※未来捏造
※麓台町8-5-1の捏造
※遊真くんは生身に、レプリカ先生も戻ってきてる

 仕事が終わって帰宅した。今日は忙しい方で、外も暗く、必死に帰路に着いた。「ただいま」と言っても返事はない。私はいつも通り玄関で靴を脱いで廊下へ一歩踏み出せばなにか柔らかいものを踏んだ。床を踏むはずだった私はバランスを崩しかける。壁側にいたのでとっさにもたれかかって転倒は防いだ。なにを置きっぱなしにしていたのか、なにを私は踏んだのだと足元を見れば、同棲している恋人が寝ていた。人間に気付かないほど私は疲れていたのか、室内も暗いし彼の黒髪も上手に溶け込んでいたため見事に彼を踏んでしまったようだ。もうトリオン体ではないためケガをさせてしまったかもしれないと慌てて顔を覗き込むが、私が踏んだことに気付かないくらい熟睡していた。

 遊真くんとレプリカ先生と一緒に住み始めた。経緯は本当にいつもの雑談中にそういう話しになっただけで、お互いに一人暮らしを元々していたし、一緒にいる時間が増やせるならそれもいいのかもしれないと思った。
 私はボーダーに借りていた部屋を出て、遊真くんも玉狛に住み込んでいた部屋を玉狛に泊まる日用の部屋にするらしい、私も遊真くんも元々荷物が多い方ではなかったので引越し作業はスムーズだった。これから住む場所は遊真くんの麓台町の家、あるだから使おうという遊真くんの提案だった。むしろ好条件すぎて戸惑ったけれど、ありがたく乗っかることにした。平屋だから私たちの荷物だけじゃ全然場所は埋まらない。それでも遊真くんがいて、レプリカ先生もいて、「ただいま」と言えば「おかえり」が、「ありがとう」と言えば「どういたしまして」が。そんな当たり前の会話が自分が住む場所でできるようになることがなんだか嬉しかった。

『アヤリ、おかえり』
「ただいま。先生、遊真くんどうしたの?」
『まだ自分の眠気がわからないようだ。気付いたらそこで寝ていた』
「寝室までもたなかったんだね」
『そういうことになる』
 レプリカ先生がふよふよ浮きながら遊真くんの状況を説明してくれる。遊真くんは生身に戻ってからこういうことはよくあった。もちろん、しっかり寝室で寝た方が身体のためにもいいと思うけれど、それ以上に遊真くんが寝ているという現実が嬉しくなってしまうのだ。
「でも私、今の遊真くんのこと運べないや」
『そうだな、今のアヤリとユーマの体格差じゃ難しいだろう』
「レプリカ先生運べる?」
『やれなくはないと思うが、少々手荒になるな』
「うーん、ここでこのままでもいいかな?」
『それはアヤリが決めることだろう』
「そっか。じゃあこのままにしとく。なにか掛けるもの持ってこなきゃ」
『私が持ってこよう』
 そう言ってレプリカ先生は寝室の方へふよふよと行ってしまった。取り残された私はもう一度眠っている遊真くんを見る。今は生身だから過去に失った目と腕と足、それでも遊真くんが今ここで普通に眠っているのが嬉しかった。そっと髪の毛を触ると白い時より外に跳ねるようになっただろうか、くせ毛になったと思う。なんだか今までのふわふわは作り物でこれが本当の髪質だったのかななど、そんなところまで考えてしまい、自分でも驚くほどだけれど、彼を知りたいと思って時間を過ごしてきたから、その結果なんだろうなと自分を無理やり納得させる。
『アヤリ』
「先生、ありがとう」
 毛布をひらひらと揺らしながらレプリカ先生が飛んできた。私はそれを受け取って遊真くんに掛けておく。
「とりあえずいいかな」
『そうだな』
「せっかくだし先生、ゆっくり話そうよ」
『もちろんだ』
「先生と二人でゆっくり話すの15歳の時みたいだね」
『そうだな。だが、あまり話すとユーマがヤキモチを妬くかもしれないな』
「レプリカ先生相手に? さすがにないと思うけど」
『ユーマはアヤリを気に入っている。それはかなりのものだ』
 先生から告げられる言葉に顔が赤くなるのがわかる。誰よりも遊真くんの近くにいた相棒からの言葉だ、嘘偽りがないことなどわかりきっている。
 音を立てないようにレプリカ先生と奥に行く。振り返って遊真くんを見てみると、その目はしっかり閉じていて私たちが少しくらい喋ってても起きなさそうだった。
「おやすみ、遊真くん」





_ /reload/novel/1/?index=1