※性転換

 別におかしいことはない、年齢に伴った正常なこと、ただ認めたくない自分と認めたら楽になることがわかっている自分とその原因である彼女に、彼はまた頭を悩まされる。
「今日もひどい顔だね、アヤリ」
 誰のせいで。なんて言ったところで彼女は喜ぶだけだろう。どうせこちらの言ったことなど見抜かれてしまうのならば、何も言わないことが最善策だと思うのだった。
――梨本彩里は空閑遊真の夢を見る。思春期の男子として、身近な女子の夢を見ることはおかしなことではない。年齢に伴った正常な現象だ。だが彼は彼女の夢を見ることをよく思わなかった。ボーダーに所属する人間として、ましては近界民に嫌悪感を抱く彼は、その近界民にあたる彼女のことをよく思っていない。否、よく思っていないままでいたかったのだ。
「今日も寝れてないの? 隈がまたひどくなってる」
「……ほっといてくれる」
「それはおことわりだね」
 遊真は彩里の隣に座ろうとするが、彩里がそれを制止する。いいじゃん、と言いたげな視線を彼は受け止めないよう顔を横に逸らす。自分より幾分身長が小さいため、どう足掻いても上目遣いで向けられることはわかっていた。彼女の赤い目はこちらのウソさえも見抜いてしまうため、言葉の勝負では不利だ。戦闘に関しても彼女の方が実力、実績ともに上ではあり、勝てる所など無いのもわかり切っていた。だからこそ、勝負に引き入れられる前に避けるように彩里はしていた。
「あ、ご飯も食べてない」
「関係ないだろ?」
「だめ、またレイジさんに怒られるよ」
 隣を諦め、正面に座った遊真は身を乗り出して彩里の手からエネルギーゼリーを奪い取っていく。
(本当に勘弁してほしい……)
 身を乗り出せば縮まる距離、見ただけでわかるふわふわの白髪、そこから香る見た目は幼くとも女子特有の匂い。自分とは違う鮮やかな赤い目。
 チカチカと視界に星が散らばるような、目頭が熱くなるような、そんな感覚に陥る。夢の中みたいに、この小さい身体を抱き寄せて、髪を撫でて、自分だけを見つめてくれたら。そんな自分でも彼女も望んでいないことを夢に見て、自分だけ彼女を異性として意識していることを認めたくなかった。
「いいんだよ?」
「……なにが?」
 遊真はいつだって考えを見透かしたような言葉をかける。わかってるくせに、とまっすぐな視線に一度捕まればもう逃げることはできない。
「アヤリならいいんだよ?」
「だからなにが?」
「なんでも」
 遊真の言葉はいつだって無茶のようで、だけど真剣だと伝わる。彼女はウソがわかるから、だからこそ下手くそなウソはつかないことを彩里はわかっていた。だからこそ、それ以上自分の心に入ってこないでほしい、これ以上進んだら自分の歯止めがきかなくなるから。目頭が熱くなる、まだ涙は溢れない。
「アヤリが好きだよ」
「俺は、嫌い」
 彩里の言葉を聞いた遊真はにこりと笑って再び身を乗り出して彩里の顔に自身の顔を近付ける。

「アヤリ、つまんないウソつくね」


 





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