※番外編
※α夏油×Ω男主(元恋人)⇒α虎杖×Ω男主
※オメガバース
ずっと一緒にいるんだと思ってた。きっとこのまま番になって、永遠に一緒にいれるって思っていたのに。
「嘘だよね、番ができたなんて…」
傑は俺の言葉に表情を曇らせるだけ。冗談でもこんなことを言うタイプでもないし事実なのだろう。
「すまない」
「嘘って言ってよ!だってあんなに好きって言ってたのに…番に、なろうねって…」
自分から発したとは思えないくらい弱々しい音は沈黙に包まれる。高校で出会ってからずっと一緒だった。いつか番になろうと誓って同じ時を過ごして、昨日だってあんなに愛を囁いて、今朝だって何も変わらなかった。いつも通りの日常だったのに。
「突然運命と出会ってしまって、どうしたらいいのかわからないんだ。でもあの子は私がいなくては死んでしまう。私の心はたしかに君のものなのに…」
運命の番は身体だけでなく、心で惹かれ合うと言う。でも傑はまだちぐはぐな心のまま戸惑っていた。番を好きじゃないのなら、まだ俺を選んでくれる道があるのなら取り戻したい。運命に抗ってやりたいとその手を取った。
「傑は俺のものだよ。どこにも行かせない」
「…ああ、私もなまえと一緒にいたいよ。この先もずっとだ」
でも俺たちは運命がどういうものか、まだわかっていなかったんだ。
「今日はどうしようか」
「んー…」
ソファで休む傑は生返事をしながら携帯を触っている。その検索履歴が「オメガ」「番がいなくなった」で埋まっていることを俺は知っていた。だから牽制するように「行かないで」と言って優しい傑を縛り付ける。でも行動を制御した分、それは心を消耗させていたんだ。
「こないだ新しくできたカフェ、気になってるんだよね」
「ああ、いいね」
「せっかくのデートならこれ着ちゃおうかな。傑はこういうの好きだもんね」
「いいと思うよ」
今まではもっと褒めてくれたのに、ここ最近はずっとこの調子だった。残った情だけが傑を引きとめているから当然かもしれない。でも俺はこんなにも傑を求めている。いっそのこと俺も番にしてもらえればいい。アルファはいくらでも番を作れるのだから、とお守りのようにポケットに忍ばせた誘発剤を指でなぞる。
「やっぱり出かけるの止めよっかな」
「いいの?」
「傑と家にいたい気分かも」
その隣に座ってねだるようにキスをしても、宥めるように頭を撫でるだけ。何度も頬にキスをしてこっちを向かせようとしても、携帯から目を離さないから無理やりそれを奪って唇にキスをする。
「いたずらしないの」
そう言って唇を拭ったことを本人は気づいていない。そこでやっと運命に勝てないと悟った。傑はもう俺を見ない。俺だけが幸せになれない。
「傑はもう俺のこといらないんだ」
「何言ってるの。なまえが一番好きだよ」
「じゃあ番になろう。だって俺が一番なら、運命なんて関係ないもんね」
長いこと付けていた首輪をはずして、目の前に取り出した誘発剤に表情は変わる。針の先が俺に触れた瞬間、傑は我に返ったようにその手を掴む。
「なんてことをするんだ!冗談でもよしてくれ」
「俺は本気だよ。ずっとどうしたらいいのか考えてた」
「こんなことしなくても私はちゃんとなまえのことを大事に思ってる。だから傍にいるんじゃないか」
「俺が可哀想だから言う事を聞いてくれてるだけだろ。本当に大事なら中途半端なことするなよ」
無理やり番になったところできっと運命ばかりにかまけて、俺を見ないことはわかりきっている。もう傑の一番にはなれない。離してあげないといけないのに、無理やり繋いでも誰も幸せになれないのに、さみしくてこの手を離せない。
「傑と番になりたい…」
「………すまない」
自分で中途半端なことをするなと言っておいて、いざ現実を突きつけられたらこれだ。胸が張り裂けそうなほど痛んで、お腹の奥で黒く濁ったそれが言葉になって傑へと向かっていく。傑のことが愛しいはずなのに、ぶつけてもなんにも変わらないのに、まだ可能性にすがる自分が嫌になって家から飛び出した。
少しずつ上がる熱はきっと少し体内にはいった誘発剤のせい。オメガなんかに産まれたせいだと自分を呪っても、今や行き場のない気持ちを抱えるだけで、いつしか歩くことを止めた。このまま道のはじっこで膝を抱えていれば、きっと誰かが匂いを嗅ぎつけて噛んでくれるだろう。もうどうなったっていいと目を瞑ってその時を待つ。
「お兄さん、大丈夫?もしかしてヒート?」
顔を上げると目の前にはピンク色の短髪の男がいた。やっぱり誰かひっかかったと喜びと、ついに終わってしまう絶望に挟まれた気持ちになった。
「すっげぇ甘い匂いしてるから心配になって。てか首輪してないじゃん!危ないよ」
「じゃあ俺のこと噛んでくれませんか」
「事情は知らんけど、そういうのは本当に好きな人となるべきだよ」
噛み合わない言葉に目を丸くしたアルファは、いつかの傑と同じこと言う。
「じゃあいい。違う人に噛んでもらうからほっといて」
「だから危ないって!行くとこないなら俺ん家くる?すぐそこだからさ」
なんだかんだ優しさを見せても、本当は噛みたいから家に誘っているんじゃないか。だって本気で言っているならばお人好しが過ぎる。アルファの言葉を都合よく解釈して、取った手からはじんわりとした温かさが伝わる。それは俺をほんの少しだけ溶かしていった。
「ああ、もう泣かんでよ。目痛くなっちゃう」
俺はきっとこの人と番になる。傑が優しすぎるから俺と番になれなかったんだよ。
知らないアルファの匂いに包まれた部屋で、自分の熱が上がるのがわかった。思っていたよりも入り込んだ誘発剤がじわじわと効いているらしい。針が触れた程度だと思ったんだけどな。
「俺さ、耐性あるっぽくて鈍感なんだけど、お兄さんのはわかったんだよね。結構濃いにおいしてんじゃない?」
「別に噛まれていいもん。だってその気だから連れて来たんでしょう」
「そんなことせんよ。今のうちに部屋出とくからさ、これ渡しとくな」
手渡された鍵にようやく本心を知った俺は青ざめる。本当に心配して声をかけてくれた人になんてことをしてしまったんだろと。きっと傑もこうやって手を差し伸べたんだ。それなのに家から出ていこうとアルファを無理やり引き止めて、その身体にしがみついているのを自分でも変だと思った時には遅かった。
「におい濃くなってね?さすがにそろそろやばいから離して」
「やだ…っ、やだ!いかないでよぉ…」
「このままじゃ俺も何するかわかんねぇよ。名前も知らない奴と番になるなんてお兄さんが嫌だろ」
「いい…っ、噛んでいいから…番にして…」
「そんな簡単に言うけどさぁ、…っ、ほら。噛んだらこんなに血ィ出んだぜ」
自分が言っているものがどういうことなのか、アルファは自分の腕を噛んで目の前に示した。赤く滲む血は痛々しいはずなのに、何故か甘い匂いが広がって無意識にそこに口付ける。驚くのも無視して舌で舐めとったそれはたしかに甘い。そんな、まさかこんな所に居るなんて。
「俺の、運命…?」
さらに濃くなった匂いは自分でもわかるほどに、この空間の色を変えていった。そしてアルファも先程までの余裕はもう無い。俺たちの関係性に気づいてしまったから。
「は…っは、やべぇ…なんだよ、これ…」
「うんめい…♡おれの♡かんで…っつがいに、して…♡」
「は…っ♡噛みたい…っ、だめなのに…っこんな…!」
「おれと…、なまえとひとつになって…♡」
その身体を抱き締めればそのまま床に押し倒される。ギラついた瞳が俺を射抜いて、心の奥底から湧き上がる初めての感情に全てが支配された。
「なまえ…っなまえ…俺、絶対責任とるから、番にしたい…っ俺の…番に…っ♡」
「おにいさんの、つがいにして…♡」
「俺の名前、悠仁って呼んで♡たくさん呼んでな…♡」
「ゆうじ…♡」
唇を重ねた俺たちは運命を共にする。きっと最初から決まっていたんだ。
「なまえ、心配したよ。携帯も繋がらないしどこに行って…」
「ごめんね、傑。でももう大丈夫だから」
言葉を遮った俺はうなじの噛み跡をみせた。これがどういう意味なのか言うよりも早い。
「僕にも番が出来た。だから別れよう」
「番…って……」
振り向けば傑は悔しそうに唇を噛んでいた。まだそんな顔できたんだ。ちゃんと俺は傑に愛されていたんだな。
「たくさんわがまま言ってごめんね。すぐ出ていくから迎えに行ってあげて」
傑の運命になりたかった、なんてもう言わない。進む道は最初から違っていたんだ。だから俺も背負うよ、傑と同じように運命を。