「彩里」
「王子先輩!」

弟子を見かけたから声をかけた。ぼくの声に気付いてすぐに駆け寄ってくる姿に心地良さを感じざる得ない。

「今日は何してたんだい?」
「今日もソロランク戦をしていました!」

隊員とのやり取りや、今日の戦果、反省点を次々と話し出す愛弟子。随分楽しめたのであろう、元は口数の多くない彼女が、よく話すようになったものだ。話し続ける彼女の頭に手を置けば、満足したように笑顔になる。

「そんだけ戦ってもらえれば、ぼくがいなくても大丈夫だね」
「王子先輩、いなくなるんですか?」

先程までの笑みが一瞬で無くなり、ぼくに真実を告げろと見つめる赤眼が、言葉を間違えたことを知らせる。鳩原ちゃんがボーダーを上層部から辞めさせられてから、梨本彩里は人との関係に敏感になってしまった。特に、身近な関係ほど喪失することを恐れるようになった。

「彩里、ボーダーの皆は好きかい?」
「はい、王子先輩のおかげでたくさんの人と遊んでもらえるようになりました」
「クーガーのことは?」
「遊真くんですか!?」

頬を赤めながら小さく「好きですよ…」と呟く。恋愛感情をもてるほど、人との交流ができるようになっていることに、自身の彼女に施してきたことが報われているように思える。戦闘技術を教えることはもちろんだが、それ以上に彼女には教えていかなくてはならないことがある。

「鳩原ちゃんは?」
「鳩原さん……」

彼女の名前を出せば、この弟子の顔が曇ることは必然だ。故に、この名前に対して曇らないようにすること、これがぼくが彼女を弟子につけるきっかけなのだから。

「鳩原さんは、いなくなった理由聞きたいですよ…」
「そっか」
「でも!今の師匠は王子先輩なので…!」

お願いだからいなくならないで、そんな表情でぼくを見つめる彼女の頭にもう一度手を置く。すると安心したのか、息をひとつ吐いて、ランク戦の約束があるからと、会場のほうへ去っていたため、背中を見送る。基本放任で、好きなようにさせているが、まだまだ、ぼくの弟子は手がかかるようだ。ぼくの役目は、ぼくがいなくなっても愛弟子の周りに人がいることを教え続けることだから。

鳩原ちゃんはとんだ傷を残していってくれたもんだよ





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