教科書を開いて、ノートに問題を写して、すぐに止まってしまう彼の手に正面から声を掛ける。ずっと戦場で生活してきた遊真くんは生きる能力は高いけど、勉強面は正直厳しいところは仕方がないことだ。だけど高校進学が決まった以上、このままでいるわけにもいかない。いくらボーダーで多少なり目を瞑ってもらえたとしても限度があるだろう。
「遊真くん、止まってる」
「さっぱりわからん」
「どこ?」
ここ、と数学の問題を示される。数学は好きだから答えられるけれど、私自身、成績が良いわけではない。順位で言えば常に真ん中キープだ。遊真くんに教える範囲が教科書の基本問題だからなんとかなっているだけで、高校に入ったら私だってどうなるかわからない。
「遊真くん、勉強頑張ろうね」
「いや、がんばってるぞ」
「これからも。せっかく同じ高校いけるんだからさ」
「ふむ?」
「高校はあまりに成績悪いと学年上がれなかったりするからさ」
「それってどうなるの?」
「私や修くんに置いて行かれる」
「それはこまる」
再び問題に向き合い始める遊真くん。私も自身の課題に向き合いながら今後のことを考える。どんな些細なことでもいい、新しい友達ができて、ボーダーの活動があって、修くんたちと頑張って。遊真くんにとって楽しい時間がこれからもたくさん訪れて、そしてその隣に私がいますように。
「アヤリといるの、おれ楽しいからな」
こうやって苦手な勉強するのも。と視線はノートにむけたまま呟く遊真くん。なんで私の考えていることわかったのだろう。驚いたまま言葉を発せずにいると、声に出てたぞと、赤い目をちらりとこちらに向けられる。油断したなぁ。
「たのしみだな、こうこうも」
「そうだね、みんなでお昼ご飯とか食べたいな」
「それいいな」
「じゃあ、高校生活が勉強ばかりにならないように頑張ろう」
「これは手厳しい……」
困り顔になる遊真くんが珍しくて笑ってしまう。遊真くんは何に笑われたのかわからないと言いたげな顔をしていたけれど、特に私に何も聞いてこなくて、ノートに向かって再びシャーペンを動かし始めた。
「アヤリのセーラー服もたのしみですな」
「そんな期待するものじゃないと思うよ」
「きっと似合ってかわいいと思うからな」
「……遊真くんのばか」
_ /reload/novel/1/?index=1