32


「そのせいであんたが傷付いてもか」

「私の事は構わないの。……本当に」

華憐の大きな瞳に一瞬影がよぎるのを、蒼は見逃さなかった。

息を吐いて、何気無い口調で言う。

「華憐、やっぱり好きな奴がいるだろ」

「……違うよ。私は誰も好きになんてならない」

首を振った華憐に、更に続ける。

「変な意地を張らないで、自分に素直になれよ。それだけでも全然気持ちが変わって来るぞ」

紫陽に対する好きは家族に抱くような感情で、それとはまた別の感情があるから戸惑っているのだと、華憐は言えずに口を閉ざした。

今目の前で明るい色の瞳で自分を見詰める人に、もっと熱く苦しい感情を覚える事実を伝える勇気が無かった。

- 216 -






[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet