好きと嫌いは表裏一体だと思う。私の気持ちは嫌いから始まって今は好き、好きだからこそ新しい嫌いも見つかって、私はそれを隠すことができない。でも私だって好きな人を否定するのは心苦しい、ふと出そうになる否定的な言葉をなんとか誤魔化そうとすれば、嘘をついていると見抜かれてしまう。そうなってしまえば逃げることなどできなくて、結局は言うことになってしまうのだ。
「アヤリ、どうなのさ」
「いや、だからなんでもないってば」
「さっきからそればっかじゃん。そのウソ何回つくつもり?」
遊真くんにこうやってそれは嘘、本当のこと言いなさいというやりとりは今までだってたくさんしてきた。むしろ毎日のようにしているかもしれない。今回だってきっかけは些細なことで、私のトリガーがメンテナンスだったため、今日は生身で本部で過ごしていた。私は普段と変わらないと思っていたけれど、連日して寝不足が続いていたからか、どうやらベンチに座った時にそのまま意識を失ってしまっていたらしい。近くを通りがかった隊員が人を呼んで、本部に借りている私の自室に運んでくれたようだ。
それを全て、目覚めた時に部屋にいた遊真くんが教えてくれた。遊真くんと恋人になってから、よく私が寝るまで一緒にいてくれたりする。最近はお互いに時間が合わなくて遊真くんが寝るまでそばに居るってことはなかった。遊真くんがいないことが原因ということはないけれど、一人でいると色々と考えてしまうのはあの時から変わらない。遊真くんはそれを知っている、だからこうやって聞いてくるのは遊真くんなりの優しさなのはわかっているつもりだ。それでも私は心配を掛けたくないし、言いたくない時だってある。
「本当に大丈夫だから」
「つまんないウソつくね」
「もう……」
「話せばいいじゃん」
「話せないことなんだよ」
「それもウソ。話したくないだけだろ?」
「ほんと、サイドエフェクト……」
嫌いだよ……って呟けば、遊真くんは少し目を見開いたあと、すぐに目を細めてこちらを見ている。
「そうやって言えばいいじゃん。今さら怒らないぞ」
「怒られるとかそういうのじゃないよ」
「ほら、なにかあるんじゃん」
しまったと思ったときにはもう遅かった。遊真くんは身軽だ。一応先程まで寝ていた私の身体じゃその動きについていける訳もなく、呆気なく私の上に馬乗りになることを許してしまった。抜け出そうと思っても上手に体重をかけられてしまっていて重くないのに動けない。こうやって動けなくして、その手で何人もの人を殺めてきたのだろうか。
私は遊真くんの手をとって、私の頬にあてる。遊真くんの手は温かいでも冷たいでもない、手のひらの感触はあるのに温度がわからない。不思議な感じがする。私が遊真くんの手を堪能していると、私にされるがままだったその手を、私の頬を撫でるように動かし始めた。
「どうした?」
「遊真くんの手、すきだなって」
「手だけ?」
「他にもあるよ」
「話してくれるか?」
「うーん……」
私が迷っている間に空いている手を私の耳に添え撫で始めた。頬と耳、両方に触れる遊真くんの手が心地よくて私は目を閉じてしまう。
「ふふ、くすぐったい」
「続き話してよ」
「んー」
「アヤリ」
いつまでも話そうとしない私に、遊真くんはどうしたもんかと考え込んでしまった。このままなにも思いつかずに逃がして欲しいけれど、そんな私の希望は遊真くんが思いついた!という言葉で打ち砕けてしまった。
「ちゃんと話してくれたらいいことあるぞ」
「どんな?」
「それは教えれないな」
まんまと乗せられているような気がするけれど、このまま逃げ切れる雰囲気ではない気がして、なら遊真くんが何をくれるのかわからないけれど、やっぱり無しと言われる前にいいことがある今のうちに観念した方がいい気がした。
「遊真くんの手が好き。頑張って生きてきた手。でも戦争をしてきて人を殺めてきたことは無くならない……んっ」
「ぷはっ、それから?」
「ゆ、遊真くんの目が好き。赤くて綺麗で吸い込まれそうな目。だけどサイドエフェクトがあるから、それはきらっ、んむ」
「ん……。それから?」
「え、まだ話す、の?」
「うん、もっと教えてよ」
「遊真くんは近界民だから……、んんっ」
それからもこのやり取りは繰り返された。好きを伝えるために、肯定的な言葉を並べれば、満足そうにその様子をその赤い目で受け止められて。嫌いを伝えるための、否定的な言葉を言おうと口を開けば、刃を向けるはずの相手の口で覆われてしまう。
「……んっ」
再び伝えるために、言葉を紡ごうと開いた口に、ちゅくちゅくと遊真くんの舌が入ってくる。驚いて離れようにも頭をしっかりと押さえられ、舌さえも簡単に絡まれてしまう。私が離れることを許さないように。
私はもう苦しくて、なんとか抗議しようと目を開ければ、こちらをジッと見つめる赤と目が合って、お互い空気を取り入れるために口が離された。ぷはっ、と息をするのと同時に私と遊真くんを繋ぐ糸を服の袖で拭った。
「ちょっと、やりすぎだよ……」
「でもよかっただろ?」
「いいことってこれ……?」
「うん」
キス好きだろ?なんて問われても私はそれに素直に肯定の言葉を述べることはできない、その代わりに目は合わせずに頷く。
恥ずかしくって、下を向いたままでいると顎を持ち上げられて、リップ音と共に唇を落とされる。
「ん、んんっ、ふぅっ」
「ふっ、はぁっ」
「ちょっ、ゆ、まくん!」
「なに?」
私が抗議する理由がわからないと言ったきょとんとした表情を浮かべている。
「なんなのっ?」
「好きだろ?」
「嫌いじゃ、ない……。けど突然すぎるよ……」
ふむ、と頷いて私の額にちゅっと軽くキスをする遊真くん。彼の顔をじっと見つめれば、好きなくせにと顔を緩ませていた。
「アヤリからおれへの嫌いを飲み込むためにキスしようと思って」
「なんで……?」
「べつに、アヤリが近界民嫌いなのも仕方ないしきにしてないんだけど、アヤリからの好きも嫌いも全部おれのにしようと思って」
「なにそれ……」
「そんで嫌いもせっかくならいいものにしようとキスすることにした」
良い方法だろって笑う遊真くん。私は肯定も否定もすることはできなくて、「どうだろうね」と誤魔化した。
「だからたくさんアヤリを教えてよ。おれは全部うけとめたいからさ」
なにか言おうと私は口を開くけれど、遊真くんに再びその柔らかい唇で塞がれてしまった。
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