あしたあいてるか? ランクせんしようよ。とメッセージを送れば、しばらくすると返事がくる。どれどれと確認すれば、明日は行きたいところがあるから、そのあとなら大丈夫。の一文。用事があるなら断ってそっちに集中すればいいのに、なんて思ってしまうが用事があっても一緒にいる時間をとろうとしてくれるコイビトの文面に少しにやけてしまう。文字を打つことはまだ慣れないし、この返事の早さなら起きているのだろう。メッセージ画面を閉じて、電話の画面に切替える。数回コール音が鳴ったあと、ガチャンと出る音が聞こえた。
「もしもし」
「文字うつの大変だから電話にしたぞ」
おれがそう言えば、小さく笑い声と練習しないとねって言葉が聞こえてきた。
「ごめんね、明日。でもそんな時間かからないと思うから」
「おれのこときにしなくていいんだぞ」
「んー、うん。でもきっと遊真くんとランク戦した方が気が紛れると思うから」
歯切れの悪いアヤリの言葉に、違和感を感じてしまう。電話越しではウソをついてるかはわからないけれど、肯定も否定もはっきりと言う、誤魔化すことも多いけれど、今日の言葉は本当のことのような気がした。
「いやな用事なのか?」
「いや、そんなことないんだけど……」
「じゃあどうしたの?」
おれの追求に、なんて答えればいいのか言葉を探しているアヤリ。なんて言えばいいのだろうとずっと唸っていた。
「電話じゃ上手く言えない気がする」
「それでもいいよ」
「あとこれ以上の追求にも答えれない気がするからさ」
「うん」
「遊真くんも、一緒に行く?」
*
待ち合わせに指定されたのは三門市にある花屋だった。場所が不安だったけれども、オサムたちが教えてくれた通りに行けばなんとかたどり着くことができた。
花屋の前って指示だったけれど、まだアヤリの姿はない。
「あ、ごめんね、待った?」
声の方向を振り返れば店内から小さな花束を2つ抱えたアヤリが出てきた。
「なんだ、もう、買ったのか」
「うん、そんな時間かかるつもりなかったから」
「中、はいりたかったぞ」
「それはごめんね」
花束を大切そうに持ちながら、こっちだよって次の行き先を指さす。
ついて行くと、普段は来ないような場所に向かっているようだ。ボーダー本部がいつもより遠くに見える。人の通りも少なくて、木が多い。ザワザワと音を立てて揺れる葉っぱの音が心地よい。
「なぁ、アヤリ。どこに向かってるんだ?」
「もうつくよ」
着くまで言わないつもりなのだろう。その表情は少しだけ悲しいような、寂しいようなそんな顔をしているような気がした。喋る気がないやつに喋らせる必要はない。おれはひとまず黙って後ろをついていくことにした。
「ここだよ」
「ここは?」
そこは木や芝生の緑に囲まれて、その中心にいくつかの黒い石が、規則通りに、たくさん並べられている場所だった。
「お墓だよ」
「これ、墓なのか」
「やっぱり向こうとは違うよね」
アヤリは蛇口から、バケツの様なものに水を入れ始めた。片手ではやりにくそうだったので花束を持ってやれば、「ありがとう」と笑顔を見せる。なんだか寂しそうな顔ばかりしていたから笑顔を見れて少しだけ安心した。
「こっちだよ」
たぷんと中の水を揺らしながらアヤリが歩いていく。そっちを持った方がよかったかもしれない。少し歩いたところに、木が開けていて、眺めの良い場所に、またいくつか石が並んでいた。石には文字が刻まれていて、おれには読めないものの方が多いのだけれど、一つおれも知っている漢字があった。
「梨本……?」
「うん」
アヤリはその石の前に手に持っていたバケツみたいなものを置いて、自身もしゃがんでその石を撫でていた。
「久しぶり。あまり来れなくてごめんね」
石に声をかけるアヤリは寂しそうに笑っていた。
少しの間無言で石を見ていたアヤリ。さて!と言って突然立ち上がるものだから驚いてしまった。
「あ、ごめんね、びっくりした?」
「おお」
「久しぶりに来たから雑草がすごいや、ちょっと抜くね」
「おれもやる」
「ほんと?助かるよ」
二人で周辺に生えた草を抜く。アヤリはなにも話さないからおれもとくに言葉をかけない。アヤリは雑草が抜き終わると、さっき持ってきたバケツの水を使って石を磨きはじめた。これに関しては道具がなかったのでおれは見てることしかできない。ふと、周辺を見回すと、他にもたくさんあるけれど、今日ここに来ているのはアヤリだけなようだ。警戒区域が見えるこの位置はとても眺めがいい。
こんなところあったんだなと関心していると、「よし」って声が聞こえたので、声の主の方に戻る。
「おわったか?」
「うん、ありがとう。助かったよ」
笑いながら花束を花瓶の中に入れ始める。左右対称に並ぶ花は、真ん中の石を華やかに見せるには十分だった。次にカバンから緑色の細い棒の束を取り出すアヤリ。それを小さなくぼみに差し込んで、さらにカバンからマッチを取り出す。どうやら苦手なのかうまく火が付けれないようで、貸してと手を差し出せば素直に渡してきた。旅していた経験もあって、火を起こすことは苦手ではなかった。マッチの先に火をつけて、これをどうするのかアヤリを見れば、緑色の細い棒を指さした。ここにつければいいのだろうか。火をつければ、なんだか嗅ぎなれない匂いと、細い白い煙がのぼり始めた。
「いつも苦労するんだけど、遊真くんのおかげですごいスムーズにできたよ」
「いつもは一人なのか」
「うん」
そうまた寂しそうに笑うアヤリは、石の前にしゃがんで手を合わせて目を瞑っていた。
「それはなにしてるんだ?」
「うーん、最近の報告かな」
「だれに?」
「中にいる人たちに。元気にやってるよって」
「おれもしていい?」
「もちろん」
アヤリの真似をするように、しゃがんで手を合わせて目を瞑る。中に誰がいるのかわからないけれど、こういう作法はやっていた方がえんぎがいいと親父が言っていたのを思い出す。
おわったのか、アヤリが目を開けて手を下ろす。それでもまだ視線は石にむけていた。
「なぁ、アヤリ」
「なに?」
「この中には誰がいるんだ?」
おれの問いに、アヤリは今日たくさん見せる寂しそうな表情を再び浮かべた。
「私のお父さんとお母さんと弟」
*
前に、第一次侵攻で家族を亡くしているのは聞いていた。だから驚くことは何もないし、何となく今日の様子と墓にきたってのを聞いて察してもいた。
「日本の墓は綺麗なんだな」
「向こうは違うの?」
「国によると思う。少なくとも親父にはないからさ」
「そうなんだ」
そう言ってそれ以上尋ねてこないアヤリ。また少しだけ目の前の墓に視線を向けて、よいしょと立ち上がった。
「挨拶もすんだし、帰ろっか」
また来るねって石に笑いかけるアヤリ。その顔は少しすっきりしたような、吹っ切れたような。今日の最初に比べたら前向きな顔に見えた。
「ランク戦しに行こ。遊真くん」
「そうだな」
おれも立ち上がって、前を進むアヤリの後ろを追う。行きに比べて水の少なくなったバケツの様なものをアヤリが鼻歌のリズムに合わせて振っている。無くなったわけじゃない中の水が少し跳ねたようで、「つめたっ」って声が聞こえてきた。
「アヤリ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
もう一度、アヤリの家族の墓の前に戻って手を合わせる。先の方でおれの行動に疑問を思ったのだろう、小走りでこちらまでアヤリも戻ってくる。
「これでよし」
「どうしたの? 忘れもの?」
「いや、さっきは中が誰かわからず手をあわせたからさ。ちゃんとアヤリの家族にあいさつしたんだ」
「ありがとう」
「おれがコイビトですって伝えておいたぞ」
「そんなこと言わなくていいのに!」
恥ずかしいでしょ、なんて顔を赤くしてむくれるアヤリ。恥ずかしがり屋ですぐ怒る、でも努力家のムスメさんと、近界民であるおれが一緒に生きることをアヤリの家族に伝えておくべきだと思ったから。
「行くか、本部」
「うん、今日は半分くらい勝ちたいな」
「のぞむところですな」
手を出せば、少し戸惑いながらも握り返してくれるアヤリ。アヤリが前を歩くよりも、おれが前を歩くよりも、隣でこうやって手を繋ぎながら歩いていくのが1番心地良い。また次ここに来る時はおれも何か花でも持ってこようと思う。
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