最近、毎晩のようにフィリアが俺の部屋にやってくる。
「ヴェン!今日も勝負!」
いつものようにフィリアが俺の部屋に入ってきて、宣戦布告をしてきた。
俺、今日は読みたい本があったんだけど……
「……フィリア……今日もするのか?」
「もちろん!今日こそ負けないんだから!」
「毎日懲りないな。なんでいつも俺となんだ?テラやアクアとすればいいじゃないか」
俺がそう言ったら、フィリアが頬を膨らませた。
「テラとアクアには勝ったことあるもの。……それに私は、どうしてもヴェンに勝ちたいの!」
……テラもアクアもワザと負けたな・・・。
俺だけは、フィリアに絶対負けてやらない。
フィリアがあれをやり始めた時、マスターに「負けてやらないのか?」って聞かれたけど、(好きな子に)負けるなんて(かっこ悪いから)嫌だって言い返したっけ。
そう思ってたら、フィリアが俺の手から本を取り上げた。
「もう、ヴェン早くっ!」
「はいはい……今日はどこでやる?」
「んーと、……キーブレードボードにする!」
「わかった。」
最近、フィリアが俺に勝負を挑んでくるもの。
心の能力を目覚めさせるらしい、サイコロゲーム。
……コマンドボード。
「ここ、いただき」
「あっ、あーっ!私も狙ってたのに……!」
「そこ、俺のレベルMAXパネル。通行料ちょうだい」
「う、ううう……っ!」
「はい、キャプテン・ダークあげるよ」
「いっ、いらない!いらない!……ああっ!勝手に買い取っちゃった……」
……まぁこんな感じで、今日も俺のボロ勝ち。
勝負回数は10を越えたあたりから数えてない。
フィリアは必死にがんばってるけど、素直だから何度やっても俺が勝てる。
……性格が出る、ってやつかな……?
「……また負けたー……」
また俺がゴールしたら、フィリアが俯いた。
「フィリアはキャプテン・ダークに好かれすぎだよ」
「違うよっ全部ヴェンが押し付けてきたんじゃない!」
「そうだったっけ」
フィリアがむーっと俺を睨むけど、無視してコマンドボードを終了する。
頼まれるまま何度も勝負して、もう寝ないといけない時間だった。
でも、俺がコマンドボードから出ようとしたら、フィリアが引き止めてきた。
「……ヴェン、もう一回だけ!」
「だめ。今日はもう寝ないと「お願い!あと一回だけー!」
フィリアが必死に頼んでくる。
あのさ……俺だって男なんですけど……。
夜遅くまで好きな子と一緒にいるのって、正直、こう……そーゆー考えが浮かぶ事もあるわけで……。
しかも、フィリアは寝るギリギリまで勝負できるようにって、風呂に入ってやってくるから・・・湯上りの姿とか、ふわっと香ってくる石鹸のいい匂いとか……正直やばい。
なのに、当の本人は全くの無防備だし。
信用されている、って言えば、響きはいいのかもしれないけれど……。
はぁ……俺、フィリアに男って認識されてないのかも……。
「ヴェン、お願い……!」
こんな俺の気持ちなんて知らないで、フィリアがまだ頼み込んでくる。
「はぁ……じゃあ、次は負けた方が勝った方の命令をなんでも一つ聞く!って条件ならいいよ」
罰ゲームでもつければ、諦めるだろう。
「なんでも?うん、わかった!」
「え」
フィリアは俺の予想を裏切って、あっさりとすぐに頷いた。
なんでも、なのに……。
本当に俺って……、フィリアになんて思われてるんだろう。
ちょっと……いや、かなりへこむかも……。
次のゲームの結果も、もちろん俺の勝ちで終わった。
「もーーっ!……勝てないなぁ……」
「はい。今日はもうおしまいだよ」
「……うぅー……」
納得いかないって顔でフィリアがコマンドボードを睨んだけど、別に何も仕掛けとかないからな。
悔しがるフィリアを引きずって、コマンドボードの空間から俺の部屋に戻ってきた。
「あーあー、何で勝てないんだろう。……でも、明日は絶対勝つんだから!」
「明日も?どうしてそんなに俺に勝ちたいんだ?」
聞いてみたら、なぜかフィリアが顔を真っ赤にした。
「そっ、それは内緒…………」
「えっ、何で?」
「なんでも!……私が勝てるまで、秘密!」
なんだろう?気になるな……。でも、これからも負ける気はないし。
「……さっきのゲーム、俺が勝ったから命令。その秘密、今言ってよ」
「あっ、……ずるい!」
「勝者の特権」
ほら、と促せば、フィリアが顔をまた真っ赤にして、うー、とかあー、とか唸った。
フィリアがあんなに顔を真っ赤にするほどの内緒ってなんだろう。
……そんなに変なことなのか?
……なんだかこっちも緊張してくるな……。
しばらくして、唸り続けたフィリアが、ついに決心したように俺を見た。
「…………じゃあ、ヴェン、言うから……後ろ向いて」
「……?……こう?」
俺はフィリアの言うとおり、フィリアに背を向けて壁の方を見た。
何する気なんだ?って思ってたら、いい匂いがふわっと濃くなって、背中に温かくて柔らかいものがくっついた。
白くて細い腕が、俺の胸の前で交差する。
……フィリアに抱きつかれてた。
「フィリア!?」
「今、私の顔見ないで」
俺はびっくりして振り返ろうとしたけど、ぎゅって抱きしめてくる力で、それを止められた。
ぴったりくっついてるから、見るなって言ったフィリアがどんな顔をしてるのかもわからない。
フィリアの心臓の音が伝わってくる。
俺の心臓も同じくらい大きい音をたてていた。
ちょっと待って、今一体何が起こってるんだ!?
俺が慌ててたら、フィリアが小さい声で言った。
「…………勝ってから言おうって思っていたんだけど……私、その……ヴェンのことが、……好きなの……」
「えっ……!?」
…………今なんて?
フィリアが俺を好きって聞こえたけど……。
…………まさかな。
じゃあ、これは夢か?
いや、……俺まだ寝てないよな?
それに、背中の柔らかさは本物だし……。
え……本当に、フィリアが俺を……?
俺がそんなこと考えてたら、パッとフィリアの手と温もりが背中から離れていった。
「っ……そっ、それだけ!…………おやすみなさいっ!」
「あ!待って!フィリア!」
「っ……!」
俺は慌てて振り返って、部屋から出ようとしたフィリアの手を掴んで引き止めた。
恥ずかしいのか、フィリアは掴んでないほうの手をぶんぶん振り回してる。
「ごご、ごめんね!いきなり変なこと言って……!私……あの、えっと、そのっ……!」
フィリアは少し泣きそうな声だった。
俺がすぐ答えてあげなかったから、ふられるって思ったのかもしれない。
「俺もフィリアが好きだ」
「……え……?」
フィリアが手を止めた。
「ごめん、ちょっと、都合のいい夢かと思ってたから……。俺も、フィリアが好きだよ」
「……本当、に……?嘘じゃない?」
「本当。嘘じゃない。……だから、こっち向いて、フィリア」
そう言うと、フィリアがためらいながらも振り向いてくれた。
真っ赤な顔で、目が潤んでて……すごくかわいい。
「フィリア……」
「あっ……、」
そっと、フィリアの髪に触れてみた。
さらさらって指を流れて、とても綺麗だ。
「ヴェン、くすぐったいよ……」
撫でていたら、フィリアが俺を見上げて微笑んだ。
うわっ、ちょっと、その顔は反則……!
すごく抱きしめたいし、キスしたいな……
ずーーーーっとガマンしてきたんだし……
今なら…………いいよな?
優しく、フィリアの頬をなでて少し上を向かせた。
フィリアが、察してくれて、目を閉じる。
俺は、ゆっくりフィリアの唇に触れるだけのキスをした。
フィリアの唇、すごく柔らかい……。
もっとその感触を味わいたくて、何回も唇を合わせた。
……本当はそれ以上のこともしたかったけど、いきなりいろいろやると嫌われちゃうよな……。
うん、今はこれでガマンしなきゃ。
キスした後、フィリアを少し強めに抱きしめた。
そしたら、フィリアも俺の背に手をまわして応えてくれた。
ああ、もう、好きだ……大好きだ!
「……フィリア……大好きだ!」
「……うん、私も!ヴェン、大好き……っ!」
両思いだなんて思ってなかったから、今……すごく幸せだ。
それに、フィリアが俺に告白するために、あんな熱心に勝負を挑んできてくれてくれたのかと思うと、かなり嬉しい。
……あれ?
「……なあフィリア、なんでコマンドボードに勝ってから告白しようと思ってたんだ?」
「ん……『告白するならヴェンにコマンドボードに勝って、心を成長させてからのほうがいいだろう』って、マスターが……」
「……へぇ…………マスターが、ね……」
適当なこと言ってるけど、フィリアを溺愛してるあのマスターが、純粋な思いで助言をしてるはずがない。
俺に負ける気がないのを知ってて、わざとそう言っているに決まってた。
……でも次の日、マスターの鬚が全部なくなっていたのは、また別の話だ。
2010.3.27