八神隆之
す、と伸びてきた無骨な指先が顎を掠めて下唇に触れた。
「乾いてるよ」
振れ幅の少ない平坦な声と共に親指でなぞられた唇は、冷えた冬の空気に触れて乾ききっていた。
ああ、と短い言葉で返すと、隣を歩く端正な顔の男は一瞬不思議そうに眉を動かしたあと、そのままいつもの無愛想な表情へと戻した。けれど指先はそのままだ。
もう一度、さり、と薄皮のめくれた唇の表面を撫でられる。何か意図があるのだろうか。させたいようにしていると、不思議そうな声で訊ねられた。
「名前さん、もしかして口の中なんか出来てる?」