまうだろう。
わたしが3時間並んでようやく買えたスコーンを目の前のチャンピオンは遠慮なくざくざくと咀嚼していく。かくいう彼もそれなりの身長だ。にしても優雅なティータイムの雰囲気なんてまるでない。せめてもう少し味わってほしいし、食べすぎだ。

「相談料としたら安いくらいだぜ」
「頼んでませんよ。ダンデさんが勝手にやってきたんじゃないですか」
「声かけてほしそうだったじゃないか」

そんなことない、と言いたいけれど。目の前のダンデさんは見透かしたように笑う。ジムリーダーと一般人。月とすっぽん。あまりに不毛な恋だ。愚痴る相手が欲しいというのは本音かもしれない。

「別の男、紹介してやろうか」
「別の人、好きになれれば楽なんですけどね」

簡単に心変わりしてくれればこんなバカみたいに悩んでいないんだろうか。キバナさんに惹かれてかれこれ数年になる。同郷で昔馴染みのダンデさんに誘われて、そのライバルと称される彼の試合を初めて見てから、ずっとキバナさんはきらきらと光って見える。馬鹿だなあ、叶うはずない恋なのに。

「例えば、オレとか」
「ダンデさん?」
「どうだ?」
「どうだって言われても…」

唐突な提案すぎるよ。わたしがなんで悩んでいるのかわかっていますか?ただでさえ身分違い、高嶺の花なのに。チャンピオンに恋なんて、有り得ないでしょうが。一蹴すればダンデさんはそれもそうだな!と笑った。

「ああ、でもいつかキバナさんがチャンピオンになったらますます手が届かなくなっちゃう…」
「ん?なあおい、今オレが負ける前提の話をしなかったか?」

耳聡いダンデさんはむにっと頬を指で引っ張ってきた。やめてくださいよーと振り払うと残っていたスコーンを引っ掴んだその手はそのまま口に放られて。あああ!と声を上げる間も無くスコーンとついでに紅茶を飲み下すと、「次のトーナメントでも全力で叩きのめすさ」といい笑顔なのに物騒な言葉を残してダンデさんは去っていった。


- 20 -

*前次#


ページ:



ALICE+