見慣れた風景からたまに映える白髪の頭。その少年はひとりできて必ずアイスキャンデーをひとつ買っていく。

名前も知らない白髪の少年。分かるのは近くの中学校の生徒であることくらい。
いつも同じ時間帯に現れる。

時計の長針が天辺へと昇り、時刻はとうとう少年がやってくる時間帯をむかえた。わたしは今か今かと待ち遠しくて仕方がなく、見慣れたはずの店内をきょろきょろと見渡す。

きょうび、わたしはある作戦を練っていた。
もともと人通りの少ない道。そこに運命の靴音が徐々に近づいてくる。



「はい、いつもの」



店内に入って突然ずずい、と目の前に突き出されたアイスキャンデーに、白髪の少年は目を丸くした。
へえ、そんな表情もできるのね。いつも無表情なものだから、少し驚いた。

少年はアイスキャンデーをじっと見つめたあと、わたしに視線をやり、すぐにずらしたかと思えば、なにも言わずにわたしからアイスキャンデーを受け取り、なにも掴むものがなくなってしまったわたしの手にお代をちょうど乗せた。

そういえば、少年はいつもお代はちょうどで、一度たりともお釣りが出たことなかった。



「いつもお代ちょうどだね。いい子ね」



わたしに背を向けてアイスキャンデーを食べ続ける少年の背中に言葉を投げつけるが、それが返ってくることはなかった。

そういえば今日はすぐ帰らないなぁ。いつもはお代を支払うとすぐに去って行ってしまうのに。他の子たちはアタリが出ないかどうかとやきもきしながら店の前でアイスキャンデーを食べきる。アタリならば無料でもう一本もらえるからである。



「ねえ。いつもはすぐ帰っちゃうけれど、アタリ目的じゃないの?あ、もしかしてアイスキャンデーが好きだとか?分かるよ、お姉さんも君みたいな頃によく買っていたなぁ」



記憶の破片を引っ張り出してその懐かしさに酔いしれていると、今まで一度もこちらを振り向かなかった少年がゆっくり首だけこちらにまわし、わたしと視線をがっちり合わせて言った。



「馬鹿にしてるの?」



その様子はとても不服そうだった。
あれ?わたし、なにか機嫌を損ねるようなこと言ったっけ?



「そんなつもりじゃなかったんだけれど…。もしひどいことを言ったのなら謝るよ、ごめんね」



じっと見詰めてくる瞳はまだ不服そうだ。うーん、最近の子の沸点が分からない。やだ、わたしおばさんじゃないのに。

しばらく見つめあっていると少年はぷいっと明後日の方角を向いて「別に」と小さく呟いた。
ふふ。なんだかこの子、かわいいなあ。



「今のは絶対馬鹿にしたでしょ」

「え?」

「笑い、漏れてるんだけど」

「あ」

「どうせ、かわいいとか思ったんじゃないの」

「どうして分かったの!?」

「顔にそう書いてるよ、あんた」

「うそ!?」



つい両手で頬をぺちんと叩いた。そんな馬鹿な。昔の言葉じゃあるまいし、ありえない。



「ククク…俺には分かりやすくていいけどね」



あ、笑った。はじめて笑った顔見た。
なんだ、結構いろんな表情できるんだ。



「少年少年。そこで提案です」

「なに?」

「わたしとお友達になりませんか」

「…は?」



本日二度目、少年が目を丸くした。
あまりに衝撃的だったのだろうか。少年の手から食べ終えたアイスキャンデーの棒が地面に転がる。落ちた棒の先には「アタリ」の三文字が書かれていた。



「あら、アタリだね」



冷蔵庫から冷え冷えのアイスキャンデーを取り出し、取っ手の部分に自分の名前を書いて彼に手渡す。



「おめでとう、少年」

「苗字名前?」

「わたしの名前よ。よろしくね、少年」



夏本番までもう少し。
溶けたアイスキャンデーが少年の手を濡らした。



「もう一本ちょうだい」



次の日。
白髪の少年は「アタリ」と書かれた文字の下に「赤木しげる」という文字を書いて、わたしに棒を手渡した。

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