魔力で繋いで見せていた映像に、そこにいた面々は険しい表情を見せたり、バカにしたように嗤ったりしていた。
「誰があの地にハートレスを送ったのだ?」
痩せた髭面の男は、杖をカツカツ鳴らしながら問うてきた。
「あのハンターが呼びよせたのさ。あの男の強い欲望がハートレスどものエジキとなった。少々、エサをやりすぎてしまったようだけどね」
あの程度の闇を抱えた者など掃いて捨てるほどいるが、いま世界全体を包む闇が強まり、世界同士を隔てる壁も破壊されている。あれほどたやすく男がハートレスを呼び寄せられたのはそのせいであろう。
「結局、自分が食われちまった」
ハンターがハートレスにつぶされてからずっと笑いっぱなしだったズダ袋の男は、まだしつこくケタケタ笑っていた。
髭面の男はそれをつまらぬことのように、フンと鼻で笑い飛ばす。
「ハートレス、あの男のようなもろい心で扱えるシロモノではない。問題は少年の方だ。ついに鍵穴まで見つけおった」
幼子なりにキーブレードの勇者の務めを果たしている様には驚いたが、それでも過去のキーブレード使いに比べたら児戯である。心の強さも、物事の見方も、経験も。
「なに、他の鍵穴を見つけるにはまだ時間がかかろう」
改めて机の上に彼らを魔力によって映す。
ヘラヘラ笑いながら歩いている呑気さは、全く警戒すいるに値しない。確かに今回、彼らはその世界の危機は救っただろうが、このすべての世界を巻き込む深き闇を祓う力を持っているようには到底見えない。世界が苦しまぎれに生み出した小さな光――フッと吹けば消えてしまいそうな光だ。
少年の後ろをとぼとぼ歩いている少女に目をやった。今回は、自分にとって利用価値がある。
「それに、もうひとつの目的に気づいている様子もない」
「プリンセスってやつかい」
深海の魔女が興味深そうにこちらを見ている。
「プリンセスは着実に、我らの手に集まりつつある。そして、今またひとり――」
魔法を使い、手に入れたばかりの彼女をこの場に呼んだ。金の髪のおしゃべりなアリスは、ただただ、小鳥のように震えていた。
★ ★ ★
こころの洞窟から、テントに戻ってきた。短い間だったが、何度このテントに帰り、ジェーンの笑顔に出迎えてもらったことだろう。
まず、きりだしたのはソラ。
「それじゃ俺たち、そろそろ行くね」
ジェーンが「ええ」と頷く。「名残惜しいわ」と全員と握手した。
「あなたたちの船はどこまで? 私たちはイギリスなんだけど、もし同じなら――」
「あ、ええと、まあ、僕たちは違うけど、ちょっとそこまで」
タークに好かれてから、ずっとドナルドの冷や汗顔を見続けている。彼が適当にごまかすのを、ジェーンは「あらそう」とまた残念そうに相槌していた。
ソラとターザンが握手しようとして、ターザンはぐっとソラを引き寄せハグをしていた。
「ソラ、ターザン、ともだち」
「ああ。ずっと、ともだちだ」
後ろ髪が引かれる思いで、ドナルドたちが用意したセーブポイントへ向かう。すっかり見慣れたジャングルの中を進み、迷わず大樹の家方面を目指していた。
道すがら、少し気になったことを思い出して、ソラに問うた。
「ソラ。ターザンと初めて会った時、しきりにターザンの後ろをのぞき込んでいたのは、どうしてだったの?」
「え、そんなことあったっけ?」
「うん。あった」
更に訊ねれば、記憶を呼び起こそうと、ソラが眉を寄せてう〜んと唸った。
「あぁ、思い出した。あの時、なんだかカイリが見えた気がしたんだよ。だから、あの時、カイリがここにいるって言われて信じたんだ」
「カイリが見えた?」
ターザンにカイリの面影など見るわけないし、奇妙な話である。
「結局この世界にもいなかったし。カイリもリクも、いまどこで何をしているんだろう」
「そうだね……」
無事で、笑顔でいてほしい。こんな危険な獣やハートレスもいない、ディスティニーアイランドのように安全で、安心できる世界で。しかし、今のところ訪ねたすべての世界でハートレスが出ている中、その願いはどれだけ贅沢なものなのだろう。
「ねぇ、リクとカイリを見つけたら、ソラはキーブレードの勇者をやめるの?」
「え?」
ソラがポカンとした顔で足を止め、それからハハ、軽く笑って歩きだした。
「やめるわけないだろ。俺がやめたら、他に誰が世界を救えるんだ?」
「じゃあ、ソラ以外に、キーブレードを持ってる人が現れたら?」
「どうしてそんなことを聞くんだよ」
「だって」
これ以上は言いたくても言えなかった。平和なディスティニーアイランドの砂浜で呑気に昼寝をしていたソラの寝顔を思い出す。どうしてソラが、戦いなど縁のなかったソラが、血と泥にまみれて世界の命運など背負わせられて、危険な戦いをしなくてはいけないの――なんて。それなら、ついてくるなと言われてしまうかもしれない。
「リクやカイリを見つけても、旅を続けたら、やっぱり離れ離れになっちゃうでしょ」
随分ごまかした物言いを、ソラは真剣にとりあってくれた。
「う〜ん。リクなら俺とチャンバラをしていたし、仲間に入れてあげられるかも。カイリには危ないから、待っててもらうしかないかなぁ……」
それからセーブポイントまで、「リクとならどんなハートレスがきても倒せそうだ!」とか「リクはすごいから、すぐ相手の弱点が分かるんだ。だから解析係にしよう!」とか、リクと共に戦うソラの未来想像図を聞いていた。うん、うんと相槌を打ちながら、リクやカイリなら、ソラをこの過酷な宿命から助けることができるのだろうかと考えた。
グミシップはソラにめちゃくちゃにボタンを押されたが、どうやら無事だったらしい。
操縦席に座ったドナルドが、出発をためらった。どうやら次なる目的地がレーダーに浮上しないらしい。
背もたれに寄りかかり、リラックスした状態のソラが、先ほど鍵穴から零れ落ちたグミブロックを照明の光にかざした。マーブル色はきらきら光っていた。
「なあ、見てみろよホラ、あの穴から出てきたグミブロック。他のとはちがうみたいだ……いったい何に使うんだろ?」
「……うーん」
レーダーを見るのを諦めたドナルドが、一緒に首をひねる。この中でドナルドが分からないことは、もれなく全員に分からないことである。
「レオンさんなら知ってるかもね」
グーフィーの提案に、ドナルドが素直に同意した。
「うん、そうだね。一度トラヴァースタウンに戻ろうか? どうせ新しい世界も見つかっていないし」
ドナルドが改めてグミシップのエンジンをかける。まだシートベルトを締めていないソラが身を乗り出した。
「じゃあ俺、操縦したい!」
「こ、こら、やめろ!」
ドナルドが何度目かの冷や汗顔をした。笑顔エネルギーのため、困り笑いになっているのが迫力に欠けるのか、ソラはぐいぐいハンドルを奪おうと手を伸ばす。
「大丈夫だって。俺はキーブレードに選ばれたんだぞ!」
「ダメな物はダメ!」
グーフィーと無言のまま顔を見合わせる。とりあえず、グミシップがどれだけ揺れてもシートベルトだけは外すまいと心に誓った。