二人の前で大泣きしてしまったけれど、思ったより自分が落ち込んでいないことに驚いていた。近界民とトリオン兵、私が一番弱いところを見せたくない相手たちなのに、むしろ泣いたことですっきりしてしまったような、二人の優しさを感じて絆されてしまったような。どちらにしても、私と二人との関係に変化が表れたのは確かだった。
 まず、レプリカ先生はボーダー上層部にも存在は知れていたらしく、姿を現せる場所ではよく出てくるようになったし、隠れていても話すようになった。私は先生のことがすごく気に入っていて、よく浮いているところをお願いして腕の中に収めさせてもらったり、頭の上に乗ってもらったり、軌道配置図を見せてもらったり、質問に答えてもらったりと一緒にいてもらうことが増えた。小南先輩に「まるで雷神丸と陽太郎ね」なんて言われてしまったけれど、満更でもないかなと思えてしまう。
 レプリカ先生と話すのは楽しい。まるでお伽噺を聞かせるように、私に近界のことや遊真くんのことを話す。「好きにならなくてもいいが、知っておくと役に立つときがくるだろう」という発言から始まった先生の話は、頭の中で色々な想像を広げさせてくれるよな、私の悩みや存在なんてちっぽけなものであると思わせてくれるもので心地よかった。
 そして困ったことに、どうも遊真くんと行動する機会が増えた。ただただ、一緒にいる時間が増えた、というよりも他の人と約束がない時は何故か隣にいることが多い。以前、なんで付いてくるのか聞いてみたら「周りにウソをつき続けるの、理由はわかったけどやっぱり気になる」と言われた。泣いたことに心配かけたわけでないとほっとしたけれど、なんせ色々な事情を聞いたとはいえ、やっぱり近界民である彼とはあまり一緒にいたくない。
「アヤリ」
 一緒にいることが多くなりすぎて声まで聞こえるようになってしまった。名前を呼ばれるたびに心臓がどきっとなってしまうから勘弁してほしい。向こうでは名前で呼ぶことに深い意味はないのかもしれないけれど、こっちは、少なくとも私は同い年の異性、さらに「話したかった」とか「興味がある」なんて言われてしまえばどうしても意識してしまう。
「アヤリってば」
「ゆ、遊真くん!?」
「やっと気づいたか」
 考えていた相手が突然目の前にいて驚いてしまった。彼が言うにはずっと私のことを呼んでいたようだが全く返事する様子がなく、隣まできてやっとのことだったようだ。周囲の声が届かなくなるほど彼について考えていた自分がいることを自覚してしまい、顔に熱が上がってくるのがわかった。
「……本部であまり一緒にいたくないよ」
「おれが近界民って知ってる人少ないしべつにいーじゃん」
「私は困るの」
「まぁまぁ。アヤリのウソが気になるもんでな」
「……レプリカ先生はいるの?」
「いるぞ」
「こんにちは、アヤリ」
「先生もいるなら遊真くんのこと止めてよ」
「ユーマなりの気遣いだ。受け取ってやってくれ」
「近界民に気遣われても……」
 つい失礼なことを言ってしまって罪悪感。けれど遊真くんの表情は特に変わった様子はなくて、再びほっとした。今までだったら近界民に対してそんなことを思うことはなかったのに、やっぱり情でも移ってしまったのだろうか。確実に私の中で彼に対するなにかが変わってきている。でもまだ彼らを完全に信用してはいけないと自分に言い聞かせて顔の熱を治める。どんなに優しい近界民と、気に入ってしまったトリオン兵だとしても、いつか私たちの敵になる可能性は捨てきれないのだから。





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