序章[0]


 ――この世界には、双子の女神様が居るのだと言う。

 すべての生を司る姉神。すべての死を司る妹神。
 僕たちの住むこの世界は姉神が創り出したいわば「表」の世界で、その「裏」には妹神の創った死者たちの世界があるのだと言う。
 二人は力を合わせ、生と死の均衡を保ちながら世界を管理してきた――はずだった。
 時が経ち二つの世界の住人が増えるにつれ、二人の女神の力も増した。増しすぎてしまった。あまりに莫大なその力を、双子の女神は御しきれなかった。
 毎日たくさんの命が生まれ、毎日たくさんの命が消えた。それは彼女たちの意思とは関係なく、日々繰り返される。
 このままではいけないと考えた二人は、ついに自分たちごと自分たちの力を封じてしまうことを思いついた。

 双子の女神は、永い永い眠りにつくことを決めた。二つの世界を侵さないよう、自分たちの力を封じるために。
 彼女たちはその力を使って、「精霊」と呼ばれる存在を生み出した。そして彼らに、彼女たちを封印するための鍵を与えた。それから彼女たちは、封印を守るための神殿を各地に作らせた。彼女たちの封印をより強固にするためだ。こうして彼女たちは、深い眠りの底へと自らを沈めた。

 しかし、世界を管理するための女神が居なくなったとき、世界はどうなるのだろうか?彼女たちはそれだけが不安だった。だから彼女たちは、世界に自分の使いとなる者を残していったのだそうだ。治めるべき女神が消え、残された世界が終焉へと向かい始めたとき、彼女たちの眠りを覚ますための使いを人々のなかにそっと紛れ込ませていったのだと言う。


 これが、僕の知っているこの世界の創世神話だ。世界に様々な国はあっても、どの地域にもこの物語はほぼ同じ形で伝わっている。
 本当にあったことなのかもしれないと思えるぐらいには、この神話は世界中に広まっている。実際に各地には双子女神を祀る神殿がいくつもあるし、学校でも必ずこの話を取り扱う。子どもが生まれると姉神を讃える歌を歌うし、誰かが亡くなるとその墓に妹神への贈り物を添える。僕たちの生活にこの物語は溶け込んでいる。
 そうは言っても、正直、僕はどこか信じていなかった。たぶん僕だけじゃない。子どもも大人も、村の人々も、大司教様でさえ、きっと心のどこかにはその疑念があったと思う。
 だって、この物語が真実だと誰が証明できるだろう?眠りについてしまった女神様たちは、僕たちの目の前に現れてくれることはない。

 だから、おそらく僕たちは信じ切れていなかった――あの、収穫祭の日までは。


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