「我が物顔でうろついているな…… 近界民………!」
 こつん、と足に何かが当たった。足元を確認すると誰かが落とした小銭が転がってきたようだ。それを拾い、落とした主に返そうと周囲を見渡すと、三輪秀次先輩が小柄な男の子と話していた。相手は服装からC級隊員であることがわかる。ボーダー内で見るにはやけに幼いように感じるし、何より白髪が特徴的だった。そして聞こえた「近界民」の単語。小銭を返すタイミングがわからず、二人の会話がかすかに聞こえる距離で足を止めてしまう。言い逃れなどできない、これは立ち聞きだ。三輪先輩、ごめんなさい。私も近界民は嫌いだから、その言葉を聞くとどうしても気になってしまうのです。


 途中で米屋先輩と陽太郎くんが加わって、三輪先輩が会議に向かわれたところで一度会話に区切りがついたようだ。私は先ほど拾った小銭を右手でぎゅっと握り、今もなお残って話をしている三人と一匹のもとに近づいた。
「あの……、小銭を落としていましたよ」
「もう一つ落ちてたのか。これはどうも。」
「お、梨本じゃん! お前も今からバトらねえ?」
「あやり! からだのほうは大丈夫か?」
「こんにちは、米屋先輩、陽太郎くん。でも私、用事あるのでもう行きますね」
 身体の方は大丈夫だよ、と告げて足早にその場を去る。後ろから陽太郎くんの「今晩はレイジが当番だぞ!」って声が聞こえた。そういえば一か月ほどあちらには顔を出していない気がする。今晩はお邪魔しよう。ポケットからスマートフォンを取り出し、今晩いきますとメッセージを送信した。

  *

「さっきのはだれだったんだ?」
「さっきの?」
「おカネ拾ってくれた、女の子の方」
「あぁ、あいつね」
「奴の名前は、なしもとあやり! 玉狛によくあそびに来る隊員だぞ」
「ふむ、でもおれが来てから会ったことないぞ」
「ま、あいつも訳ありってカンジだよな」
「わけあり……」
 対戦ブースに向かいながら、よーすけ先輩に先ほどの女の子のことをつい尋ねてしまった。お子様であるようたろうが体調のことを心配し、労りの言葉を掛けるような生活をしていて、本人の答えは「大丈夫」といったウソだ。さらに、よーすけ先輩からのわけありという発言から、まぁ色々事情があるのだろう。
「でもマズかったかもしれねーなー」
「なにが?」
「あいつ、おまえと秀次の話、聞いちまってたかもしれねーなってよ」
「それのなにが困るの?」
「あいつも、近界民嫌いだからさ」
 ま、オレには関係ねーけど、と付け足す先輩。確かにおカネを手渡されたとき、非常に力強く手を握り締めていたこと、一瞬だけ感じたおれへの敵意。きっと会話が聞こえる位置にいたのだろう、たぶんバレている。
「周りに広められないといいけど」
「そこは大丈夫だと思うぜ」
「なんでそんなこといえるの?」
「なんとなくじゃん?」
 よーすけ先輩の言葉にウソはない。おれが知らないだけできっと大丈夫っていう確信があるのだろう。オサムたちに迷惑はかけたくないと慌てたところで、できることは何もない。今はB級に上がることを優先していこう。どうせ知っている人たちはいるのだから、一人増えたところでおれはどうってことない。





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