「ト〜シ〜、あっそびましょ〜」
「遊ばねえよ、とっとと寝ろ」
「じゃあ一緒に寝てもい〜い?」
枕を胸に抱いて上目づかいをする近藤さんなんて誰得だよ。あ、なまえ得か?
「なまえと一緒に寝ろよ。せっかく来たんだしな」
「そう思ったんだけどぉ〜、今夜はトシと恋バナがしたいんだよぉ〜」
「何が悲しくておっさんと恋バナすんだよ。他所を当たれ」
まったく戻る気配のないところから察するに、なまえと何かあったんだろうか。そもそも恋バナって何だよ。
しぶしぶあきらめて部屋に通す。おい、俺の布団で寝るな。自分の持ってこい。
速攻で明かりを消して入眠モードに突入、といくわけもなく案の定お決まりのご挨拶から始まる。
「ねぇ、もう寝た?」
「寝た」
「トシってさぁ、好きな人いる?」
「寝たって言ってんだろ」
「ところでさっき風呂であったんだけど…」
マジで恋バナすんのかよ。
面倒くさい話ならいくら近藤さんとはいえ寝ちまうからな。絶対だぞ。本当だぞ。
「なまえに好きって言われちゃった」
あいつ初日からぶちかましたなァ!
何もさっさと告白しろと思ってふたりにしたわけじゃねえぞ…とはいえ言っちまったもんは仕方ねぇか。
「好きくらい普通なんじゃねぇのか?幼なじみでも仲間としてでもよ」
「…だ、だよねー!やっぱり好きくらい普通だよね!俺なにか勘違いしちゃったのかな!はずかしっ」
布団をごろごろと転げ回る近藤さんにため息を吐く。分かりやすいくらい無理に笑うなよ。
普段あんなに馬鹿がつくほどポジティブにストーカーしてたっつーのに急に弱気になりやがって…なまえもなかなか報われねえもんだな。
ここはフォローしてやるから感謝しろよ。
「もし仮にだ、俺や総悟に同じこと言われたらどうすんだ」
「なんだトシ今日はデレの日か?しょうがないやつだなぁ、俺も好きだぞ〜!」
「全然態度ちげぇじゃねぇか!お前わざとだろ!」
「そんなことないぞ!でもなまえとは会えてなかったからなぁ。ずっと頭から離れなくて、なんだか魔法にでもかけられたようだ」
これまでに込められたあいつの思いは魔法の名がつくらしい。
中に重苦しい気持ちだって混ざっていることを知っているだろうか。いやそんなこと言うのは野暮ってもんか。
「魔法にかけられたんなら解けるのもあいつだけだろ」
「たしかに…じゃあ俺なまえのとこいってくる!」
圧倒的な行動力ゥ!?!?!
ばたばたと慌ただしく部屋を出ていきやがった。枕だけしっかり持って帰るのなんなんだ。人の睡眠妨害して放置なんざいい度胸してやがる。
今度は別の意味で睡眠妨害が始まらないことを祈るばかりだ。まぁそれはねぇか。
つーか部屋来た時すでに「恋バナ」って言ってんだからもう気づいてんだろう。これはあの人の背中を押す話だったなんてな。
***
俺は今すぐ帰る支度をすべきか本気で悩んでいた。
あんなことを言ってしまったのだ。もうここに居れるわけが無い。居たいけど居れない。本当に俺のばか。何してんだよ!
もんもんと先程の出来事を思い出しては頭を振って消し去ろうとして余計にこびりついて離れなくなる。いっそ夢だったらいいのに。
「なまえさん〜、あっそびましょ〜」
少し開いた襖から総悟がニヤリ顔をのぞかせていた。
枕を抱いたまま遠慮なしに部屋に入ってくるものだから、久しぶりにそんな姿を見て嬉しくなってしまう。うう、やっぱり帰りたくないよ。夢じゃなくていいです。
「今夜一緒に寝ましょうや。俺ァわくわくしちまって新品の枕持ってきたんですぜ」
「じゃあ、布団もうひとつ用意しなきゃね」
「なまえさんと一緒のにはいりやす」
「総悟大きくなっちゃったから狭いと思「その分くっつくんで大丈夫でさ」
絶対に譲らない強い意思を感じるぞ。いつのまにか背だけじゃなくて態度も大きくなって…まぁ元からだけど。
数年ぶりだし総悟も寂しかったのかなと思うとやっぱり断れなくて、いいよって言った時のにっこり笑顔はまだ子供のままで可愛らしい。
いつも俺と寝てたから大丈夫だよね。でもやっぱりお布団いっこじゃ狭いよ。本当にいいのかなぁ。
「俺ァなまえさんのこと大好きですからねィ。狭くってもかまいやしやせんぜ」
「心読むのやめてよ」
「なまえさんが分かりやすいんでさ」
「でも俺も総悟のこと大好きだから良しとします」
ぎゅうと抱きついてくる手があったかい。
そのままお布団に潜り込んで、冷たい俺の足をくっつけて総悟にちょっといじわるしてやった。お返しに苦しい位抱きついて身動きを取れなくされてしまう。これが昔はいつものことだったんだ。
やっと俺の好きな日常に帰ってきたんだなって思ったら、待ち焦がれた分あまりにも愛しい日々だと強く思う。
俺はこれ以上何を求めることができるんだろうか。だって総悟には簡単に好きって言えるんだもの。じゃあ勲にもそういう意味だったんだよって言えばまだ傍にいてもらえるよね。
***
部屋の明かりは灯されていない。
それでもまだ起きてるかもしれない。そんな気持ちから襖を開ける。
「なまえ、起きてるか…?」
もう眠りについていたなまえと、その横にぴったりと抱きついたまま眠る総悟がいた。
いや俺もさっきトシと一緒に寝たし?総悟は昔からなまえとよく寝てたし?別に羨ましくなんかないぞ。やっぱり羨ましい。いや羨ましいってなんだ!どうしちゃったの俺……
恋する乙女のように両頬に手を当ててどきまぎする気持ちのまま、じいっとふたりを見れば見るほどやっぱり俺もそこに居たいのだと自分の気持ちが飛び出していく。
なまえと総悟の間に割り込むようにぐいぐいと体を入れ込んで、寝苦しそうな声がふたり分聞こえてくるが、その片方には少しだけムラッとしてしまった。いやいや待て流石に待て。
「んぁ、…なに……まだ夜だよ」
異変に気づいたらしいなまえがうっすら目を開けたがまだ寝ぼけているようで、そのまま手を伸ばして俺のことを寝かしつけようとしてくる。まったく俺は総悟じゃないんだがな。
心地よいぽんぽんと背中を叩くリズムを感じながら、また目をつむってしまったなまえの顔をじいっと見る。
本当はずっと分かってたんだ。
気付かないふりして会えないのをいいことにそのまま隠して、それなのにお前が追いかけて来て好きだなんていうから。それを解いたのはお前だからな。
「なまえ、好きだぞ」
「うん…?おれも、好き…だよぉ」
「っ本当か!!!」
「ほんと…いいこだから…ね、…に……しよ」
「しよ…ってキ、キスして欲しいってこと?!そうだよね、魔法は最後キスで解くもんね!ちょっと待って心の準備するから!」
「ん……そうごぉ、しずかにしてって……あれっなんで勲がいるの」
俺のこと総悟だと思ってたの?!どうりで寝かしつけようとしてたもんね!?
機会を逃したのも悔しくって離れようとするなまえの腰を無理やり引き寄せる。
「今寝ぼけながら好きって言ってくれたのって総悟のこと?」
「え、勲も…っす、好きだよ…?仲間としてみんな好きだけど…」
「風呂で言ってた好きもその意味だったのか?俺もなまえのことが好きなのに」
「お、幼なじみとかそういう意味でだよね、っ大丈夫だから!俺も同じ好きだから安心して!本当変な意味はないから」
そんな泣きそうな顔で言われても本当は違うと言ってるようにしか聞こえないぞ。
そもそもお前とどれだけ付き合ってきたと思っているんだ。優しさが見え隠れするその唇に重ねれば、きっと本当のことが伝わるだろう。
「…俺の好きはこういうのだけど、なまえは違うのか?」
「っな、なに…!だめだよ…やっ、待って…っんん!ちゅ、っむ……ぁふ、っ」
「素直になるまで、ずっとこうしてやるから」
「い、いさ…おっ……だめ、んぅう!ふ、っ……っおねがい、だめって言って、ぅ…んんっ!」
「好きだ…お前が、好きなん「良い雰囲気のとこ悪ィんですが他所でやってくれますかィ?こちとら眠いんでさ」
アーッ!総悟のことすっかり忘れてた!
その声にびっくりしたなまえは勢いよく起き上がって、顔を真っ赤にしながら目を泳がせている。
「総悟ごめん起こしちゃったよね!ごめん!やっぱり俺もう帰る!」
「なまえちょっと待ってェ!!総悟もここは寝たふりするとこでしょうが!!」
「あいにく俺ァ育ち盛りなんでね。成長期の睡眠を妨げるなんざ良い大人のすることじゃねぇや」
ごもっともすぎて何も言い返せんぞ!!帰るなんて言い出してしまったなまえを追いかけようとする俺を呼び止めた総悟。
グッと手で作ったサインをこちらに向けて健闘を祈ってくれる。なまえは必ず俺が連れ戻すから安心しろって、人差し指と中指の間に親ゆ、び…?別に今日そこまで至らないからね?!ニヤリとするのやめなさい総悟!!
***
まだ屯所の構造なんてよくわかんないのに、勢いで部屋を出てしまった。
それでも昼間通ったところはなんとなく覚えていたのか玄関にたどり着いてしまう。
今日来たばっかりなのにどういう展開だよ、その場に座り込んで先ほどまでの出来事を思い出すけれど頭がついていかない。
何で総悟と寝てたのに勲が布団にいるんだよぉ、しかもキスなんて…好きってそんな都合のいい話あるわけないよ。キスも酔ってたとかで、だってこんなの夢以外にありえない。
「本当に帰っちまうのか」
夢にしてはリアルに感じてしまう声に体がびくりとはねて、その声のする方へ振り返るなんてできないからそのまま。
なんて言ったらいいかわからなくって返事すらできない。
「あんなことをして、すまなかった。気づいたら体が勝手にというか…お前に好きだと言われてからどうも変になっちまってなぁ」
一歩一歩、近づいてくる足音に死んじゃうんじゃないかってくらい心臓がドキドキして苦しい。
「今までもこの気持ちは違うと決めつけて、お前との関係を壊したくなかったんだ」
「…っ」
「責任、とらせてくれないか。やっぱり俺はなまえが好きなんだ」
思わず振り返って勲と目が合えば、もう前とは違う関係になってしまったのだと気づく。
俺はこの人が好きで、この人もまた俺のことを好いてくれているのだと。だめだ、本当の気持ちがあふれてしまう。
「…俺も勲のことが好き。幼なじみとか仲間とかそれ以上になりたいよ」
「なまえ…っ!」
力強く抱きしめられて俺もそれに応えるようにぎゅうと抱きつく。
好きで好きで仕方がないのだと。その体から、瞳から、伝わる熱に浮かされてそこに触れようと顔を近づけた。
目を閉じればお互いをより強く感じて、あと少しで触れる。
「ただ今帰りましたー…っておじゃまでした?」
すぐ退散しますんですいませんと笑いながら言われるものだから、急に我に返ってしまって顔を手で覆った。
無理恥ずかしい無理。この人にバッチリ見られてんじゃん。
「俺やっぱりここにいれない…」
「ザキ…お前……っ」
「えええ?!任務終えて帰ってきただけですよ?!俺のせいじゃないですって!なんならそこに副長達が…」
「オイこら山崎黙ってろ」
「バレちまった落とし前なら俺がつけてやりますよ、あばよ土方!」
「俺じゃなくて山崎を始末しろ!」
先ほどまでのふたりっきりの世界は何だったのかと思うくらい、ぎゃあぎゃあやかましくなった空間。
今の総悟と十四郎にも見られてたの…ずっと隠してきたのに!今までの俺の気持ちは何だったの!
もう今日は部屋に戻って休みたい。そう思って勲を呼ぶと照れながら耳元で話しかけてくるから俺はまたドキドキしてしまう。
「続き、部屋でするか…?」
本当そういうとこだよ、勲。