世界は変わってしまった。武力ではなく言葉が力を持つことになった世界。マイクを通して言葉で戦うこととなったらしい。これが良いのか悪いのか、政治に関してあまり興味が湧かないため、正直どちらでも、なんでも良かった。
朝起きて準備ができたらお店を手伝って、接客をする。給仕よりもゲームの人数合わせの方によく呼ばれるし、それはとても嬉しい。お客様たちと会話を交ぜながら目の前のものをどうしたらみんな楽しめるか、私にできる限り頭を回転させてその場を楽しんでいく。
夕方になると、私は学校に行かなければいけない。こんなのは建前だ。高校卒業という肩書きのためのものであって、楽しい学校生活とか、青春を謳歌するとかそんなものは何もない。ただ、この時間の学校は、みんな考えてることや目的が一緒の人が多いため、居心地自体は悪いものではなかった。
とはいえ、大して仲良い友達を作っているわけでもなく、時間になればさっさと自宅でもある喫茶店へ戻る。昼とは違って、元々情報屋だかしていた、マスターの祖父と、どっかのスナックでママをしていた祖母が表に立つことになる。お客様も元々祖父や祖母と縁のある方々や、お酒を飲みに来た人達など大人な雰囲気に変わる。昼間は誰でも楽しく食事とゲームを、夜はお酒や会話を楽しむことを。そんな二つの顔をもつのがここ、「Waction(ワクション)」。私にとっての世界はこの店だ。
「おかえり、むっちゃん。麻雀するかい?」
「いいんですか! ぜひ!」
「おい、未成年にこの時間遊ばるのはよくないな」
「いいじゃねぇか、マスター」
「一局だけ、ダメかな、おじいちゃん」
「東風にしておきなさい」
隣で祖母がやれやれと言った顔でこちらをみていた。祖父と祖母は夜の時間はあまり私を店におきたがらない。理由を聞いた時は、未成年だからってことを言われたけども、恐らく普段は賭け禁止の店だけど、この時間はそういうやり取りがあったり、祖父や祖母の前職の関係上、私の耳に入れたくない話が飛び交うからなんだろう。なので、そういう話が耳に入ってきたときはなるべくリアクションをしないように、ただお客様たちとのこの時間のゲームを楽しむようにしている。
祖父の言う通りに、一局だけ終えてお客様たちに挨拶をして上にある自室へいく。昼間の仕事を頑張ってくれている叔父夫婦がもう寝ている時間なので、私は静かに過ごさなければならない。お風呂や簡単な夕飯をすませ、すぐに自室へ籠る。たくさんのゲームに囲まれたこの部屋は私の秘密基地のようなものだ。最近はパソコンで誰とでも気軽にできるものをやることが多い。どこの国で、性別すらわからない人たちと遊ぶのは結構楽しかった。
「……きた」
何回も繰り返していれば、見たことのあるアカウントはなんとなく覚えてしまう。何度やっても、どのゲームでも勝てない相手なので、なおさら覚えてしまったのだ。英語が苦手な私は正直この人のアカウント名が読めていないけれど、なんとなくの綴りでもう覚えてしまったのだ。
あちらから対戦希望の通知がきていて、受理する。選ばれていたゲームはオセロだった。
「いつもこの時間にいますね」
次の手を考えている際に相手からのチャット。この人が話しかけてくるのは珍しい。いつもお互いなにも話さず、ただゲームをするのみだった。
「この時間がゲームやれるんです。そちらもよくいらっしゃいますよね」
「そうですね」
それだけの会話をして、再びお互いゲームにのめり込む。画面の向こうの相手はとても頭が良いのだろう。無駄な手はない、着々とこちらの勝ち筋を潰していくのがわかる。
再びチャットの通知がきた。
「自分の勝ち」
「今回も負けました。あなたに一度も勝てたことないですね」
「好きなので、こういうゲーム」
「池袋におすすめのゲーム喫茶があるので、近くにきたときはぜひ」
相手がどこの誰だかも知らないが、自身の店の宣伝はしておいて損はないだろう。本当に来るのかも、実はお客様かも、はたまた遠い人で来店なんて絶対無理の場合も少なからずあるだろうけれど。
「そういうお店に詳しいですか?」
「似たようなもので仕事しています」
「情報屋をしていた方のそういうお店があると聞いて探しています」
きっとそれはうちだ。情報屋なんて、普通にゲームしている人から出てくる単語じゃない。この人はきっとなにか、それこと店の夜の時間に来るお客様たちのような人なのだろうか。少なくとも私が話していい内容でないことは理解できた。
「情報屋? 知らないです。そんな映画みたいな人いるんですね」
「そうですか、変なことを聞きましたね。忘れてください」
前のチャットが画面から消去される。このチャットに消去機能はあっただろうか。ひとまず、もういい時間になってしまった、明日も仕事と学校があるため今日はもう落ちることを告げパソコンをスリープモードにする。
なぜ今日に限って話しかけてきたのだろうか。もやもやと胸に引っかかるような、そんな気持ちから目を逸らすように私はベッドに身を沈めた。
――「特定完了、知らないとはよく言ったものだな。情報屋の店のパソコンじゃないか」
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