「お前が梨本だな」
「はい」
「玉狛の木崎だ」
「はい、知ってます。はじめまして」
 玉狛支部の木崎レイジさんが、本部に何の用だろうか。どうでもよかった。二宮さんの話を聞いて数日、自分なりに情報が何かないか探しながら、任務や学校、夜になると色々考えてしまうことはやめれなくて寝不足、体調不良からなのか、食事すらまともにとってなかった。目の下は隈がさらに酷くなり、体重もかなり減った。本部内ではトリオン体でいることにしているため、隠し通せていると思うが、生身がボロボロになっていることは自覚していた。唯一のとりえであった狙撃の訓練にすらまともにできなくなってしまっていた。同じクラスの桜子ちゃんには学校で出会うため隠すことが出来ないが、無理を言って周囲には黙っていてもらうようにしている。
「ちょっと付き合え」
「……何でですか?」
「理由が必要か?」
「そうですね、できれば……」
 木崎さんは背が高い、ただでさえ人の顔を見ることが億劫になってしまった私が彼の高身長に合わせて顔をあげることは気持ちが持たなかった。会話の途中で顔を下に向けることになってしまい失礼な自覚はあった。
「しいて言うなら尻拭いになってしまうのかもしれないな」
「え?」
「あまりいい言葉ではないがな」
 そう言いながら木崎さんは言葉を他の言葉を探しているようだった。ぱっと思いついた言葉がそれだった、すまんと私には意図がわからない謝罪を告げられるが本当に私は何もわからなくて適当に返事を返すしかしなかった。
「とにかくついて来い」
 その言葉に私が断る隙など無くて、前を進む身体の大きなその人の後ろをついていった。


「とりあえず食え」
「こんなに…」
「普通の量だ」
 連れてこられた先は玉狛支部で、目の前に出てきたのはクリームシチュー。私が好きな料理の一つだ。確かにびっくりするほどの量を提供されているわけではない、私が食べなさ過ぎて適量の感覚を忘れているんだろう。
「お前シチュー好きなんだろ」
「……なんで知っているんですか?」
「鳩原から聞いたからな」
「鳩原さんが!?」
 木崎さんの口から鳩原さんの名前が出てくることに驚いた、二人の繋がりは聞いたことなかったから。木崎さんはむしろ私が知らなかったことに驚いているようで、洗い物をする手が止まり、こちらに視線を移すしたけど、すぐに戻し「妹弟子だ」と応えてくれた。
「換装を解いてから食べろよ」
「トリオン体のままでも食べられますよ」
「いいからトリガーを解除だ」
「……残したらごめんなさい」
 とてもおいしそうで久しぶりに見る人の手料理に感動したが、やはり全部食べ切れる気がしなくて先に謝罪を述べた。トリガーを解除し、生身に戻るとその匂いと見た目からさらにおいしそうに見えてきて、お腹がギュゥと鳴った。生理現象とはいえ、恥ずかしくって下を向いたが木崎さんはそんなことなど全く気に留めず、「さぁ、食べろ」と食事を勧めてくれた。
「……いただきます」
「どうぞ」
 あれからそんな日数は重ねていないのに久しぶりに食べる温かいご飯はとてもおいしくて、自然と涙がこぼれた。それでも食べ続ける私に木崎さんはそこには触れず、よく噛んでゆっくり食べろと洗い物を続けた。
「ただいま〜ってどうしたのよっ!? なにこの状況!?」
「レイジさん、泣かせたんですか?」
「そんなわけないだろ」
 食べ続けていると扉を開く音が聞こえた。入ってきたのは玉狛支部の小南桐絵先輩と鳥丸京介先輩だ、さらに後ろから宇佐美栞先輩と、初めて見るヘルメットを被った男の子とカピバラが入室してきた。
「あれ、本部の梨本ちゃんだね、いらっしゃい」
「なぜないている?」
「……どうも」
 玉狛にいる人たちと私の関わりはほとんどないが、有名な人たちだ。知らない人の方が少ないだろう。涙を拭って「はじめまして」と笑顔を作る。
「梨本ちゃんのことくらい知ってるわよ」
「俺と宇佐美先輩は本部にいたしな」
「おれははじめましてだ!」
 玉狛支部は最強の部隊と呼ばれていて、近界民と仲良くすることを目的とする団体で、私のような近界民嫌いからはあまり好ましい印象ではなかった。なので今日も木崎さんから声を掛けられた時は本当に驚いたし、玉狛に連れてこられた時は何か悪いことでもあるかと思って警戒していた。そんな私のことを気付いているのかいないのか、目の前ではキャキャッと隊員+お子様(とカピバラ)で盛り上がっていて、とても賑やかな空間となった。木崎さんの方を見れば、入室した隊員たちのクリームシチューをお皿に盛りつけていた。いつの間にか一緒に食べることになっていて、各々がいただきますと言い食べ始めていた。人と一緒に食事をする感覚も久しぶりで、自然と涙は止まって会話を聞きながら自然と笑っていた。


 とても楽しい時間を過ごしてしまっていて、気付けば私のお皿は空になっていておかわりまでしていた。なんだか雰囲気にも和まされてしまい、木崎さんにお礼を告げれば、本題だが、と私の前に座り話題を切り出始めた。
「梨本。お前まともに寝ていないし食ってもなかっただろう」
「……なんでわかるんです?」
「誰だってその顔を見ればわかる」
「わからないのは陽太郎くらいね」
 お腹がいっぱいになったのだろう、カピバラの雷神丸と一緒に眠ってしまっている陽太郎くんを小南先輩は指差す。他の隊員たちも木崎さんと私の話に参加するようで視線がこちらに集まっている。
「これから都合の良い時でいい。ここに飯を食いに来い」
「……え」
「さっすがレイジさん、いい考え〜!」
「いいんじゃないですか」
「でも、私……」
「お前が近界民嫌いなことくらいわかっている。何もうちの支部に入れと言っているわけじゃない」
 じゃあどういう意味なのだろうと、黙って言葉を待つ、喋ったところで今の私にはなぜ、どうしてしか出てこないだろうから。それを察したであろう木崎さんは私が返事をしないことを確認してから「飯を食いに来いと言っただろ」と応えた。
「お前は生活リズムを整えるべきだ」
「梨本ちゃんが無理に玉狛に合わせる必要はないんだよ、なんなら部屋はたくさんあるから泊まったりもするといいよ」
「なんで、そんなに」
 意味がわからないと疑問を浮かべ続ける、こんな優しくしてもらえる理由も成り立ちもなにもわからない。ありがたさはもちろんあるけれど、それ以上に理由を求めてしまうから。
「アタシたちがそうしたいだけだよ、梨本ちゃん」
「あんたに何があったか知らないけれど、そんなボロボロなんだからほっとけるわけないでしょ」
「小南先輩に心配されるのもここでは新鮮な感じしますね」
 どういう意味よ! とりまる! と小南先輩と鳥丸先輩によって話が逸れてしまうが、木崎さんがそれを正す。
「そういこうとだ。食え、そして寝ろ。梨本」
「ありがとう、ございます」





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