「あった……!」
砂浜に体を半分埋めていた一枚を拾い上げサッと海水で洗ってみると、薄桃色の美しい色彩がハッキリとわかる。サラサ貝。
「カイリ、喜んでくれるかなぁ」
仲の良い赤髪の少女が喜ぶ顔を想像しながら、胸の高さまで大事に構えて走りだす。柔らかい砂浜はとても走りにくくて、急げば急ぐほど足をとられそうになるけれど、絶対無事に届けなくちゃ。
白いノースリーブに、紫色のショートパンツ。ブレスレットをつけた両腕をぶらぶらさせている。
「カイリ〜!」
橋の下を歩いていた短い赤髪の少女を見つけて大声で呼ぶ。カイリはゆっくりこちらを振り返ると、花のように可憐に笑った。
「あ、フィリア。そんなに急いでどうしたの?」
「見つけたの、カイリが探していた貝がら!」
そっと掌を開き、無事を確認してほっとする。カイリがポケットから別の一枚を取り出して、こちらのものと比べてみせた。
「うーん、ごめんね。大きさが合わないみたい」
「そっかぁ……」
カイリが必要だと探しているサラサ貝。傷や欠けてなどおらず、同じ大きさのものが五枚いるらしい。すでに三枚は揃っているものの、あと二枚が難しい。いつもなにかと自分を気にかけてくれる彼女の助けになりたいという気持ちに突き動かされ、絶対に残りを見つけようと改めて心に誓った。
「また探してくるよ」
「ありがとう。出発までに完成させられるといいんだけど──」
ふと、カイリが何かを見つけたらしくそちらを凝視する。つられて見れば、イカダの材料を探しに行っているはずの茶髪の少年が、組んだ腕を枕にし堂々と昼寝をしている姿があった。カイリはやれやれとため息をついたが、自分は彼を見るだけで嬉しくなる。
「ソラだ!」
「なかなか戻ってこないと思ったら、やっぱり。フィリア、いっしょに起こしに行こう」
「うんっ」
カイリと手を繋ぎますます嬉しくなる。「寝顔にいたずらしちゃおうよ」なんて提案するカイリに頷いて、無防備にぐうぐう寝てるソラへ忍び足で近寄った。
★ ★ ★
残された時間は少ない
僕はもう戻れない
けれど急がないで、恐れないで
扉はまだ閉ざされている
深い深い闇のなか、わずかな光に縋り、見失わないように進んでいた。遠くから響いてくる不思議な声に導かれて、目の前に続く色鮮やかなガラスの道を進む。
突然、武器を選ばされたり、生き物かすらわからない変な黒い影たちに襲われて戦ったり、タルや木箱を運ばされたかと思えば、友達の三人組に妙ななぞなぞをかけられたり──。
わけがわからないまま、ただ先へ先へと足を進める。
赤いステンドグラスから黄色いステンドグラスの上にたどり着いたとき、空から強い光が照っていた。迷路のゴールに着いたのかと期待をしたが、違うようだった。
光に近づけば近づくほど、キミ自身の影は大きくなる
そこで、導く声の様子が変わる。自分の影を振り向くと、長く伸びた影もこちらを見た。いくら大きくなったって、影は影だ。そう思いつつ眺めていると、影がまるで起き上がるかのように地面から抜け出してきた。驚いている間にどんどん大きくなっていって、さっきまで蹴散らしてきた影たちとは比べ物にならないほどになる。二階建ての家だって追い越せるほどの巨大な影。モジャモジャとした髪、屈強そうな体つき、ハートの形にくりぬかれた腹部──バケモノは、自分の体より大きな拳を握り締めて、たたきつぶそうとこちらを見下ろす。
そして忘れないで
怖くなって、背を向け走り出し、ステンドグラスの縁で急ブレーキ。下は底なしの暗闇で、その中へ飛び込むか、目の前のバケモノを倒すしかなかった。
とにかく、無我夢中で戦った。バケモノが地面を殴った箇所から闇があふれ、小さな影たちがワラワラ湧いて一緒になって襲ってきた。
──だけど恐れないで
バケモノの拳を躱し、腕に飛び乗り肩へ、鈍そうな頭を思い切り殴りつけると、痛がる素振りをして動きを止めた。倒したのか。確認するまえに、着地したとたん勝手に武器が消えてしまう。
気がつくと足元に闇が広がっていた。沼のようなそれから逃げきれず、ずぶずぶと呑みこまれてゆく。
キミは世界一強い武器をもっている
たすけて。姿も見えない声に手を伸ばした。しかし、掴んでくれる手などなく。必死にもがくが虚しく飲み込まれてゆく。
だから忘れないで
何もかもが黒く塗りつぶされてゆき、息もできなくなる。
その扉を開くのはキミなんだ