井の中の蛙は
2019.11.06
荒川 シスター
男主友情 名前変換なし
男主友情 名前変換なし
とても大きな男だった。大木のようなその身体で、彼は傷ついた男の隣に立った。
傷ついた男はそれを見上げながら思った。そこから見える景色は、どれほど遠くのものを映すのだろう。
だから訊いてみたのだ。「おまえにはなにが見える?」と。
すると大木は男に視線を投げ、数秒間、切れ長の瞳で見つめたあと、その口をゆっくり開いてこう言ってのけた。
「シスター」
白衣を羽織った男が、尼装束に身を包む男に話しかけると、尼装束の男は大きな身体をゆっくりと動かして振り返り、その先にいた人物に目を細めゆっくりと口元に弧を描いた。
「おまえか。どうした」
「回診中に近くまで寄ったもんだからね」
「そうか」
「いつもの発作があるなら手当てしてあげられるよ」
「いや、今は平気だ」
「そうか。無理はするなよ」
「ああ。肝に銘じておくとしよう」
その言葉を聞いた男は、大きな男を見上げて笑う。そんな彼を見た尼装束の男もまた、優しく微笑んだ。
「なあ、シスター」
尼装束の男シスターに問いかけた白衣の男の視線の先には、静かにせせらぎをたてる荒川が流れている。それは穏やかな午後を癒す音。見つめ続ける男の瞳はなんと優しいものだろうか。シスターは思った。
「おまえにはなにが見える?」
シスターは彼の質問と、荒川から自分に向けられた彼の真っ直ぐな瞳に戸惑った。そして思うのだ。ああ、そういえばはじめてこいつと出逢ったときもこうだった、と。彼の真っすぐ過ぎる瞳の理由を悟ったシスターは彼を見つめ返し、ゆっくりと口を開いて答えた。
「おまえの世界と、なにも変わらんさ」
シスターの言葉と微笑みに彼は満足そうに笑う。
荒川河川敷。
鉄人兄弟が元気に走り回る微笑ましい光景、リクルートと星の不毛な言い争い、ニノと一方的にガールズトークを繰り広げるP子のマシンガントーク、ぼうっと川を見つめる村長。
なにも変わらない日常がそこにはあった。
彼とシスターの視界には同じ光景が飛び込む。
実に心地いい光景である。
「…ああ、そうだな」
穏やかな午後。大きなふたりが肩を並べる荒川河川敷。いつもの日常がそこにはある。
彼らが出逢ったときからずっと変わらずに。
大海を知っている
(シスター)
(なんだ)
(ニノがお嫁に行ったら、お兄ちゃん泣いちゃうかもしれない。どうしようシスター)
(そろそろ妹離れしたらどうだ)
(シスターこそマリア離れしたらどうなの)
(………)
(あ、発作。ごめんごめん)
2013.11.17
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