「「ふっじわっらくーん!」」
「「お邪魔しまーす」」
「は?」
扉を開けると、怪奇な服装をした名前とチャマが近所迷惑にも声高らかに叫んだ。突然のことに呆気にとられる俺をおいて、升とヒロの言葉を先頭に俺の部屋にずかずかとあがりこんでくるいつもの4人。
「藤原、お茶ちょうだい」
「藤くん、茶!」
「抹茶?」
「チャチャチャ!」
いまだ状況が把握できないというのに、奴らはそんなこともお構いなしに悠々と寛いでいる。ヒロとチャマが図々しくもお茶を要求してくるし寛ぎ過ぎだ。升と名前に至ってはもはや意味が分からない。
「おまえらなんなの、突然」
とりあえず人数分のお茶を出して問いかけると、名前とチャマが「信じられない」とでも言いたげに驚愕した顔で俺を見た。そんな顔をされても困る。升とヒロを見ると溜息をつかれた。まじでなんなんだおまえたちは。
「直井の奥さん、聞きました?」
「ええ!聞きましたわ、苗字の奥さん」
「だからなんなのよ?」
「素敵イベントを忘れるなんてねえ!」
「ありえないありえない!」
「素敵イベント?」
素敵イベントねえ。
たしか今日は10月末日。なにかの発売日でもないし、楽しみにしている番組もないし、名前が聞いたら騒ぎそうな祭だなんだのという噂も聞かない。
末日なんて特になにも…あ。
「「トリックオアトリート!」」
「…忘れてた」
俺としたことが、こいつらがこういった行事に敏感なことをすっかり忘れていた。
俺の言葉を合図に魔女の格好をした名前と白い布を被ったチャマがにやりと笑う。だからこいつらこんな変な格好してたのか。
「悪戯開始ぃ!」
「イヤッホーイ!」
どこから引っ張り出したのか、ふたりの手には悪戯グッズが握られていて部屋を改造していく。改造と言っても部屋に飾りをつけているだけだけど。
「ね、知ってた?」
「ハロウィンだべ。たった今知ったって…」
「そうじゃなくてさ」
升も巻き込んで悪戯をはじめる名前とチャマを遠巻きに見ていたら、珍しくそれに参加しないヒロが話しかけてきた。今知ったから部屋がこんなありさまだというのに、ヒロは俺の言葉を遮って続ける。
「名前ったら、最近藤原が元気ないから元気づけるんだって今日に備えて張り切っちゃってさ」
「かわいいとこあるよね」とヒロは笑いながら悪戯組を見て「俺もやる」と彼らの悪戯を手伝いに行った。
そういえば仕事に体調不良が重なったりして最近疲れが溜まってろくに笑っていなかったかもな。
「藤くん!みてみてー!」
俺に手を振り楽しそうに笑う名前を見ていたら、自然と口許に笑みを浮かべている自分に気がついた。
俺のためにこうして元気づけようとしてくれたり俺に笑いかけてくれたり。そんな名前の気持ちが嬉しくて、心が温かくなってきて、ああやっぱり俺はあいつのことが好きなんだなって改めて実感する。
きみがくれた温かい大切な気持ちを胸に、笑顔で手招きするきみの元へ駆け寄った。
悪戯も元気もきみにあげる!
(みてみて〜うさぎ描いた!かわいくない!?)
(うさぎに見えねー!俺のほうがうまいし!)
(そんなの妖怪じゃんー!)
(っていうかうさぎは黄色じゃなくね?)
(秀ちゃんったら、突っ込むところそこじゃないでしょ?ふたりともどっちもどっちだよ)
(いや、ヒロも違うべ。窓にスプレーで落書きすんのやめてくんない。いや笑顔になれねーよ涙出てきたわ)
2013.07.07 fix.
実はこれはじめはハロウィンの短編小説だったのですが、のちに続くクリスマスの小説とリンクさせたので「じゃあシリーズにすんべ」と思ったのがはじまりです。
ということでここから「ふじわらくん」シリーズのはじまりはじまりでございます。