阿散井恋次




「好きだったよ、お前のこと」

まるで、未練を残したまま別れる恋人へ告げる最後の言葉のようだった。
焼きたてのたい焼きに頭からかぶりついていた恋次は一瞬瞠目し、茶屋の前の床机に並んで腰をかけている、全く予想もしていない言葉を零した男の顔を覗き込んだ。しかし食べ終えた柏餅の葉を弄ぶ指先を見つめるだけの横顔からは感情を読み取ることはできなかった。

「過去形ってことは、もう好きじゃないんすか」

返す言葉としては少し違うような気もしたが、冗談にして茶化すにはその声はあまりにも清廉で、恋次は素直に思ったことをそのままぶつけた。

「いや、好きだよ」

でも、好きだった。そう、同じ言葉を同じ声色で繰り返した。
お調子者とは程遠いが、元々口数の少ない人ではない。なのにどうして肝心な事となると、こうも極端に言葉が少なくなるのだろうと恋次は思う。

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