どちらかが提案したわけではなかったけれど、なんとなく海にきた。夜で、季節外れで周りに人はいない。
 彩里を家に送るつもりで支部を出て、いつも通り会話を交えて歩く。彩里の部屋があるボーダー本部に近付くにつれ、心寂しいような、今日はまだ離れたくないような。
 そう思うなら明日会う約束をすればいい。遊真は答えを導き出すが、「今日はもう少しだけ……」なんて珍しく、彩里から言うものだからつい了承してしまった。
「なんで海にしたんだ?」
「うーん、なんでかな」
 なんとなくだよ、と言いながら彩里は海に向かって進んでいく。辺りは街灯がない、今日は月も薄いようで、一面に広がる星と海は幻想的という言葉がふさわしいだろう。
「星が見たかった?」
「それもあるけれど、もっと遊真くんといたかったから」
 彩里は靴を脱ぎ捨てて、ちゃぷちゃぷと海の中に入っていく。その先に誰か見えているのか、何かに誘われているかのように、どんどん先に進んでいく姿は遊真を不安にさせるのに十分なものだった。
「遊真くん」
 彩里は足を止めて振り返る。この海は浅い様で、進んだわりに微かな波で膝が濡れるほどしかない。それでも更に進めばいずれ深くなることは明確だった。
「夜の海って暗いから、星がこんなにも綺麗に見えるんだね」
――今なら手が届きそうだよ
 微笑みながら告げる彩里の腕を、ばしゃばしゃと彼女に駆け寄った遊真が強く引く。足は海水と砂で重くなっており、陸とは違う感覚にバランスを崩し、水飛沫をあげて二人は海に倒れ込んだ。
「もう! いきなり引っ張ったら危ないよ」
 文句を言いながら立ち上がろうとする彩里を遊真は強く抱きしめた。これ以上先に進まないように、自分の元に引き止めて置くように。
 そのままの体勢で数分間、流石に海水が冷たく感じ始めた彩里は遊真に声を掛けようと口を開きかけたのと同時に「よし!」という言葉と共に遊真は彩里を解放した。
「遊真くん?」
「アヤリの方がおれよりよっぽどどっかに行っちゃいそうだぞ」
「そんなことないよ」
 遊真の言葉をすぐに否定するが、いつも通りの口調とはいえ、抱きしめられたときの力の強さ、その後の間から遊真がなにか思っていること彩里は理解していた。
「大丈夫だよ」
 理解しているからこそ、自分の言葉で遊真に向き合う。
「私、遊真くんと一緒にいるって決めてるから。遊真くんを置いてどこにも行かないよ」
「アヤリはそういう奴だった」
「決めたことはやり通すよ、私」
「ガンコだもんな」
「頑固じゃないもん!」
 怒る彩里を見ながら遊真は安堵する。きっと彼女はこのまま、自分の時間が終わるまで一緒にいてくれるのだろう。ならばせめて、可能な限り、自分も隣を歩いていたい。自分に似つかわしくない考えだけれど、彼女が隣にいてくれるのならば、そんな未来に期待するのも悪くない。





_ /reload/novel/1/?index=1