ふわふわと真っ白な毛並みでグリーンの瞳をした『わたし』が目の前の鏡に映っていた。
検事さんの執務室のミラーの前で、わたしは全身の毛を逆立てながら猫の姿を凝視する。
怖くなって後ろに後退すれば、鏡の中の猫の姿も後ろへ遠ざかっていく。
どう言ったらいいのだろう。わたしは突然猫になったのだ。
今朝車に轢かれそうになっていたところを助けた白猫にそっくりな、あのネコにそっくりな、この姿に。
よりによって、仕事中に、検事さんの執務室で。床にはわたしの洋服一式と下着までもが散らばっていた。
ねこの姿になった途端視界の低さにびっくりしながら、洋服の中から身体を出したままの形になっている。
\にゃーー!!/
大パニックになりながら部屋中をぐるぐる駆けずり回り、無駄に疲れてへたりこんでしまう。執務室の扉はしまっていて、検事さんが帰って来るまで外にも出られない。
でも検事さんが帰ってきたらこの姿、見られてしまうの!? そんなのいや! 見つかる前に、なんとか元に戻る方法を探さないと!
* * *
\にゃーー!!/
検事さんに抱きあげられ、わたしは手足をばたつかせて暴れた。
わたしの願いもむなしく、帰って来た検事さんに捕まってしまった。検事さんには、検事さんだけにはこんな姿を見られたくなかったのに…。
「きみ、可愛いね」
映画のワンシーンにでもなりそうな検事さんの笑顔のどアップに、ただでさえ小刻みに脈動するようになった鼓動をばくばくさせながら、細められた水色の両目の色っぽさにくらりときそうになった。なんなのこのスマイルは……。
ねこの姿のわたしを見下ろす検事さんが、ふっ、と微笑みを零す。
「誰かさんに似てるね、きみ」
そのとたん、すっと顔が近付いてきて、愛おしげな表情をした検事さんがわたしの鼻先の下にチュッと音を立ててキスをした。
「にゃあぁ……」
暴れるのも忘れて何も言えなくなってしまったのは言うまでもない。
(ちょ、ちょっと待って今のキス!?)
たぶん、おそらく、人間だったら唇ぐらいの場所に、検事さんの唇が触れたのだ……
脳内で大パニックを起こしているわたしをよそに、検事さんが首を傾げ始める。
おや、そういえば、みょうじ君の姿が見当たらないな……と室内をきょろきょろさせる検事さんが、部屋の片隅に脱ぎ散らかしてあるわたしの洋服に目を留めた。
「みょうじ君……?」
(いやーーー! ちょっとまって! そっちにいかないで!)
必死にそう叫ぶのに、わたしの口から洩れるのは、「にゃあ!」という声ばかり。
わたしを抱きあげたまま検事さんが、ギターの傍らにある洋服の束へと長い脚で歩いて向かっていく。
(そっちには下着もあるの! 見ないでーーーーー!!)
手足をばたつかせて暴れるわたしを宥めるように、大きな手で「よしよし」なんて言いながら撫でてくる。
そうじゃなくて!!
わたしの必死な抵抗をよそに、検事さんがその場にしゃがみこみ、わたしのスカートやシャツを指で持ち上げ、不思議そうに見下ろしている。
「みょうじ君の服……だよな」
真面目な顔つきをしてわたしの服を見下ろしている検事さんの背後から大声が聞こえて来た。
「あーーーーつ!! テメェ、ガリュー! んなとこでなにしてやがる!?」
この声はダイアン!?
検事さんの腕の中で振り向くわたしの前で、あのリーゼントを自慢げに揺らしながらサメのような雰囲気のダイアンがズカズカと無遠慮に歩いて近づいてくる。
「アァ!? なんだこりゃ!? 女物の服かよ!? ガリュー、てめー、まさか、執務時間中に女抱いてやがんのかよ!?」
検事さんの胸倉を掴みかからん勢いで息巻くダイアンに、検事さんがなんとか事情説明をして帰らせたけれど、ダイアンの誤解が解けたのかは謎だ。
みょうじ君の服だ。今朝着てたから間違いない。なんて検事さんが言いだすから、「お前まさかみょうじとデキてたのかよ!?」なんて、今にも鋭い牙で噛みつかん勢いで騒いで帰って行った。
あんな乳臭ぇ女のどこがいいんだ!? なんてニヤけながら。
ふんだ。……まったく失礼しちゃう!
検事さんの腕の中で遠ざかるリーゼントに向かって舌を出してやった。
「どういう事だ……? 服だけ放置されているなんて」
静まり返った室内で、検事さんが真面目な声を上げていた。
* * *
夕暮れ時…――
「みょうじ君! どこにいるんだ!?」
バイクを運転する検事さんのジャンパーの胸元から顔を出し、わたしはここにいます! と声を枯らせて鳴くけれど、検事さんは気づかない。
定時になっても戻ってこないわたしを心配して、検事さんが必死にわたしを探しまわっていた。
鞄が残されているからそんなに遠くには行っていないはずだと言いながらも、検事局内をくまなく探し、警察署の茜さんの方にまで話を聞きに行ったり、あちこちと行ったり来たりをして、わたしを探してくれている。
その唇から「みょうじ君」と名前を呼ばれるたびに鼓動が高鳴った。
「ガリュー、おめーよ……みょうじだって大人なんだから、んな必死になって探しまわったらみっともないぜ! 大の男がよお」
なんてブツブツ言いながらも、ダイアンも茜さんも手分けしてわたしを探してくれた…。
* * *
結局、わたしは見つからず(ねこになって検事さんの側にいるんだから当然だけど)、検事さんはため息をつきながらわたしをマンションへと連れ帰った。
ベッドの上に降ろされたわたしは、じいっと寝室内を見まわしていた。
いかにも、そう――検事さんらしい部屋と言えばいいのか。
モノトーンを基調としたシックな家具の室内に、ギターやら五線紙やらがバラバラに散らばっていて、執務室とあまり印象は変わらない。
ただ、執務室の中よりは規則性のある散らかり方をしているというか、散らかし方もオシャレというか、まるでディスプレイされているように五線紙がテーブルの上に広がっているのだ。
窓からは綺麗な夜景が見えて思わず自分の立場も忘れて暫くの間魅入ってしまった。
検事さんはこんなところでギターを鳴らしながら曲を作ってるんだな……なんて思いながら、少し検事さんの秘密を垣間見れたようで胸が高鳴る。
その時扉が開き、タオルを肩にかけた上半身裸の検事さんが部屋に入って来た。
褐色の肌……その引き締まった身体が目前に迫って来て眩暈がしそうな光景だった。
あまりに動揺しすぎて、あやうくベッドの上から転げ落ちてしまいそうになる。
風呂上がりのシャンプーの匂いが濃厚に香り、室内にしっとりとした雰囲気が漂う。
検事さんがそこにいるだけで、夜景の見える薄暗い室内が映画のセットのように見えてくるようだった。
住む世界が違う人だなあとぼんやり見惚れていると、いきなり検事さんがベッドに倒れ込んだ。
「………………」
はあ、とため息をついて、検事さんが静かに呟いた。
「なまえ」
たった一言、それだけ呟き、大きな枕をぎゅっと掴む。
ため息とともに吐き出された切なげな声の響きに、わたしの心臓の音が早鐘を打ち始める。
(わたしのことずっと、心配してくれてるんだ……)
脚を忍ばせ近付いてくと、真面目な顔をした検事さんと目が合った。
いつもはわたしをからかうようなスカした表情ばかりを向けてくるのに……こんなに真剣な顔が出来るんだっていうぐらい。
「……雰囲気が似てる……」
検事さんがわたしの頭を撫でながら泣き笑いのような表情を浮かべた。
その濡れた瞳を見ていると、胸が絞られるように切なくなる。
「オレの好きな子によく似てる」
初めて聞いた検事さんの低い声音に鼓動の高鳴りが止まらない。
ちいさな身体をつき破りそうなほど、心臓が激しく脈動している。
(一人のときはオレって言うの?)
(なまえって……なまえって、わたしの名前を呼んでるの……?)
……知らなかった……。
わたしの知らない検事さんの顔。わたしの知らない検事さんの声。
わたし……なにも検事さんの事、知らなかったんだ…――
そのままその夜は、検事さんの胸に抱き寄せられながら眠りについた。
* * *
その夜、わたしは検事さんの夢を見た。
裸で抱き合って眠っている、ドキドキするような夢…… ゆめ……?
(夢じゃない!!)
目を開けた途端、飛び込んで来る超絶美形な検事さんのドアップに、わたしは思わず身じろいだ。
それなのに動けない。その身体をがっちりと抱きしめられていて動けない。
(腕……?)
そう、検事さんの腕だ。
逃がさないというように背中にまわされた腕に抱きこまれ、重なる胸に……
「!」
(え、……え。え、え、え、ええええええええぇ!?)
わたしの胸と、検事さんの上半身裸の胸がその……ぴったりと、くっついていて……
言葉で言い表したら、赤面しそうな状況に陥っていた。
(いつのまに戻ったの……!?)
検事さんは目をつぶったまま、すぅ……と静かに寝息を立てている。
その耳をくすぐる吐息の音にすら、落ち着かなく心臓が騒ぎ出す。
まるで一夜を共にした恋人同士のような体勢で目覚めたわたしは、検事さんの腕の中で途方に暮れていた。
頬が、顔が熱い。これ以上もないほどに熱い。なによりも重なりあった胸が恥ずかしい……
もしも――こんなところで検事さんが起きてしまったら、どうしよう!?
(早くここから抜け出さないと……!)
わたしが身じろごうとしたその時…――
「ん……」
低い唸り声を上げて、目の前の検事さんが眉をしかめた。
(起きちゃうよ! どうしよう……!?)
なにより、痛いぐらいに主張している胸の鼓動の振動で検事さんが起きてしまわないかとどぎまぎした。
そっと抜けだそうとしたら背中をきつく抱きしめられて、じたばた暴れたくなるのを必死でこらえる。
「なまえ……」
夢でも見ているのか、わたしの名前を呼んで、腕の力が更に強くなる。
色っぽいとも言えそうな低い声に耳元をなぶられながら、できるだけ息を潜めて腕の力が緩められるのを待った。
* * *
あの後検事さんが目覚める前に腕の中から抜けだし、リビングに置かれたわたしの服を素早く身につけた。
鞄を手に取り、脚を忍ばせながらそおっと、そおっと玄関まで滑り込むように辿りつき、オートロックの扉から部屋の外に出たときには全身に冷や汗をかいていた。
「はああぁーー」と大きなため息をつき、わたしはまた一目散に自分のマンションへと逃げ帰ったのである。
(それにしても……)
検事さん、絶対わたしの下着……見た、よね……?
あの綺麗な青い瞳にわたしの下着が一瞬でも映ったのかと思うと顔から火が出そうになった。
軽く畳まれて持ち帰られた洋服の中にあった下着……こんなの、検事さんにとっては珍しいものでもなんでもないと思うけれど、やっぱり……
(恥ずかしい……)
頬が痺れるように熱を持つ感覚を覚えながら、わたしはシャワーを浴び、朝の身支度を整えたのだった。
携帯には茜さんの着信履歴やメールがたくさん残されていて、無事を告げるメールを返すとすぐさま電話がかってきた。
「あんた一体どこに行ってたのよ!? 牙琉検事が心配してたのよ!?」
朝から早口でまくしたてるように怒られて、やっと日常に戻ったような――人間に戻れた実感がひしひしと湧いて来たのだった。
* * *
「みょうじ君!」
一瞬、抱き締められるのかと思った。
検事さんの執務室をノックして扉を開けた途端、椅子から立ち上がって駆け寄ってきた検事さんを見上げ、心臓が大きく跳ねた。
「どこへ行ってたんだ!?」
心配したよ……
(知ってる……)
なんともいえない表情でわたしを見つめる検事さんに、切ないような、甘いような感情がわき上がる。
昨日は具合が悪くなって早退させてもらったと適当に誤魔化したけれど、わたしの説明に検事さんはやたらと首を捻っていた。
「おかしいな……確かに君の服を持ち帰ったはずなんだ。この部屋にあった携帯も、鞄も……」
「夢でも……見ていたんじゃないですか」
だって普通、ありえないでしょう? 服を全部脱いで人がどこかに消えてしまうなんて。
そう言ってみても、検事さんはどこか納得をしない表情で部屋の片隅――昨日わたしの服が脱ぎ捨てられていた辺りを見つめていた。その視線がわたしへと戻り、「そういえば……」と切り出す。
可愛い白猫に出会ったんだと。
どきりとしながら検事さんを見つめ返すと、検事さんが思い出すようにわたしの目を見つめる。
「雰囲気がきみに似てた、かな」
青い瞳がわたしを真っ直ぐに見つめ、音がしそうなほど長い睫毛に縁取られた目を瞬いて、微笑んだ。
「可愛いねこだったよ」
その表情と声が、昨夜の検事さんと重なって見えた。
『……雰囲気が似てる……』
『オレの好きな子によく似てる』
(あれって、もしかして……わたしの、こと……?)
わたしの頭を撫でながら泣き笑いのような表情をした検事さんの顔も、あの濡れた切なげな瞳もわたしの胸に忘れられない光景として、くっきりと残っていて…――頬が燃えるように熱い。
「……くん?」
検事さんに話しかけられているのに気づき、わたしはあわてて我に返る。
「みょうじ君、大丈夫か?」
熱でもあるんじゃないかと心配してくれる検事さんに対して首を振る。
(わたし……)
「ちょっと頭を冷やしてきます!」
(わたし……今日からどんな顔して検事さんと話せばいいんだろう……まともに顔も見られない……ッ!)
逃げるように足早に廊下へ飛び出していくと、書類を手にした茜さんがちょうどこちらへやってくるところだった。
* * *
「あんた身体は大丈夫なの……?」
人気のない午前中のカフェテリアで紅茶とかりんとうを奢ってもらいながら、茜さんと向き合って昨日の事情説明をした。
といっても、こんなに非科学的な出来事を茜さんが信じてくれるとは到底思えなかったので、検事さんにしたのと同じような内容を茜さんにも話して聞かせただけだけれども…。
「牙琉検事、あんたのこと、泣きそうな目で探し続けてたわよ」
(知ってる……)
「あんなに必死にあんたのこと探してたんだから。あんたすっかり有名人になっちゃったわよ?」
「有名人……?」
「あのジャラジャラがねえ〜? いっつもあんたのことからかってた検事さんがねえー! あんたが行方不明になった途端、あんな辛そうな顔するんだもの」
かりんとうを頬張りながら、茜さんが心底意外そうな顔でわたしを見つめる。
昨夜「オレ」なんて言ってた検事さんの顔を見たら、茜さん、目が飛び出るほど驚くに違いない。
しかも良く考えてみれば、わたし昨日……
(検事さんにキス、されたんだよね……)
猫の姿のときだったけど。 それに……
(あの後検事さんのお家に行って、裸で……裸で朝まで抱き合ってた)
なんて言ったら、茜さん、目ん玉が飛び出るほど驚いてひっくり返るに違いない。
こんなこと、絶対に言えないけど……
「どういうこと……?」
目の前の茜さんが瞬きを繰り返しながら、信じられないような目でわたしを見ている。
(え)
「今の話……本当なの?」
(えぇ!?)
「夜遅くあんたを見つけて、そのまま家へ連れ帰っちゃって、牙琉検事、その場であんたにキスしちゃったのね!? それで、そのまま、勢いで朝まで――って、そういうことなんでしょう!? なまえ!」
もしかしてわたし今の、心の中じゃなくて口に出して言ってた――!?
わたしのつぶやきの内容を繋ぎ合わせて勝手にストーリーを作った茜さんが、肩を怒らせながら立ち上がる。
「……あのジャラジャラ、ちょっとでもいいやつだと思ってたあたしが馬鹿だったわ! やっぱりあんなの、女の敵よ! あんにゃろう! うちのなまえになんてことしてくれるのよ! ハイドロキシアセアニリドホスホモノエステラーゼ溶液でぶちのめしてくれるんだからっ!」
(ここで茜さんが乗り出していったら、さっきせっかく検事さんを誤魔化した苦労が全部パーになっちゃう!!)
今にも検事さんの所へ乗り出していきそうな勢いの茜さんを必死で止めようとすると、まなじりを釣り上げた茜さんに怒られた。
「あんた! ジャラジャラに抱かれて絆されちゃったんじゃないの!? だめよそんなの! ああいう男を野放しにすると、すーぐつけあがるんだから!!」
そのときわたしたちの背後から、特徴的なリーゼントが顔を出した。
「よーーお、みょうじ! お前やっぱり無事だったじゃねえか!」
けらけらと笑い、わたしの肩を気軽に叩く。
「ガリューのやつ、大げさなんだよ。なにかってぇと、お前が心配だっていつも気にしてたしなァ?」
「ちょっとあんた! 今あたしがなまえと話してんの!」なんて胸に手を当てて主張してる茜さんを綺麗に無視してダイアンがニヤつきながらわたしを見る。
「あんな必死なガリュー、初めて見たぜ!みょうじ、お前にも見せてやりたかったぐらいになあ!」
(知ってる……)
ずっと検事さんの胸に抱かれながら、わたしを探してくれた姿をずっと見ていたから…――
「あんなにお前からかって怒らせてた癖によおー。あいつ好きな女の気を惹こうとしてわざとからかうタイプかよ!? 小学生みてぇ!! ケッサクだぜっ」
腹を抱えて涙を流さんばかりに爆笑するダイアンの「ケッサク」に対抗するように「サイテイよ!」と茜さんがダイアンを睨みつける。
「あんなのなまえを弄んでるだけじゃないの! 最低よ最低!」
両腰に手を当て、頬を膨らませながらダイアンを睨み上げる茜さん。
それにダイアンは「アァ?」と眉を顰め、メンチを切る不良のように茜さんを見下ろし、深々とため息をついた。
「ありゃ確実に惚れてんだろ。宝月、お前今までロクな男と付き合った経験ないだろ!?」
「なんですって!!」
「ガリューの奴、どう考えてもこいつにベタ惚れなんだよ」
「女の敵よ!」
こいつ、とわたしの頭にポンと手を置くダイアンの腕を払いのけ、茜さんが守る様にわたしの前に立ちはだかる。
(あ、そういえば……)
昨日の検事さんとダイアンの会話を思いだし、一言言ってやりたくなった。
今は茜さんの後ろ盾ならぬ、前衛の盾があるし、少しばかり強気になれた。
「ダイアン、わたし……」
「あ?」
「乳臭い女なんかじゃないから!!」
「あんたそんなことなまえに言ったの!? 最低! 女の敵! やっぱり男は女の敵よ!!」
茜さんが突っかかって行く目の前で、昨日そう言って笑っていたのを本人も思い出したのか、ダイアンの顔が蒼白になる。
「おめぇ、いつの間に聞いてやがった!? こえええええええーーー! オンナってこええええ! お前まさか、ガリューの部屋に盗聴器でもしかけてやがんのかよ!?」
それからふと、思い立ったようにダイアンがわたしを見下ろす。
頭の上から足の先までまじまじと見つめ、それからニヤリといやらしい笑みを浮かべて。
「……そういやよお、宝月。こいつらとっくにデキてんぜ!?」
(っ! やな予感!)
背筋をぶるっと震わせる。背中に冷や汗が流れるのがリアルにわかった。
「聞いて驚け宝月。昨日ガリューの執務室に行ったらよお……こいつの服が床に散らばってやがったんだぜ……ご丁寧に脱ぎたての下着まで転がってやがった」
「…………最低」
ニヤニヤと野卑な笑みを浮かべるダイアンを睨みつけながら、氷の声音で茜さんが言う。
「みょうじ、お前、昨日……ガリューに脱がされて素っ裸で部屋のどこかに隠れてたな? 白状しろよ」
尋問するように近付いてくるダイアンの横で茜さんが全身を戦慄かせるようにして震わせている。
と。そんなところへ検事さんがひょっこり顔を出したのである。
「みょうじ君! こんなところにいたのか!」
探したよ……とどこか嬉しそうにそう言いながら。
(ああ! こないで! こないで検事さん!)
ますます話がややこしくなっちゃう…――!
頭の中が真っ白になって混乱するわたしの前で、会話が次々になされていく。
「牙琉検事!あたし、ちょっと話があります。なまえのことで……」
「おうおう! 俺も聞きたいことがあんぜ、ガリュー!!」
なあなあ、執務室プレイってどーなんだよ? 実際。イイのか!? アァ?
無事に人間に戻れても、どうやらもうひと波乱、ありそうです…――
あとがき
VOTEで検事さんの夢を希望されていた方がいらしたので、ここはいっちょ検事さんで書かせていただくぜ! と思って書きました! 牙琉検事さんです!
シロになる、は昔書こうとした御剣検事さんのねこになる、のコメディバージョンみたいな感じです。ショートバージョンで書かせていただきました。
なんだろう、人には見せない素の顔を、検事さんたちは猫の前なら出してくれるんじゃないかなって思って書きました。
検事さんがヒロイン大好きなのも書けたし、ナチュラルに「オレ」って言ってる素の部分も書けたし、ちょっとだけエッチな雰囲気も書けたし、キャラ同士の掛け合いは書けたしですっごく楽しかったです!!
ガリューカッコ良かったのに、あんなエロい誤解されて、無事に丸く収まったんだろうか……!?(笑)
朝起きた時、検事さんも裸のヒロイン抱きしめてるのに気づいたらまた違った展開になっていたかもしれません//