「シャンペンもってきたよ」



うん、だからなに?

言葉を発する前に、名前を筆頭に許可もなくずけずけと家にあがり込んできたいつものメンバーにため息をついた。これ見よがしに升がシャンパンを見せつけてくるが、その意図は俺には理解し難い。(ごめんな)



「なんだよ、ハロウィンのときみたいに部屋を滅茶苦茶にするつもりか?」

「俺たちが敬愛する藤くんにそんなことするわけないじゃん!」

「チャマの言うとおりだよ、当たり前だのクラッカー!」

「いや、してたからね。おまえらしてたから。物的証拠残ってるから」



ハロウィンのとき、こいつらに落書きされた跡がいまだ残ったまま。エタノールなどで落とそうと試みたものの、油性で描いたため完全には消えず薄らと物的証拠が残っていた。

勝てる。今なら裁判で勝訴してみせる!



「まあそれはおいといて」

「どこに」

「わたしたちはね、藤くんが寂しがってるかなって思ってきたんだよ」

「そうそう。やっぱ独り身にクリスマスの風は冷たいもんね」

「おまえらも独り身だろ」



なに俺のために仕方なくみたいな雰囲気出してんだ。そんな空気を作っても無駄だ。俺はハロウィンで学んだんだ、もういい感じの雰囲気には流されないと。

俺の正論に全員言葉はなく、一時的な静寂が部屋を支配したあと、奴らはとうとう本性を現した。



「だって奮発したシャンペンぶちまけたいじゃん」

「本音はそれか」

「浮かれた世のクリスマスをね、ボカンと一発」

「笑顔で怖いこと言うなよ、ヒロ」

「そうそう見せしめでね」

「誰へのだよ」

「まずは手はじめに藤原の部屋をボンッ…だぜ」

「升はシャンパン置いて黙ろうか」



相変わらずどうしようもない奴らだ。現実味のない話だが目は本気だから困る。

こうなった以上、無理に止めるとしょうもない陰湿な嫌がらせが続くので潔く諦めることにした。ちなみに今まで受けた陰湿な嫌がらせは、冷蔵庫の中全部を葱一本にすり替えられたり、煙草のパッケージはラッキーストライクのままなのに中身をわかばにすり替えられたり、シャンプーとリンスをすり替えられたりと、どうしようもないものばかりである。(今思えば全部すり替えだ)



「笑顔になったね」

「ヒロ…」



よかった。先ほど見た、世界の破滅を喜んでいるようなヒロじゃなくて。俺の隣に座ったヒロは、シャンパンを囲んであーだこーだ言い合う3人を見て笑っていた。



「結局いつものメンバーだね」

「そうしたのは誰だよ…」

「主にあいつらだよ」



「俺は悪くないもん」と笑顔であっさり仲間を売ったヒロは年々強くなっていると感じた。そして思った。こいつ、罪をあいつらに全部押しつける気だ。
ハロウィンの日、あいつらに混じってデカくて気持ち悪い絵を描いたのはどこのどいつだよ。おまえの描いた猿人がいちばん濃く残ってるんだぞ。



「藤原、最近疲れてるでしょ?俺たちこれでも心配してるんだ。だからもっと俺らに頼ってよ」



少し眉を下げて言うヒロに申しわけないと思った。たしかに疲れが溜まっている。こいつらに相談したことはない。
ハロウィンのときだってそうだ。それが理由でこいつらは俺を元気づけようと盛りあげてくれたのだ。



「頼りなくても、笑顔にするのは自信あるからさ」

「ヒロ…」



ヒロの言葉にとてもありがたいと感じ、静かになった3人にも感謝の念を抱いたのは事実だ。なんだかんだ言いつつもこいつらは俺の心の支えになってくれている。



「もうその手には乗らねえよ?」



でもそれはそれ。これはこれ。
感動的な言葉でお許しを得ようなんていう姑息な手、もう乗るか。ハロウィンの日に言われてのちに残念な結果を生んだことを俺は学習しているのだ。



「……ッチ」



わあ。人間って笑顔のまま舌打ちできるんだなあ。それでも俺は決してめげない。正直もう泣きそうだけどめげない。そうすればいつの日にかヒロだけでなく、先ほどから静かな3人にも伝わると信じているから。

ん?静か?不思議に思い奴らを見ると、名前とチャマがふたりでDSで遊んでいた。おまえらなんであっさりとDSしてんの?さっきまでシャンパン囲んであーだこーだ言ってたくせに。
というか升はどこ行ったんだ?見当たらないぞ。



「おまえら、シャンパンと升どうしたの?」

「シャンペンのやり方分かんなくて秀キチに任せたよ」

「だから今は秀ちゃん待ち。あ、秀ちゃん」

「待たせたな!これでシャンペンは完璧だ!」

「なにしに行ってたの、升?」



なぜだろう。折角シャンパンで騒がなくなって一安心なはずなのに、名前とチャマの余裕そうな態度と、シャンパンを手にした升の自信に満ちた表情で不安に駆られるのは。



「いやあ、あいつらシャンペンの開け方分かんないって言うから、俺がちょぴっと栓抜きの力を借りつつ開けてあげたんだよね。あ、キッツィンの栓抜き借りた。ありがとう」



この際、代名詞のむかつく言い方は見逃そう。
栓抜きを手渡されたものの、升の手に握られたシャンパンのコルクはまだ抜かれていない。



「中身をよく振ってコルクも少し緩めたし、あとは自動的に開くのを待つだけだな!」



今年いちばんだと思われる升の自信満々な笑顔を見てぞっとした瞬間、コルクは勢いよく抜けて窓に刺さり、シャンパンの雨が俺の部屋を覆ったのだった。





メリークルシミマス
(イエー!メリクリィイ!)
(メリクリイエーイ!)
(うぉおおおメリクリー!)
(升、ちょっとそこ座りなさい)
(宣言通り俺は無実でしょ)
(増川もその隣に座りなさい)
(怒られてやんの、ダッセ!)
(プスプス、ふたりともダッセ!)
(おまえらもだべ。全員正座で整列)

(おまえら全員、今日は寝かせねえ)
(((般若みたいな顔してる!)))
(やっぱり飽きないメンバーだなあ)



2010.12.24
般若藤原が 勝負を しかけてきた! ▼
チャマは ひるんだ ! ▼
名前の かたくなる ! ▼
秀キチは にげられない! ▼
増川は なまけている ! ▼

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