眩しい日差しの中で




さながら絹の糸のような銀色の髪をなびかせて、男はふらりとエースの前に現れた。
ちょうど潰しかけてた街の不良がエースの周りに四、五人ほど転がっている。
建物に阻まれたこの場所は風の逃げ場が無く、砂埃が舞って酷く空気が悪かった。

「ずいぶんひでー有様だな。これ全部お前がやったの?」
「……だったら、なんだよ」
「いや。ただ、ガキのくせに強ェなって思っただけ」

男は餓えた狼のような険のある目を簡単にほころばせて、無邪気な子供の様に笑った。
別に何でもないように簡単に笑顔を見せる男を睨み付けるように見上げて、エースは少しだけ戸惑っていた。
街の大人を返り討ちにしたことは今まで幾度となくあったが、それで気分がよくなった事なんて一度だってなかったし、それがバレるとダダンやガープに説教される羽目になっていたので終始後味が悪かった。
自分が何をしても喜んでくれる大人は身近にいなかったし、だから。こんなふうに強いと言って褒められることも、笑顔を向けられることも慣れていなくて、エースはどうしたらいいのかわからなかった。なんで、と問いかけようとした言葉は掠れて、停滞する風の音に紛れて消えた。

「お前、あまり生き急ぐなよ」
「……なに、が」
「人生楽しめってんだ。ガキが、そんな暗闇のどん底にいるみてェな顔して生きんな」

男がエースの前にしゃがみ目線が並ぶ。
そいつはなぜか、まるでエースの痛みを知っているかのように切なげな色を浮かべて微笑む。

「生きててよかったって思える日は必ず来る」
「っ……」

なぜかわからないけれど無性に泣きたくなった。
声が、優しく、柔らかく、響いて。
鼻の奥が沁みるように痛むのを奥歯を噛んでやり過ごした。
声はもう、発することができなかった。

「な?」

頭の上にぽんと置かれた手のひらは、温かい。
エースの少し長めの黒髪の感触を確かめるように頭を撫でる、その手が離れる。
立ち上がった男はその場で拳をかたく握るエースに向けて、いつか、と呟いた。

「いつか、おれが、お前を幸せにしてやるよ」

なにを思ったのか、そんな脈絡もない言葉がやけにはっきり鼓膜に響いて。
なんの確証もないそれが誰よりもなによりも信じ得られる言葉に聞こえて。
背を向けた、振り向きざま。高い建物の隙間からこぼれる日差しを受けて無邪気に笑った顔がいつまでも、まぶたの裏に焼き付いて離れなかった。

title by.秋桜

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