いつも同じ時間帯に現れる常連の中学生、赤木しげるくん。話しかけて名前を聞く作戦を決行してみて分かったこと。

3回連続「アタリ」を出すほど強運の持ち主であること。街中で強面のお兄さんと対峙したときに助けてくれて、そのとき心配してくれる優しさと照れ屋な一面を見つけた。

短期間でたくさんのことを知ってたくさんの表情を見た。そんな彼の最新情報は、真っすぐわたしの瞳を見つめて不敵な笑みを浮かべ「好きだ」と言った男らしい一面だった。


あれから1週間。
彼が店に訪れることはなかった。

もうすぐいつも彼が来ていた時間帯になる。ここ1週間しげるくんが来ないか今か今かとそわそわしている。あの日からこの時間帯になるとわたしの心臓が忙しなくなる。



「…しげるくん?」



ふ、と店の中から見えた見慣れた白髪。店の前を横切った君と並んでいたのは君にお似合いのかわいい女の子。スローモーションのようにそれは流れて、気がつけば表へ出てその背中の名前を叫んでいた。



「ちょっと、寄ってかない?」



呼び止めたのはよかったものの、頭が真っ白になってなにを言えばいいのかわからずようやく絞り出した言葉。気がつけば親指で自分の店を指してしげるくんを誘っていた。
なんて愚かなのかしら、これじゃナンパだわ。

女の子はもちろんしげるくんも目を開いて驚いていて。でもすぐいつものように「ククク」と笑ってわたしのほうへ歩いてくる。

え、女の子はいいの?と思ったが、女の子もそんなしげるくんにはじめこそ「どうしたの?」とか「帰ろうよ」とか言っていたけどすべて無視するしげるくんに言っても無駄だと思ったのか怒って帰ってしまった。



「い、いいの?あの子帰っちゃったよ?」

「ああ。勝手についてきて勝手にしゃべりかけられていただけだから」



まあ呼び止めたわたしが言うのもなんだけど疑問を口にすると、しげるくんは興味なさげに答えた。

最近の中学生はドライなのねと考えていると差し出されたのはしげるくんの手。なにかしら?と首をひねると「いつもの」と呟いたのでいそいそと店の中へ戻る。

アイスキャンデーを手にとり振り返ると、しげるくんも店の中についてきたらしくすぐ近くでわたしを待ってくれていた。

しげるくんの手にアイスキャンデー。そしてわたしの手に乗せられるそれの代金。
いつものように柱に寄りかかり食べるしげるくんと、それを座りながら見つめるわたし。待ち望んでいた当たり前の光景がそこには広がっていた。



「ねえ。さっきの、ナンパ?」



沈黙を破ったのはしげるくん。アイスキャンデーを食べながらわたしをじっと見つめ問いかける。さっきのというのはきっと、表でわたしがやっとの思いで絞り出した言葉のことだ。



「あー…あれは、あの…」

「俺をナンパしたってことは名前さんもそういう気持ちってことでいいの?」



しげるくんの視線に耐えられなくなってそらした隙に彼がわたしに近づいてきた。気づいたときにはもう目の前にいて、身体ごとわたしのほうへ乗り出してくる。座っているせいでしげるくんのほうが視線は上だ。



「ね、あの…しげるくん?」

「なに?」



ぐいぐい近づいてくるしげるくんに、後ろに手をついて後退る。すでにわたしの上空はしげるくんに支配されつつある。

支えていた両手が滑り、わたしはそのまま仰向けに倒れた。ついにしげるくんが馬乗りしてわたしに覆い被さってきた。



「あ、ま…まって、」



蚊の鳴くような声は聞こえてくれただろうか。
徐々にしげるくんの顔がわたしに近づき、水滴が頬にぽたりと落ちる感触がした。



「もう、遅い」



耳元で聞こえたしげるくんの言葉に、わたしの声は聞こえたらしい、とほっとする間もなくわたしの心臓は馬鹿みたいに高鳴った。

なぜならしげるくんがわたしの頬に落ちた水滴を舐めたから。溶けたアイスキャンデーの水滴はさぞかし甘いことでしょう。



「名前さんの答え、聞かせてよ」



ああ、なんて甘いのかしら。
アイスキャンデーより甘ったるい目の前にいる年下の生意気な彼に、肯定以外の答えなど持ち合わせていないのだから。

言葉のかわり、ミルクの香りが鼻を掠めた。

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