追跡中

「900見える?」「標的は15m先、コーヒーショップ前を通り過ぎたところです」人混みの中を日向と歩く。変異体の追跡中だ、今回は恋人のふりをしているが、いかんせん休日のメインストリートとなれば人通りも半端なものではない。標準身長の日向は、頭一つ飛び出した私が標的の動きに合わせて歩いて行くのになんとか着いてきていた。「どこ?見えない」「あなたの身長ではあと15センチは必要でしょう」「はあ、牛乳飲もうかなあ…」「その歳では最早無駄な足掻きだと推測しますか、お好きなように」「一言多いよね900は…」ぶつぶつ文句を言いながら歩く日向、だったが途中でどんと人にぶつかる。握っていた私のコートの端から手が離れるのを見兼ねて、がしっとその手を掴んだ。驚いたように日向がこっちを見る。「な、なに?」「はぐれられたら困るので。それに今回はあくまで恋人同士の設定です。手くらい繋いでいても不自然ではない」「だ、けど」それ以上は聞かずに、きゅうと手を繋ぎ直す。黙りこくった日向の手から伝わる温度や脈拍が徐々に高く、速まっていくことに、人知れず口角が上がった。「900って握力いくつ?」「500ほど」「離して!離して!!」

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