同じ時間帯に同じものを買いにやってくる白髪の少年、赤木しげるくんは今日も今日とて柱に寄りかかりながらアイスキャンデーを食べていた。
赤木しげるくんという名前を知って、彼の人となりを知って、街中では助けてくれた、うちの常連さん。
あれからまた少しお話するようになったけれどいまだ謎は多く、彼の私生活はもちろん学校生活も謎のまま。
「ね。最近の中学生ってなにして遊ぶの?」
「さあ」
「さあって君ね。お友達と遊ばないの?」
「しない」
しげるくんが店に来るときはいつだってひとりだ。もしかしたらお友達がいないのかも。彼のクールさを見れば一匹狼なのも頷けるけど。
「あ。じゃあ気になる子とかいないの?」
多感の時期ならよくある話。あの子がかっこいいとか、あの子がかわいいとかで話が弾む。
かくいうわたしにもそんな時期があった。
初々しい記憶に想いを馳せていると、しげるくんがあきれた様子でこちらを見ている。
「気になる子ってのは好きな子って意味だよ」
「…はあ」
意味が伝わらなかったのかと思いそうつけ足すと、しげるくんは深いため息をついた。どうしたのかしら。もしかしたら好きな子の悩みでもあるのかしら。
「もしや…気になる子がいるね?少年」
「は?」
「いーのいーの、隠さずとも。しげるくんには日頃お世話になっているし、そういうことならお姉さんに任せなさい!」
胸を張ってどん、と叩けばしげるくんはまたため息をついた。そしてなにごともなかったかのように興味なさげにアイスキャンデーを食べ進める。
あれ?なんか違ったかな?
「好きな子いないの?」
「…別に、そんなことないけど」
「やっぱり!ね、どんな子が好きなの?同じクラスの子?」
しげるくんなら引く手数多なんだろうなあ。年頃の女の子はミステリアスな男の子に惹かれたりするものだ。その点(たぶん)一匹狼なしげるくんは年頃の女の子にとってさぞ魅力的なのだろう。
「外見はどんな子なの?」
「いつもへらへら笑ってる」
「笑顔が絶えない子ってことね。性格は?」
「能天気でお人好し」
「寛大な心を持ってるのねえ」
「…あと鈍感」
「へえ。個性が強めな子が好きなのね」
話を聞く限り、しげるくんは随分と個性豊かな子が好きなようだ。元気系より清楚系やクール系が好きだと思っていたからしげるくんの好きな子像は新鮮だった。
「うーん、そうね。お姉さんからのアドバイスは、その子とたくさんお話することね。毎日会いに行ったり何気ない会話をしたりして親睦を深めて距離を縮めていくの」
「ふーん。会いに行って話をする、ね…」
「あとはその子が困っていたら助けてあげるとか。心配してあげたり優しくしてあげたりね」
今わたしお姉さんっぽい!
それにしてもしげるくんに好きな子かあ。青春っていいなあと、また初々しい記憶とともにむねをときめかせているとちくっと胸が痛んだ。
…ん?なんだ?
「ねえ」
思ったよりも近い声に顔をあげると、すぐそこにしげるくんの顔があって驚いた。アイスキャンデーはもう食べ終えたらしい。
あ、またアタリだ。
「あんたの言うように、毎日会いに行ってアイス食べて、名前を知り合って話をして、不良に絡まれてるところを助けてあげて、あとはなにをしてほしい?」
しげるくんの目が細められる。優しく、ではなく妖しく微笑んでわたしに問いかけてくる。
あれ?これしげるくんの好きな子の話だったよね?でもしげるくんの言ってることってもしかしなくてもわたしのことだよね?
しげるくんが微笑む理由も、わたしに問いかける理由も、こうして顔を近づけてくる理由も、今この状況のすべてが理解できなくて困惑していると「まだ分かんない?」としげるくんがさらに顔を近づけてきた。
「ま、俺も不服なんだけど。いつの間か目で追ってちゃ世話ないでしょ」
「しげるくん…」
いやでも分かってしまう。
いやなわけではないのだけど。
心臓がどくどくと脈打って頬が熱くて。さっきより鮮明に初々しい記憶が蘇る。ううん、記憶なんかより目の前のときめきでもう胸がいっぱいだ。
この甘くて熱い感情をわたしは知っている。
「認めたくないけど、あんたが好き」
「伝わった?」とわたしの顔を覗き込んでくるしげるくんに、わたしはただ頷くことしかできなかった。
とげとげした胸の痛みはいつの間にか消えていた。