「アヤリ、これはなんだ?」
「桜だよ」
 今夜はアヤリと防衛任務が一緒になった。任務は問題なく終わって、本部に帰投しようと歩いていたときに、目の前を小さな花びらが横切って、つい足を止めてしまった。花びらが飛んできた方向にはピンク色の小さな花をたくさん咲かせた木が立っていて、ここの所ちらほら見かけるピンク色の正体はこの木だったのかと納得した。
「ほう、サクラというのか」
「最近暖かくなってきたから咲き始めてるもんね」
「でもこの木みたいに咲いてるやつは初めて見たぞ」
「たしかに。この木は少し早いかも」
 首を傾げながらアヤリもサクラを見上げていた。どうやら木にも差があるらしい、このサクラはもう散りぎわなのか、ひらひらと花びらを落としていた。
「ピンクで、ひらひらしてて、アヤリみたいだな」
「私みたいってより、隊服のイメージでしょ?」
「そんなことないぞ、アヤリは髪の毛もひらひらしてるし、顔もすぐ赤くなるし」
 かわいいぞと告げれば、想像通りに顔を赤くして「遊真くんのばか…」と呟いていた。そういう時のアヤリはただ恥ずかしがっているだけで、これ以上褒めると今度は怒ってしまうので今回はここまでにしておく。
 そっぽを向いていたアヤリが、再びたくさん落ちてきた花びらに気付いて、サクラを再び見上げた。
「桜は、花びらが落ちてる今が綺麗で好きだよ」
 アヤリがそう呟くと、ひときわ強い風が吹いて花びらがさらに落ちてきた。
 おれとアヤリの間にたくさんの花びらが割り込んでいた。ピンク色で、ひらひらしているアヤリのことを花びらがどこかに連れて行ってしまうような気がして、気付いたらおれはアヤリの腕を掴んでいた。
「遊真くん?」
「すまんな、痛かったか?」
「トリオン体だしそれは大丈夫なんだけど、どうしたの?」
 おれの行動に驚きつつ、心配してくれているようだ。
「アヤリがどっか行っちゃう気がした」
 おれが答えれば、アヤリはぽかんとした顔をしたあと、すぐにいつもの困ったような笑顔を浮かべた。
「私はどこにも行かないよ、鳩原さんのこと待たなきゃいけないし、最期まで遊真くんとずっといたいから」
 また強い風が吹いて、花びらがアヤリを囲うように舞っているように見えた。ピンク色でひらひらで、芯の強さを感じさせるサクラは、やっぱりアヤリに似ているような気がした。
 サクラにアヤリが連れて行かれないように、つかんだ腕を最期まで離さないようにしよう。つかんだ腕に力を込めて、おれの方へ倒れてくるようにアヤリの身体を引き寄せた。
 離れないようにぎゅっと抱きしめれば、しばらくすると「すきだよ、遊真くん」ってすごく小さな声が聞こえてきた。





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