◆ 「ただいま〜ック」 少し焼けた肌は健康的で、広い肩幅に一八五センチを超える長身。ベリーショートの黒髪は、清潔感とワイルドな雰囲気を醸し出している。年頃の男性よりも、やや大きめな二重の目に、高い鼻梁。薄い唇はどこか男の色香を感じさせるその男。 一見すると、好青年で女子の受けもいいだろう。同性の俺から見ても、格好良いとも思う。 それなのに、彼は外見を見事に裏切った。彼はドアを開けるなり、シャクリを上げながら玄関で前のめりになった。 「お帰りなさい……って、また飲んできたのかよっ!?」 俺、克美はこの男と同棲生活を送っている。この男の名前は大祐。俺よりも五歳年上の三十五。彼はアパレル業界に勤めている。 俺はもう辞めてしまったけれど、大祐の働く会社の同僚として、デザイナーを勤めていた。 俺が仕事を辞めた理由は、そもそもこの男に原因がある。 家に居て、自分の帰りを待っていてほしいと言われたからだ。 『お前といると、疲れが吹き飛ぶんだ。また明日も頑張ろうと思える』 そうやって口説かれ、今に至る。 大祐は今も俺がいた会社で営業部担当として働いている。 営業は体力勝負で、炎天下の夏やら雪が降る寒い日なんかでも一日中外で走り回らなければならない。だから大変なのはよくわかる。 会社では、上司や同僚との付き合いも大切にしなきゃならないし、飲むなとは言わない。酔うなともいわない。 だけどさ……。 もうちょっと配慮してもらいたいものだ。この男の帰りを待っている俺の身にもなれって。 「おい、廊下(ここ)で寝ようとするなよっ!!」 俺は、『はあっ』と大きなため息をついて足下を見下ろした。 大の男がみっともなくべろんべろんに酔いつぶれ、大の字になって廊下で寝そべっている。その姿はとてもだらしがない。 「おいっ、風邪ひくぞ?」 「……ん〜」 身体を揺すってみても、依然として起きない。 ダメだ。眠ってる。 仕方なく、俺は重い身体を担ぎ、真っ直ぐ延びた廊下の突き当たりにある寝室へとおぼつかない足取りで移動させる。 「俺よりもガタイがでかいんだから自分で歩けよっ、この酔っぱらい!!」 体格の良い大祐と比べて、俺はずっと細身で肌の色もやや白い。はっきりとした目鼻立ちをしていて、顔には自信はあるけれど、大祐ほど男らしくない。 その俺が、このでかい図体をした男を運ぶのは困難を極めるわけで……。 ……なんで俺が酔っぱらいの介抱をしなきゃいけないんだよっ! あまりの重さに苛立って、大祐をベッドの上に放り投げる。 それでもスヤスヤと寝息を立てて、心地よさそうに眠っている。 「あ〜、なんで俺、こんな奴を好きになったんだろう」 付き合うようになって七年。 同居するようになって五年。 当初、彼はとても誠実でこんなに適当な人間じゃなかったのに……。 『一緒に住もう』 そう言われてすごく嬉しかったのに……。 俺はお前の世話役で一緒に住むことにしたんじゃないんだぞっ!? 「クソ大祐! 俺の純情を返せ〜〜〜〜っ!!」 腹立ちまぎれにそう言った時……。 「克美……」 大祐がつぶやいた。 見下ろせば、口元がへにゃりと弧を描き、やっぱり心地よさそうに眠っている。 ……なんだよもう。幸せそうな顔しやがって。 大祐の微笑む顔を見ただけで俺の怒りは消え去り、胸がトクンと跳ねる。 ――結局、俺はどんなに時間が経とうとも、大祐を好きなことには変わりないんだ。 「……たく、もうっ!」 これからも、こうやってイライラもしながら彼と共に歩んでいくんだろう。 俺は心地よさそうに眠っている大祐の隣に座り、だらしなく緩む寝顔を眺めた。 **END**