chapter:◆寝坊する理由◆ ◆ 「あかん、ドキドキして寝れへん。どないしよ……」 時間は深夜ちょうど。シングルベッドでぐだってるオレは槙 宙太(まき そらた)。 どうやっても寝られへんから枕と格闘中やったりする。 最近は前にも増して寝付きが悪い。 その原因は知っとる。最近両想いになった好きな人のことを考えているからや。 別に、意図して考えようと思ってるわけじゃあらへんで? 勝手に思考が好きな人のことになるんや。 好きな人っちゅうんは、オレと同じクラスでやたら面倒見のいい保村 龍也(ほむら りゅうや)。 保村はモデル並みの容姿で背も高いから女子にめっちゃモテモテや。 対するオレは保村より背が小さい。顔もそこそこやとは思うけど、目は大きいし年頃の男子よりは童顔に見えてまう。 ――ほんま。保村には敵わへん。 言うとくけど、オレはゲイやないで? 同性に恋すんのは生まれて初めてや。 ――っちゅうても、異性に恋したこともなかったんやけども……。 保村のこと、初めは委員長でもないのに学校に遅刻せぇへんよう起こしに来るただのお節介な奴やって思うてた。せやけど、一緒の時間が多くなってくると、何を言っても怒らへん保村の包容力にくるまれてしもうて、気がついたら保村にどっぷり浸かってた。 保村へのこの恋は絶対叶わへん。 そう思うてたのに、保倉はオレと同じ気持ちでいてくれた。 めちゃめちゃ嬉しい。 そういうこともあるからやろう。保村の事ばっかり考えてまうねん。 ……せやけど、このままやったら恋人になる前と全然変わらへん。 なんせオレは保村と手を繋ぐ事さえ恥ずかしいてできへんから。 両想いになった日、キスだって拒んでしまった。 「やっぱ、このままはあかん……よな」 そりゃ、オレだって健全な男子や。好きな人とイチャイチャしたい。セックス……もしたい。けど、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしい。 だって好きな人にあられもない姿を見られんねんで? 有り得へんやん! っていうか、セックスってどないするんやろ。保村とオレ、同じ性別やで? 「…………っつ」 あかん。考えただけでも無理や。 心臓破裂してまうんかっちゅうくらいドキドキしとる。顔だって熱くて火照っとるわ。 ……せやけど。 ずっとこのままっていうわけにもいかへんやろうし。せめてキス、だけでも頑張ってみよかなあ。 握り拳を作って、ウダウダ考えていたその夜は案の定、眠りが薄くて、意識がなくなったんは夜も明け始めた頃やった。 ――……。 ――――…………。 「槙〜」 遠い意識の中で、好きな人の声が聞こえる。 保村や。 ああ、保村。オレ保村のこと好きや。せやのに全然近づかれへんねん。どうやったら保村ともっとイチャつけるんやろ。 キス、一回でもしたらオレの中で何かが変わるやろか。 せやったら、ものごっつい緊張するけど、してみてもええかもしれへん。 オレは布団の隙間から手を伸ばし、幻影かもしれへん保村の袖を摘み、擦り寄ってみる。 「何や? 今日は積極的やな。槙、目覚めのチューするで?」 耳たぶに保村のあったかい息がかかる。 妙に現実味がある。 「っつ!!」 ほんまもんかっ!! 幻影かもしれへん保村がほんまもんやと気がついたオレは眠たいのもすっ飛んでベッドから飛び起きた。 目の前には相変わらず長い睫毛の優しい眼差しをした保村がおる。相変わらず格好ええ。 保村とのキスを決意してみたものの――。 キスなんて……。 キスなんて、やっぱり無理やああああっ!! 「近くにくんなやっ!!」 その日、やっぱりオレはキスさえもドキドキして無理やった。近づいてくる保村の頬を勢いよく平手で殴った。 新鮮な空気が流れとる爽やかな朝に響くのは小鳥のさえずりでも鶏の鳴き声でもあらへん。オレの平手打ちの音やったんは言うまでもない。 ◆寝坊する理由**END◆ ―第三話・完― |