※山崎×男主←銀時
※NTR記憶喪失主
「俺、なまえのこと好きなんだ」
退くんと遊びに行った帰り道、あとすこししかおしゃべりできないなって一番寂しくなってしまうときに、退くんが恥ずかしそうに下を向きながら告げた言葉。
そんなの、僕だって
「退くんが、好き…ずっと、好きだった」
「…ッ本当?ありがとう、俺いますっごく嬉しいよ」
あの時の退くんの顔が頭から離れなくて、今も本当は僕の夢だったんじゃないかって、現実なのか信じられない僕もいる。
正直に言えば、ずっと前から退くんの顔を見ては胸が苦しくて息ができなくて、こんな僕にかまってくれるのはなんでだろう、とっても優しいなって気持ちから、恋だと気づくにはそんなに時間がかからなかった。
手をつなぎたいなとか欲ばっかり出てきてしまって、なんだか僕すごい女の子みたい。
そして、明日は退くんと両想いになってからはじめてのデート。
ふたりで遊びに行ったことはあるし、きっとあれもデートというのだろうけど、僕にとってはすべてがはじめての経験でドキドキが止まらない。
あれから、なに話そうとか顔がずっとにやけちゃいそうだとか、どっちの服がいいかなとか、舞い上がってリップクリームも買っちゃった僕は落ち着きのない毎日が続いていた。
待ち合わせはお昼に駅、あと12時間くらいかぁ。明日は雨大丈夫かな。
そんなことを考えていた時、急にインターホンが鳴って思わず声が出てしまった。
こんな夜中にだれだろう?ドンドン叩いてるしさすがに怖いぞ…
「なまえ〜、いねぇの〜?」
「え?!銀さん?!」
音を出している主が判明した僕はすぐさまドアをあけた。
なまえいるじゃん、なんていって僕に抱き着いてきた銀さんはめちゃくちゃお酒のにおいがする。
こいつ酔っぱらってるぞ!!!
前に一緒に呑みに行ったときに、酔っぱらってどうしようもなくなって家に連れてきたことがあったけど、それをしっかり覚えてたみたいだ。
ちょっと休ませてあげたら楽になるかなと思って、ソファーに座った銀さんの隣に僕も座った。
「呑みすぎちゃだめだよ。休んだらちゃんと家に帰ること、いいね?」
「やだやだ〜俺ここに泊まる〜なまえと一緒にねる〜」
「僕、明日は予定あるんだから忙しいの」
「なんだァ、デートでもすんのかよ」
こういうときだけ名探偵になってしまう銀さんが恨めしいぞ。
なんだか恥ずかしいけど、僕はそうなんだってにやける顔を抑えられないまま頷くしかなかった。
すると、ボスンッという音とともに急に視界が変わった。
「ッな、に…?」
「ちげぇだろ、お前は俺のモンだろうが」
口が触れてしまいそうなほど近い距離に銀さんがいて、突然のことに頭が働かない。
お酒のかおりがただようなか、僕はただ目を見つめることしかできなかった。
「なまえにはちゃんと教えなきゃいけねェな」
そういうと銀さんは僕に、口付けた。
やわらけぇなって言ってたよ、だって僕リップクリームぬってたもん。
待ち合わせはお昼に駅、もうこんな時間だ。行かなくちゃ。
人がいっぱいいるザワザワした音のなか、僕は彼を探す。
「なまえ、お待たせ!」
「…山崎さん?今日おやすみなんですか」
「え、おやすみって…、今日デートする約束してたろ」
「僕と山崎さんがデート、ですか…」
「なまえ、どうしたの。しかも山崎さんって、俺のこと名前で呼んでたのに」
「誰かと勘違いしてますか?…僕、待ってる人いるので」
山崎さんが待って、と僕の手をつかんだ瞬間だった。
「なに人のに手ェだしてるんですか、おまわりさん」
僕はなんだか様子のおかしい山崎さんの手を振りほどいて、やっと来てくれた銀さんの胸に飛び込んだ。
山崎さんは目を見開いてこっちを見ているけど、僕こそ今の状況がよくわからないし、なにか勘違いされているのかもしれないと思うと少し怖くなってしまった。
とにかくここに居たくなくて銀さんの手をつかんで走り出した、後ろで銀さんが笑ってることなんて知らずに。
恋人ができてから、ある人が僕の仕事先に毎日のように現れるようになった。
この人ちゃんと仕事してる?大丈夫?
そもそも僕たちは挨拶はするけれど、たまにしか話をしたことがない程度の仲だったはずだ。
それなのに顔を合わせては、俺のことを知ってほしい、とお願いされている。
僕は彼を好きだし、彼も僕のことを好きだと言ってくれているから、好意を寄せてくれても気持ちにこたえることはできないのに。
「じゃあ、1回デートしたら諦める。もう迷惑かけないからお願い」
僕の手をとってみつめてくる山崎さんのいつもと違う雰囲気におされて、思わず頷いてしまった僕は悪い子なんだろう。
待ち合わせはお昼に駅、あと1時間くらい。
気乗りしないとはいえ外出するんだから最低限の身だしなみを整えるため、鏡の前でワックスをつける。
となりにあったリップクリームはいつ買ったんだっけ、そんなことを考えていたら玄関のチャイムがなる。
「なまえちゃ〜ん、あ〜そ〜ぼ〜」
「タイミング悪いなぁ。僕このあと予定があるんだから忙しいの」
「じゃあ、このままここで待ってていいだろ」
玄関をあがってリビングに入り込む銀さんを後ろからつかまえる。
このひろい背中にぎゅうっと抱きつくのが好きだ。
頭をぐりぐり押し付けながらする会話は、付き合っていることをより強調させてくれる気がして幸せになる。
あーあ、このあと予定がなかったらなぁ。
「だめだよ。ちゃんと家に帰ること、いいね?」
「俺ここでなまえの帰り待ってたいんだけど」
「だだこねないでよ、明日なら空いてるから」
「ジミーと会う予定がそんなに大事なのかよ」
最後の一言に思わず、強ばってしまった体を銀さんから離す。
なんでバレてるんだ、なんで知ってるんだ。
なんだか前にもこんなことがあったような…?
家にきた誰かと、こんな会話をして、僕は何か約束をしていたような。
「なんて顔してんだよ」
「……あ」
「なまえは、俺のモンだろ」
正面から抱きしめられて、僕の唇をむにゅっと歯でやさしく噛みついてそのままキスをされる。
流されるように目をつぶればなんだか頭がぐるぐるとしてきて、あの約束は誰としていたんだろう。
あの日は初めてキスするかもしれないって舞い上がって、リップクリーム買ったんだっけ。
僕のはじめてって、いつだ…?
「なまえはどこもやわらけぇな」
ちがう、ちがう、ちがう、まちがいだ。
仕事先にいつも来てたのも、恋人ができてから毎日のように声をかけてきたのも、俺のこと知ってほしいっていってたのも、僕は全部にだめだよって言ってたのに。
あの時、僕の手をとってくれたのは…。
「ちがう…おかしいよ、銀さんじゃ、ない…」
「ちがわねぇよ、俺のこと好きだろ?」
「ッ…ちがう、僕がっ、好きなのは…退くんだ…」
「………ちゃんと教えたつもりだったんだけどなァ」
強く抱きしめられた腕の中で、僕はただ退くんの名前を呼ぶことしか出来なかった。