東の空が明るくなり始めて、全体がオレンジとみずいろが混ざった色になるこの時間。室内にいるよりも外にいた方が、誰かを起こす心配もないしなにより気持ちがいい。すっかり夜からこの時間になるまで外で過ごすことにも慣れてしまった。今までであればレプリカがいて、話し相手になってくれていたが、今はまぁ一人でもなんとか過ごせている。
ヴーッヴーッ
「お?」
ポケットの中に入れていた自身のスマートフォンが震えた。朝早くに誰かから連絡が来るのは珍しい。オサムがまた徹夜して作戦でも練っていたのだろうか、やれやれ、がんばってるのはいいが注意してやらんと。ポケットの中から取り出し、画面を確認すると『おはよう』の一文が新着画面に表示されていた。送り主は予想していた隊長ではなく、この時間なら寝ているはずの愛しいコイビトの名前だった。
「どうした? ねれてなかったか?」
『ちがうよ、なんか目がさめちゃった』
コイビトのアヤリは"ふみんしょー"という病気を患っている。まぁ、簡単に言えば寝るのが下手くそで時間がかかるし、ちょっとしたことで起きてしまうとのこと。経過は順調なようで今もクスリは飲むことにはなっているが、飲んじゃえばしっかりみんなと同じくらいまで寝ているようだった。普段、アヤリを部屋に送ったり支部に泊まったりするときはしっかり寝るように飲んだか確認したり、寝付くまで一緒にいたりするが眠くないと喋りながらも、効き目がでてこればコロッと朝の遅刻しない時間まで眠れていた。
「ねないの?」
『寝れなさそうなの』
メッセージを送信すれば、すぐに返事がくることからずっとスマートフォンに張り付いているのだろう。こうなってしまうとなかなか寝ない、アヤリのことなのでそのままゴロゴロしないで起きて行動し始めることだろう。想像がついてしまうコイビトの様子に、はぁ、とため息をつき、「さんぽでもいくか?」と文字を打つ。よほど嬉しかったのだろう、すぐに『いく!!れれれ』と返事がきた。れれれが何を意味しているかわからなかったけれども、アヤリのところへ向かう準備のために室内に戻った。

「おはよ、アヤリ」
「おはよう、遊真くん」
施設の前でアヤリは暖かそうな格好をして立っていた。首にマフラー、分厚い上着、手にもマフラーを持っている。冬の朝だ、それくらいの格好をするのが当然なんだろう。私服でいつもよりもこもこしてる格好もわるくない、かわいいと自分のコイビトを見て思う。
「いいじゃん、かわいいね」
「もう!」
「言えるときに言わないとな」
「わかったから。遊真くんはこれ」
そう言って手に持っていたマフラーがおれの首に巻かれていく。どうやらおれ用だったらしい。
「あっても変わらないぞ?」
「知ってるよ、見てる方が寒いの」
「そういうもんか?」
そういうもんだよと答えながら最後にキュッと端を縛る。首の周りがマフラーで埋まって顔が動かしずらいと顔をしかめていたら、「遊真くんには大きかったかな、ごめんね」って少し困ったように笑っていた。
トリオン体で生活するようになってから外の気温など関係なく、とりあえず持っている服を着る生活に慣れてしまった。まだこちらに来てからは冬しか経験してないから長袖のものしか持っていないしそれで不便もしなかった。だからどれだけ外が寒くても、マフラー一つで暖かさを感じることもなく、ただ首の周りにもこもこした感覚しか残らない。それでもアヤリが、そんなことわかったうえでおれ用にマフラーを用意していてくれたことも、真剣に巻いてくれたことも嬉しかった。首のマフラーに手を当てながら「ありがとな」と伝えれば、アヤリは両手を擦り合わせながら「どういたしまして」と少し顔を赤くして笑った。
「はい」
「なに?」
「手つなごうよ。おれの手、あたたかいわけじゃないけど」
「……」
おれが出した手をじっと見つめて動かなくなるアヤリ。アヤリは外であんまりコイビトらしいことをしたがらない。はずかしがり屋のアヤリのことだからそういうことだろう。それに近界民嫌いなアヤリにとって、コイビトとはいえおれが近界民だからっていうのもあるかもしれない、毎度のことながらよくおれたちはコイビトでいれてるなと思ってしまう。理由はどうあれ二人で歩く途中に雰囲気で手をつなぐことは今まであったけれど、最初からつないで歩くのはまだアヤリには早かったのかもしれない。これは残念。出した手をおろすことにする。
「んじゃ、歩こうよ」
「……まって」
いざ歩こうと前を向けば、後ろから右手を掴まれた。驚いて振り返れば顔を真っ赤にしたアヤリが、「繋ぐもん…」って小声で呟いてそっぽを向いていた。アヤリと一緒にいると嬉しいことがたくさんある。今も顔を真っ赤にしているコイビトを見ながら自分の口元がゆるんでしまう。アヤリのマフラーが大きめのおかげでおれの口元はちょうど隠れるためアヤリにばれることはないだろう。
「ほんと、アヤリは素直じゃないね」
「……うるさいなぁ」
「いいじゃん、かわいいよ」
「もう! 恥ずかしいからそれは言わなくていいって!」
「はいはい」
相づちを打てば、「適当な返事」と不満そうにしているアヤリ。それでもおれの右手はしっかり握られていて、早く歩こうよとおれを引っ張りだす。そんなアヤリの柔らかい左手の感触を確かめながら、アヤリの進みたい方向に足を進めた。





_ /reload/novel/1/?index=1